5.アツタの夜
夜、アツタ神社がお風呂を用意してくれたでござる。助かるでござる!
『ではご一緒いたします』
『わたしも同道しよう。あ、これ、なにをする! 中から鍵を掛けたら一緒に入れぬではないか!』
『イオタさん! ちょっ! サービスシーンですよ! 蛇と絡まるアレ!』
湯船に入れてもらったでござる。
旅はまだ一日目でござるが、夏でござる。葉月『新暦で8月です』でござる。日向でじっとしているだけで汗が滝のように流れる季節でござる。
『だから、汗を流してさしあげましょうって言ってるでしょ?』
『イオタ! きさま、神獣様が前を、もとい、背中を流してやろうと言ってるのだ! 神獣による勅命であるぞ! ありがたく受け取るべきじゃないのか!』
風呂の外で、なにかが騒いでおるが、気にしなくてよい。覗くのは良いが、覗かれるのは嫌でござる!
湯船につけ込んだ手ぬぐいで、首筋を拭う。
おっぱいの下のほう、下乳も汗で濡れやすいところ。湯の中で拭いておく。おっぱいが湯に浮かぶので楽ちんでござる。
「さて湯船から上がるか、ザブー!」
『湯船から出る音ですよギフの主!』
『うむ、おっぱいとか、お股とか、そこかしこから水滴が滴っておることであろう。目に浮かぶようだ』
持ってきた石鹸を手ぬぐいに擦りつけ泡を立てる。
これも首筋から脇、胸元。右を手ぬぐいの泡で洗う。左も同じように。
『そういえばギフの主。蛇はピット器官を持ってるはず。戸板一枚程度、透視できるのでは?』
『さっきからやってるのだが、風呂の室内部は温度が高すぎて、イオタはボヤーとしか確認できん。くっそザコ器官め!』
背中を洗って、お尻を洗う。ついでお股を前から後ろへ。この洗い方は前世でミウラに教えてもらった。
『泡ですよね? 泡立てている音?』
『泡がイオタの体を覆う……か……今夜はこれでいいや』
太股を洗い、膝の裏から脛、脹ら脛と洗っていき、足の裏を最後と致す。
『イオタさんは上から洗うタイプなんですよ。足から洗う女性の方もおられますが』
『どっちにしろ、真ん中はお股とお尻であるな。是非もなし!』
最後に頭を洗い、全身にお湯を掛ける。お湯を節約するためでござる。
もう一度湯船に身体を浸す。
「ふぃー」
『入りましたよ。もう一度湯船に入りましたよ! 今頃、おっぱいが湯に浮かんでますよ!』
『なにっ! おっぱいが湯に浮かぶというのは、都市伝説ではなかったのか! 実話なのか!?』
長いこと入っていても身体が熱くなるだけでござる。短めにして出よう。ザバー!
