6.イセ路
トオトウミに出現した魔獣を片付け、一路東海道を西へ西へと進む。
『魔獣のナレ死でございます』
ショウナイ川とかキソ川とかをどんどん渡っていく。渡し船を使わず跳躍していく。銭が節約できて嬉しい限り。
『イオタの旦那は貧乏性でございますからなねぇ』
「この辺ではござらぬのかな? ナガシマとか呼ばれていた土地は?」
『信長公が長島一向宗に手こずってた所ですね? ちょっと見ただけでも川が複雑に入り組んでて、天然の堀と化してますな! 渡川戦を幾重も何度も繰り返していては、どうかやっつけてくださいと言ってるようなもの。おまけに重たい火縄銃を携帯しにくいわ、展開しにくいわ。大軍殺しの地形ですな!』
さすが賢者ミウラ! 久々に大軍師様の講談を聞いた気がする!
「先ほどの平たい土地がトビシマで、先に渡った州がナガシマだそうな」
そこですれ違った地元民の人に教えてもらったのでござる。毎年川が氾濫するので、この辺に住む人は訳ありなのだそうな。
「おや? たしかここは有名な、七里の渡し、というのがあったはず? 見あたらぬな?」
『江戸時代に東海道が整備されてますから、その時出来たんじゃないですか? だから今はない、とか?』
「そうでござるのかな? だとすると、さすが大権現様でござる。お金持ちでござる!」
知らんけど。
して、この地域最後の大きな川、ナガラ川を渡ると、そこはクワナの焼き蛤でござる。
上手い具合に蛤漁をしていた若い衆に出会った。蛤を分けてもらって、ついでに焼いてもらっとる所でござる。良い匂いでござる。
ミウラを連れていると、食い物に困らぬ!
『強制的ですからね。でもお金は払っておくんですね。皆様、驚いております。おっと、焼けたようですよ!』
作り置いておいた溜まり醤油を蛤に掛けると、えもいわれぬ美味しそうな匂いが!
「よし! みんなで食おう!」
「え? よろしいので?」
「かまわんかまわん! 遠慮せず食え食え!」
ということで、大勢で蛤を食す事となった。
「うまいうまい! ほれ、ミウラ……の主も一つ」
箸で掴んでアーンさせる。
『パクリ! おっ! こりゃ旨い! 自然破壊される前に食うクワナの焼き蛤の何と贅沢なことか! もう一つ下さい! パクリ!』
ミウラもお気に入りのようでござる。
「あの巫女様……神獣様は、なんて言ってますんで?」
漁師の一人が、恐る恐る聞いてきた。側で虎並のネコが蛤を食っとるのだから、怖がらないだけまだマシというもの。
「ミウラの主は、ここの蛤は美味であると仰せでござる。贅沢な食べ物だと一際感心しておられる」
「へぇー! そんなに旨ぇんですか?」
「大きさといい、旨味といい、他のとは違うな」
『大きな川が多いから、栄養がたくさん流れてきて蛤が大きく育って美味しくなるんですよ。この川の恩恵ですね。他ではこうはいきません』
そのまま伝えてやる。
地元の蛤を褒められたからだろう、漁師達は自慢げな顔をしておるわ。
『後年、ミウラの主が旨い旨いと何個も食ったクワナの焼き蛤。ってキャッチで売り出されるのであった』
「ふー、堪能したでござる。帰りも頂こう」
焼き蛤を早めのお昼と致した。お弁当に握ってくれたおにぎりも食べて腹を膨らます。
『この時間でクワナまで来てしまいましたからね。普通、何日もかかりますよ。昔はナガシマ周辺を抜けるだけで1日かかったって聞いてますよ』
「神獣と神獣の巫女の足は速いでござる。逆に早くないと、人に囲まれて前へ進めないでござるよ。では行こうか。世話になった」
漁師さんに見送られ、先を急ぐ。
この辺り、川がやたら多い。川に足を入れて渡ったり、ミウラの跳躍を使ったりして越えていく。……川を渡る度、いちいち草鞋や脚絆を脱いだり履いたりするのが面倒でござる。
『白いおみ足を眺められるだけで本望ですが。見学の方々は疲れが吹き飛んでおられるご様子』
周りの人達が拝んでおるのでござるが、ミウラに対してではないのでござるかな?
