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【外伝-2】 (ネコ耳サムライTS転生物語。ニホンは摩訶不思議な所でござるなー)スルガの国のミウラの主でござる  作者: モコ田モコ助
熊野詣で(夏)編

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9.クマノ街道

 翌日。日の出前に出立でござる。


 海の幸てんこ盛りの朝ご飯をたらふく頂いて、お昼のお弁当を作って頂いて、出立にござる。


「神獣様の巫女様、もう幾日かゆるりとお過ごし下さればよろしいのに」

「昨夜は大変為になりました、神獣様の巫女様。神獣様について、長い間の疑問が晴れました」

 小宮司殿と大宮司殿からの挨拶でござった。


 そしてお婆殿。


「イオタ様、お悩みでごじゃりますか?」

「う、うむ……」


 きっと、いつかはアシムラなんとかと出会うだろう。そのとき、どうすればよいか悩んでおる。

 斬り捨てるのは簡単でござる。されど、逆恨みされたまま、晴らすことなく黄泉の国へ送るのもいささか気が晴れぬ。


「必ずアシムラと出会うときが来るじゃろう。その時は――」

 お婆様の濁った目が、一瞬だけ澄んだ。

「迷わず殺されるがよい」

 絶句……。


「お婆のせいにすればよろしい! お婆が殺せと命じました! だから殺した。罪はすべてこのお婆が背負いましゅる! それでよろしゅうございましゅる!」

 お婆、こんなにはっきりと早口で喋れたのでござるか?


『イオタさん。イオタさんが嫌がるなら、わたしが殺しましょう。アイツは生きている資格がありません。きっと、他人を妄想に巻き込んで不幸にします』

「いや、よい。出会ったときは、某が対処する!」

 ポンと腰の刀に手を置いた。


 これは、某の運命でござる。思えば、何も悪いことしてないのに、と逃げてばかりおった。

 前世にて――タネラへ辿り着くために、何でもした。何もせずとも、不幸はやってくる。生きて辿り着きたければ、それを力ではねのけねばならない。事実、はね除けてきた。

 今生の生を余剰だと思うべからず。某は前のめりに生きていく!

 

 帰りは寄らぬ予定なので、イセ神宮の方々とはここでお別れでござる。


「……まあ……神獣様と神獣様の巫女様でしたら、越えられるでしょう」

 大宮司殿が、なんか不吉なことを言うておられる。

 

「では行くかミウラ!」

『へい! 参りましょう、旦那!』


 今日の目的地は、クマノ川の河口にあるハヤタマ大社でござる。そこでヤマトの主と待ち合わせでござる。なんでも、ここから先は道が入り組んでいて素人ではクマノ大社に辿り着けないそうな。


 一旦西の山へ分け入り、クマノ古道イセ路に入る。


『ミツエ、ソニ、ウダを通って、ナラ盆地へ入り、ゴジョウへ至り、そこから南下してヨシノを縦断するルート、街道もございますが、イオタの旦那のリクエスト、希望を受けて、あえて悪路ですがクマノ灘を望む古道をチョイス、選択いたしました』


 ……だ、そうでござる。


 いきなり峠道でござる。ネキ峠でござる。


『現世では、女鬼とかいてメキと発音する峠ですが、なぜか只今では、もう一つの呼び名、ネキ峠です。たぶん、根木と書くんでしょうかね? 木の根っこがウネウネしていて歩きにくいことこの上ありません。ただし二足歩行動物にとって! 無敵四つ足伝説の始まりです! わたしのことを四つ足の魔術師と呼んでください! ヨーロピアンミュージック・カモン!』


 ヒョイヒョイと調子を取って進めれば、余計な力を使うことなぞござらぬ。幸い、人通りが少なく、歩く速度を変える必要がないので、疲れも溜まりにくい。

 ……しかし、これ、道でござるか?


『万が一の時は、わたしがヒーリングを掛けますんで! 射精後の回復以外でヒーリング掛けるのって初めてかも?』


 峠を越えるとまた峠でござる。そこを越えるとまた峠でござる。一体、幾つ峠を越えさせる気でござるか?


『峠を越えたらどうなるかだって? 知らんのか? 峠が始まる』

「さてと!」

 前もって手に入れておった地図を見ると、十個以上の峠がござった。……これ、道じゃないよね? 山って言うんだよね? 普通の人間に越えられる峠じゃないよね? 現に、一人として旅人とすれ違っておらぬ。

 大宮司殿が言ってた「越えられる」って、この道のことでござったか!


『ここで4つめですね。ツジラト峠。つづら折りから来てるんでしょうか? おっと! 海が見えますよ! クマノ灘ですよ!』

「おお! 絶景でござる!」


 緑と黄緑の山、谷間に町が見える。ここからだと逆三角形に広がっておる。広がった先に、青く霞んで海が見えるでござるよ!


「ちょっと早いでござるが、この景色を見ながらお弁当を頂こう」

『賛成です。こういう景色はちょっと来いでは見られませんからね!』

 ミウラも腰を下ろした。


 さて、イセ神宮で用意してもらったお弁当でござるが……。

 お握りはよいとして、おかずでござる。アワビの乾したのを紐状に伸ばした? 熨斗でござるか? 