『出ましたよ! 湯船から!』
『静かにしろ! 女体から滴る水音を拾うのに忙しい!』
脱衣所で、身体を拭き拭き。おパンツはいて、おブラを付けて、お着物を羽織る。
髪を乾いた手ぬぐいで括ってできあがり。
「良いお湯でした」
戸を開けると、ミウラとギフの主が脱衣場へ倒れ込んできた。某の目の前を切り倒された大木のように転がって行きおった。
「お二方とも、神獣様なのでござるから少しはお控えなされよ。小さい子供も見ておるのでござるよ」
『はい、すんません』
『神獣の立場を忘れておりました所を反省してます』
神獣を正座させての反省会でござる。猫型神獣と蛇型神獣の正座でござる。
「よい子にしておれば、おっぱいを見せるかもしれぬが――」
『本当ですか?』
『ってことはイオタは神様ですか?』
「――悪い子には見せぬ」
『よい子の神獣を目指します』
『正義のために邁進します。以後重々注意いたします』
なんで、神獣を叱りつけねばならぬか? 解せぬ。
して――
巫女様主催の神楽舞をミウラとギフの主と某で観覧しておるところでござる。
ミウラはお座りの姿勢。ギフの主は蜷局を巻いて。某は茣蓙に座って。
『ちなみに、イオタの旦那のお衣装は神獣の巫女装束でございます』
鈴をシャンシャンと鳴らすところが粋でござる、風情でござる、巫女様がお綺麗でござる。
「ささ、一献」
「頂こう」
一番お若い巫女様のお酌でござる。
『前にも言いましたが、結婚式で三三九度するときに巫女さんが、両手を使ってお酒を注いでくれる、あの柄杓みたいなのが、この時代のお銚子です。念のため』
お酒は濁り酒でござるが、何度か布で漉しているらしく、見た目は透き通っておる。……ちょっと黄色がかっておるが。
『なあイオタよ、若い子が綺麗なおべべを着て優雅に踊っておるのは悪いとは言わぬが、……見ていて面白いか?』
「楽しいでござる」
あまり詳しく翻訳したり、考え無しで受け答えをすると、神獣様が面白がってない事がバレルので、頭を使うところでござる。
ゆったりとした動作。幽玄というか、奥ゆかしというか、アレというか、良き雰囲気ではござらぬか。焚き火で揺れる明かりもまた良い! かような贅沢は初めてでござる。寿命が四十五日伸びたでござる!
『ゆったりと時間の過ぎる様をのんびりと眺めるのも、たまにはよいか』
良いのでござる。
して翌日。
夏の夜明けは早い。日が上がってないというのに、あたりは明るい。
朝ご飯は山盛りの白米に、青物が浮かんだ味噌汁。小魚を焼いたのと香の物。ウマウマでござる!
朝飯をたらふく食い、旅の装束を整え、アツタの皆様に挨拶をする。
「昨夜は世話になり申した。心よりお礼申し上げる」
深々と頭を下げる。
「何を仰せでしょうか! アツタに神獣様を二柱も迎え、さらに神獣の巫女様をもお迎えいたしたこと、我らの誇りにございます。どうか、お帰りの際も、お立ち寄り下されば、これに勝る喜びはございませぬ」
宮司様ご一行も、深々と頭を下げられる。
ここまで歓待していただけると、なんだか悪い気がしてきた。
『そうでもないですよ。アツタは神獣様と巫女様をお迎えした神社と言うことで、偉そうに出来ますからね。ギブアンドテイク、相互利益ですよ』
「イオタ様、ミウラの主は今何と?」
宮司殿が期待を込めた目で某を見ておる。褒めて! とばかりに尻尾を振る犬のようでござる。
「ミウラの主におかれましては、帰りの宿泊が楽しみである、との仰せでござる」
だからつい、情に引かれてしもうた。
「もったいなきお言葉!」
宮司殿の目が赤い。いかん、この御仁、感動体質でござる!
そして、期待の籠もった目でギフの主を見上げる。
「で、では、ギフの主も、何か一言お願いいたす」
『おっぱいおっぱい』
「ギフの主は今、何と?」
「一言、大儀である、と」
直訳しても良かったのでござるが、それすると神獣様信仰が崩壊するでござる。日の本が戦乱に巻き込まれるでござる。
某、日の本を戦乱から救ったのでござる!
「ああああ、有り難き幸せぇーゲォエッ!」
「空えずきでござるか? 感情が混線しておるのだ。落ち着かれよ!」
して、手配していただいたお昼のお弁当を背嚢にしまう。あとで涼しい収納へ収めよう。
「皆の衆、世話になった! ギフの主、お世話になりました」
『陸路、伊勢湾をぐるっと回ってイセ神宮でお泊まりです! イセうどんって、この時代あるのかな?』
『イオタよ』
ギフの主が改まっておられる。いかがした?
『……イオタが神獣の巫女になってくれて良かったと思う』
蛇独特の縦長の瞳が、この時とても綺麗に見えた。
「おっぱい?」
『それもある』
「では出発でござる!」
『おっと、トオトウミで魔獣反応です!』
『むっ! ミカワの北で魔獣の気配が!』
幸先悪いでござるッ!




