2.旅の計画
神無月のクマノ集会の下見を兼ね、ミウラと二人連れで旅をする。
問題は魔獣が出た場合でござる。
『え? 縄張り内で出たら感知できますから、すぐに対処できますよ。虹の輪を潜って、やっつけて、また潜って元に戻るですよ』
「……そんな話だったっけ?」
『始めっからそうです』
「留守の間、ご近所様に任せるというのは?」
『領土の境界線の話ですね。ややこしかったら許可無くとも内側へ踏み込んでくださいね、って』
「そういう後付設定でござるか?」
『いやだなぁ! 最初からですよ。おや? わたしの説明が不足してましたかね? 神ならぬ登場人物は完璧ではありませんからねぇー』
「……そう言うことにしておこう」
して――、魔獣が出た場合、感知できるのですぐに対処いたす。
この計画を上に上げたのでござる。
御屋形様へ、ではなく!
御台様へ。
「許可いたします! 御屋形様へは妾の方から申し出ておきましょう。カクジツに許可を得ます。確認? そんなの必要ありません。ですから、安心して行ってらっしゃい」
御台様より、笑顔と力強いお言葉を頂いた。
回りの女官様方も、扇子を握りしめ、力んでおられた。
ヤル気にござる!
心強い限りにござる!
ミウラは、盛んにヤタガラスを飛ばしておる。クマノ行きで関係各所に連絡を入れておるのでござる。
『準備は万端でございますよー! イオタの旦那と新婚旅行でございます! 実は、わたしのほうが新婚旅行に憧れていたんです! 一度行きたかったんです! お股が、もとい、腕が鳴ります! ふんすふんす! えーんえーん!』
感極まって泣き出しおった!
『予定立てましょう予定! 旅の楽しみの一つが、予定を立てる事です!』
「おお! 前世でタネラ行きの計画を立てたことがあったな! あれもミウラが素案を立ててくれたっけ?」
懐かしいでござるな!
『大まかな希望をお聞きしましょう。全行程を歩きにしますか? それとも縄張り内、えーっとトオトウミの境目までジャンプして時間と距離を縮めますか?』
「うーむ……某、ヨシダ城まで一緒に飛んだことはござるが、道中を歩いたことがござらぬ。よく考えれば、スンプから東は歩いたことがあるが、西はござらぬ。いっそ、全編歩きでは如何かな? 歩きといっても某とミウラなら、人が走るのとさして変わらぬ速度でござろう?」
『それ良いですね! 採用いたしましょう! 昔みたいに足で旅しましょう!』
「となると、宿泊場所を探さねばならぬな。普通の旅籠にミウラが泊まると大騒動にござる」
町の有力者が挨拶に来て、たくさん人が来て、宿の回りに黒山の人だかり。神輿が出てきてお祭り騒ぎ。
騒ぎが目に見えそうでござる。
『ルート、道順として、オワリまでは一手なんですが、……そこから先、オウミに向かって、ヤマシロの国を南下、ヤマトの国も一直線に南下。ヨシノも真っ直ぐ南下してクマノに至る道が一つ』
「それ、キョウの近くを通るのでござるな?」
キョウはもうしばらく行かなくて良いかな?
『もう一つの道順として。イセ湾をぐるりと回り込み、イセ神宮、シマを通り、クマノ灘を左手に見ながら、キイ半島の東海岸沿いの入り組んだ道を南下。シングウからクマノ川沿いに北上。クマノ神社に至る道です。おイセ参りできますし、イセの主と会えますし、楽しそうです。難所はイセシマからシングウまでの凸凹道ですか?』
「おおっ! おイセ参りに、海を見ながらの旅でござるか! 街道有り、おイセ様有り、海有り山有り川有りで楽しそうでござる!」
『このルートで決まりですね』
「主は、イセ神宮参拝と、そこから南下するキイ半島の海岸沿い観光でござる!」
うきうきわくわくでござる!