『御禁裏御用達の熨斗ですか? ご祝儀袋の熨斗の原型となったアレ? 右上に印刷されてるアレ?』

「……のののののの熨斗でござる! 帝御用達の熨斗でござる!」


『慌てないでイオタの旦那! 最近忘れがちですが、本来、神獣の巫女であるイオタさんの地位は、帝と対面で話が出来る程なのです。むしろ熨斗をいただかない方が失礼ですって!』


 で、ござるか?


「じゃ、じゃあ、半分こしよう」

 責任感を半分ミウラに譲渡するのでござる。


『では遠慮せずいただきます。ぱくり。しゃぶしゃぶ、ふむふむ、これは! お酒が欲しくなる味、お出汁そのもの!』


 某もしゃぶるとするか。パクリ。ペロペロペロ、しゃぶしゃぶしゃぶ、じゅるじゅるじゅる、ペチャペチャペチャ、じゅっちゅじゅっちゅじゅっちゅ。うむ! 旨い! 奥深いお味でござる!


『はぁはぁはぁはぁ……。いえ、なんでもありません。オノマトペ考えた男を呼んでください。褒めてつかわす!』

 ミウラがおかしいのはいつものことで、放っておいてお弁当をいただく。


 塩の利いた旨い握りでござる……巫女さんが握ってくれたのでござろうな? まさか、巫女頭殿が……若くてピチピチした巫女様でござる! 巫女様巫女様巫女様……。一心不乱に念じていると、お握りが巫女様の味に思えてくるでござる。これがミウラの言う脳内麻薬とかでござろうか!

 

 して、峠道もスタコラと通り抜け、初めての村でござる。その辺の者を捕まえて地名を聞くと「ナナナナ、ナガシマでごぜいやすですます! 一体どこからこの村へやってこられたので?」と聞き取りにくい発音で教えていただいた。

 山を越えてイセからと言うと、なぜかドゲザされたのでござる。はて?


『ここもナガシマですか? 確かに川の影響で沢山の中州、というか島っぽいのが多いですね?』

 中州を迂回したり、川を飛び越えたりして手早く通り過ぎる。すぐ後ろに山が迫っておるので田んぼが少ない。代わりに、入り組んだ入り江に船が多く泊められている。


『なんとか水軍? クマノ水軍、って聞いたことありますけど? 荒っぽいので有名な……』

「うむ、触らぬ神に祟り無しでござる。ここは早急に」

『以後、集落に入ったら、足早に抜けるように致しましょう』


 逃げるようにしてナガシマを抜ける。そして当然のように峠道へ入る。ここは所々で海が見える。風光明媚でござる。


 三つか四つか、ひょとしたら五つばかり峠を越えると、開けた場所に出た。

 ナガシマと同じく、集落を無防備で歩いていた男を捕まえ、村の名前を聞く。


「え、ええ? どこから? イセから山道をぉー? は、はい! ここはオワセでございますでございますです!」


 今度の男は直立不動で答えおった。なんで、どこから来たかを聞いただけで驚くのか? 神獣と神獣の巫女と名乗ったときより驚かれる。


『解せませんね?』


 ついでに、道を聞いた。クマノ古道のイセ路は獣道か枯れた川か街道か、見分けが付かない。

「こ、この道まっすぐ行って、山にぶつかりますんで、そこに分かりにくいですけんど、小さい祠がありまして、その後ろから山の方へ上に伸びるのが街道です!」


 その方向を見ると、完全に海に張り出した、壁のような山が見える。山の角度が、これまでの山よりきつそうでござる。むしろ垂直でござる。

 ……あの山塊を越えればクマノでござるが……


「ヤキ山越えと呼ばれてまして、西国第一の難所で有名です。山賊や狼が出没しますんでご注意を!」

「山賊や狼は何ら障害にはならぬから良いとして、景色は良いのでござろうか?」

「そ、そりゃもう! 噂では、晴れた日に峠の天辺からフジのお山が見えるって話です!」

「それは楽しそうでござる。助かったでござるよ。何か礼をしたのでござるが、生憎持ち合わせがござらぬ」

「今すぐ解放していただければ! 命さえあれば何も要りません!」


 解せぬ。

 

 して、祠も無事見つけ、山へ突入でござる! これ、街道と呼んでよいのでござるか?

 途中、男の話したとおり、山賊と狼が出てきたが、ミウラの雷と某の小太刀で事なきを得た。


『怖いですねー、いきなり山賊が出てくるなんて』

「出会い頭でござったからな。向こうも驚いていたのではござらぬか?」


 して、たぶん十個はなかったと思うが、たくさん峠を越え、どうにか日が暮れるまでにクマノの町へ着くことが出来たのでござる。

 

――三ΦωΦ三――


 オワセの集落にて……

 イオタとミウラが山へ突入した。

 集落中に神獣と神獣の巫女がヤキ山越えとしていると広まった。

 皆が、何とはなしに、ヤキ山を見上げていると――


 ――雷が山に落ちたぁー!

 ――幾つも雷が落ちているー!


 誰からともなく、集落に住まいする者全員が、膝を付き、両手を合わせて天に祈った。




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