ヨッカイチと呼ばれる新しい町を過ぎて、しばらく進むと街道の分岐点にさしかかる。油断すると見過ごすほど地味な分岐点でござった。
「このまま西へ向かうとキョウでござるか?」
『東海道とはここで別れます。南に下る街道がイセ街道です。本格的に整備されるのはずっと後の時代でしょうから、はてさて、どんな道路状況なのでしょうか? 道路って認識できれば御の字ですね』
「面白そうでござる。では、踏み込むと致そう」
して――
海が見えたり、海が見えなかったりと、平坦な街道をポクポク延々と歩いておったら、それっぽい川の手前で巨大な鶏、イセの主が待っていてくれたでござる。
いつもの事ながら、イセの主の後ろで、大勢の神官様方が控えておられる。
『思ったより早かったな。イオタ、ミウラの主、イセの主が歓迎するぞ』
「お世話になります」
『よろしくお願いします』
二人して頭を下げる。
『イセの主がお迎えに来て頂いたという事は、ここが有名なイスズ川ですか? ウジ橋はどちらでしょう? あれ? 流されてしまいました?』
ヘヘンと胸を張るミウラ。物知りでござる!
『いや、ここはミヤ川だ。トヨミヤ川とも呼ばれているが、略してミヤ川だ。ウジ橋は奥のイスズ川に掛かっておる、と、言いたいところだが、梅雨の洪水で流れてしまって今は無い』
「ミウラ~!」
『ミヤ川は禊の川であるからして、この川で禊を済ませてイセ神宮へお参りするんです。だからワザと橋を架けないとの説もあります!』
早口のミウラでござる。
「本当でござるか? イセの主?」
『人と言葉を交わしたりせぬからな。真実は知らぬが、この川の橋など見た事がない。たぶん、悔し紛れか負け惜しみでそう言ってるんだろう』
「だ、そうだ」
『有力な説の1つですね』
ミウラは負けず嫌い、と。
して、後ろの神官の方々が、某の事を眉をひそめて見ておる。
「えーっと、こちらにおわすお方は、スルガとサガミと、ついでにイズとトオトウミを守護する神獣、ミウラの主でござる」
「え?」「なんと!」などと口々に叫びながら以下略でござる。
この方はイセの大宮司殿でござった。小宮司様と普通の宮司様もおられた。
して――
「あなた様が神獣の巫女、イオタ様? 確かにネコ耳ネコ尻尾でありますが、そのお召し物は……」
お召し物と言われても。
「旅をするにあたり、巫女装束では足裁きが悪いでござる。故に小袖と袴、そして手甲脚絆でござる。どこか意に沿わぬ所でもござるのか?」
『イオタ、この者共は権威原理主義者だ。イセ神宮という権威を笠に着ておる。逆に言うと、この者共の頭を下げさせようと思ったら、思い切り着飾れば良い』
「ほう! ならばお見せしよう。神獣の巫女。変身!」
ツーと言えばカー。某の意を汲んで、ミウラの神通力全力開放でござる!
「一瞬でござるよ、オッパイポロリは禁止でござるよ!」
『いきますよー! ハニー・フラーッシュ!』
ズバンと音を立て、着物が切れ切れに吹き飛んだ。オッパイぽろんのブルプルンでござる!
「おいミウラ!」
ドピュッ、ビュルルル! といかがわしい効果音を立てながら光のサラシが体に巻き付いていく。ちょ、股間を絞めるな! オッパイを締め上げるな!
「おぬしら、見るなーっ!」
ビカリと激しく光り、イオタさん巫女装束登場でござる。
「イオタ様を我が主と認める!」
ズバッと土煙を立て、神官の方々がドゲザにござる。
『イオタを我が主と認める』
イセの主も正座でござる。鳥足で正座にござる。
「ミウラぁー!」
『痛っ! 結果オーライだから、痛い痛い痛い!』
肉袋を掴んで捻り上げた。