『帰りのルートはどうしましょう? 同じ道を辿っても良いですけど、どうせクマノまで来たのですから、クマノ古道を歩いてみませんか?』
「クマノ古道? 義経が静御前を伴って弁慶と逃げた、あのクマノ古道でござるか?」
歴史でござる!『異世界ですが』
『どの道を通ったかまでは存じ上げませんが、大峰のお山にまで真っ直ぐ北上する奥駆けの道があったはず。現世ですと、男子禁制のお山ですが、神獣様が蔓延るこの世じゃ、ケチ臭いことなんか言いません。堂々と大峰山、山上ヶ岳山頂を制覇いたしましょう!』
確か、過去、道長公もお山に登ったとか、知らんけど。古式ゆかしきでござるな!
『その後、ナラ盆地に入りますが、キョウの手前を抜ける道と、イガ越えの道がございますが……』
「神君家康公に倣い、イガ越えにござる!』
『そうおっしゃると思ってました。じゃ、イガを抜けて、どこかでイセ湾に出て、そこからもと来た道を辿りましょう』
「異議無しでござる! 良きにはからえでござる!」
『承知いたしました。では、さっそく各方面へ手配いたします。出よヤタガラス!』
ミウラの背後から影の大烏が飛び出してきた。
『いけ! ファンネル(ヤタガラス)! 見た目は科学のニンジャ隊だけど!』
バババッと羽音も勇ましく、飛び立つヤタガラス殿。頼みましたぞヤタガラス殿! 旅が楽しくなるか、問題が溢れまくるか、ネタまみれになるか、その方の働き次第でござる!
妙に力んだヤタガラス殿が、遠く小さくなる。
『段取りに2日ほど頂いて、アクシデントがなければ3日後に出発いたしましょう。その間、おやつとか水筒とか、腹下しの薬とか、ゲームとか色々用意しなければなりません』
「用意は某に任せよ! すっかり忘れておったが、収納の魔法が生きておるから大荷物でも大丈夫でござる! 南蛮大船に乗ったつもりで任せられよ!」
『ブラックな真珠号でなければよろしいのですが。お任せいたします!』
その間、準備に走り回ることとなった。イズモ行きの時と違い、準備に時間を掛けられる。この準備も楽しいのでござるよ。
おっと、詳しい予定の報告を忘れておった。
御台様にお目通りを願ったところ、御屋形様もお顔をお出しになった。
「ほう! 新婚旅行とな?」
御台様が目を丸くしておられた。思わず口に出してしまった新婚旅行という言葉に引っかかられた模様。
「新婚旅行、シンコンリョコウ! なんという甘美な響き!」
キッ! て音が聞こえたでござる。御台様が、小さくなってる御屋形様を睨み付けられておられる。
「そうは言うが御台、戦国の世であるぞ。簡単にクマノ詣などできるものか。暗殺や襲撃を考えねばならぬのだぞ」
「おや? いつ、妾がクマノ詣でに行きたいと我が儘申しましたでしょうか?」
「え?」
あの、戦場にて先陣を駆けたこともある、勇猛果敢なことで名を三国に轟かせた御屋形様が間抜けな顔を成されておられる! あの精鋭最強タケダ軍団を滅ぼした御屋形様が!
「お伝えせねばならないことをお伝えしましたことですし、某、これにて! 失礼いたしまする!」
「ま、まてイオタ! なんだ、その、大事な話があるのでは?」
御屋形様の目が「タスケテ」と仰せになっておられる。忠臣として、御台様を取るか御屋形様を取るか、如何したものか!?
ベキッ!
御台様の手にあった扇子が真っ二つに!
「御屋形様……ご免!」
「あっ! イオタ! たすけ――」
御屋形様が伸ばした手を振り切り、御台様のお部屋を後にした。
して、段取りに三日かかったが、本日出発と相成った。三日間、御館様の姿は見られなかった。
旅慣れた某は、ガチガチに足元を固めておる。腰には使い慣れた小太刀のみで、拝領の太刀は収納に収めておる。
あと、収納の中は涼しいので、お弁当もそこへ入れておる。水筒と、ちょっとした物だけを身に付けた軽装にござる。
『難所はすぐそこの大崩海岸だけです。一気にオワリの熱田神社まで進みますよ。今日はそこで一泊です。ギフの主が遊びに来てくれるそうですよ』
「お隣さんでござるし、ただで泊めてくれそうにござるから、懇ろに誼を通じておこう。では出発にござる!」
東の空が明るくなった頃でござる。早朝にイマガワ館を出立致した。




