21.ミウラの主、顕現
神獣の巫女編、最終話です
雨戸を降ろし、結界を張った。誰も中での出来事を察知するとこは出来ぬ。
ミウラの主をお慰めすると言っておいたので、気を利かせて誰も近づかぬでござろう。
ミウラは話した。
『十六年程前です。わたしがこの世に誕生したのは。イオタの旦那がオギャーと生まれる、一年前ばかりです』
前世にて……ミウラが死んでから一年後に某が死んだようで。時間の間隔は、それでだいたい合ってる。
『出現? 顕現? したのはミウラ半島でした。だからミウラの主と呼ばれたのですが、偶然って怖いですね』
「偶然だったより、必然だった方が怖いでござる。誰かの意思を感じるでござる」
この世界まで伊耶那美様の御力が及んでいるのでござろうか?
『で、当時、記憶が曖昧でして。前世の記憶が無いまま、サガミの国を守護するミウラの主として頑張ってたんですよね』
「やはり、ミウラも記憶が無かったのでござるな?」
『ええ。でもって、生まれ落ちてだいたい一年後。いきなり記憶が甦りまして。そこは旦那と同じで、頭が割れてお味噌がはみ出すような頭痛に、もんどり打って転げまくりました。意識が戻ったら記憶も戻りましてね、こっちの神通力を応用した魔法を使えるようになりました。前前世の知識を取り戻した結果ですね』
やはり、前前世での優位性はお宝でござったか。
『その頭痛と同時、スルガのヌシが居なくなりまして。で、わたしがサガミとスルガ、ついでにイズとトウトウミまで守護する事になりました。突然、4ヶ国の地図が頭に入ってきたんですよ。スルガのヌシ失踪と関係があるようです。スルガのヌシが居なくなって、わたしに領地が譲渡され、その時のショックで頭痛が起こり、記憶の回復に繋がったものと思われます』
「一連の事柄について、神獣の世界にそういう仕組みが出来ておったのではござらぬか? 神獣の上に神がいるとされているが、その辺が、こう、イイ感じで調整とか統制とか管理とかしとるのではないか?」
『ですよね。絶対神獣の上位バージョンが存在してますよね。神様に会った事も存在を感じた事もありませんが』
「他の神獣様もか?」
『はい、その辺の事、聞き出しましたが、誰も神の存在を認識出来ていません。ってことは、誰も神の意志や目的を知らないってことです。疑いや疑問すら持ってません。その面では、フシミの主といえど、実に機械的です』
「……これ以上、突っ込んで考えるのは止めよう。生理的に怖くなった。この恐怖心は危険信号ではござらぬか?」
『……ですね。これ以上コレを話題にするのは止めましょう』
それが良いと思う。考える事すら危ない気がする!
……結界を降ろしておいて良かったのかもしれぬ……。
「話を変えよう。そのスルガのヌシは何処へ行った? 死んだか? それとミウラが出てくるまでサガミは誰が守護していたのでござるかな?」
『サガミはムサシの主が担当していたそうです。年々手が回らなくなってきていて、困ってたので助かったと感謝されました。スルガのヌシですが、行方不明です。先輩神獣様のお話では、しばらく前から暗くなってたそうで、イズモの寄り合いにも全く顔を出さなくなって、心配していたそうです』
「寿命かも知れぬ。あるいは、スワの主の一件もある。自死したかもしれぬ」
その場合、死ぬ方法を見つけたという事になるが……神獣が死ぬ?
はっとしてミウラを見た。
ミウラもハッとした顔で某を見ておった。
「止めよう」
『考えるのを止めましょう』
同時に同じ事を口にしていた。
この話はもうやめや方が良い。気づかれる前に!
「して、タキちゃんの件でござるが、ミウラは犯人像を如何推測する?」
話題の舵を大きく切った。
『取り舵一杯ぁーい! 現在の情報だけで判断しますと、答えは二つ』
「ふむふむ」
ミウラも舵を切る事に賛成でござるか。この辺、二人の慣れ親しんだ連携でござる。
『1つ。犯人フウマ説。わたしは、最有力候補として疑っております』
「理由を聞こう」
ミウラの推理には前世より定評がござる。
『フウマ頭領コタロウがなぜあの時点でマタノ荘に居た? 襲撃に対し反応が速すぎる。利点が無いと言ってましたが、利点はあります。フウマの信用度上昇です。イオタさんとわたし、それに神獣様方の信用度が上がりますと、各地でのニンジャ行為に何かと有利。犯人が見つからなければ可能性が高い。しかし、魔獣の襲撃が偶然である事が前提条件。そこがこの説の弱点です』
ミウラは賢い。自説の弱点も開示するから。
『2つ目は、新興勢力の疑い。魔獣を使う方法を知っている未知の組織。この組織が存在するとすれば、神獣と魔獣の関係に新しい展開が控えていそうです。下手すると考えてはいけない?』
「考えてはいけないでござる!」
謎の上位存在に、この会話を聞かれてはならぬ。この会話をしていると知られてはならぬ。こう言う事をしている事そのものが危険でござる。
『ですで、現場不在証明工作です』
「あ、何をするミウラ!」
ミウラがのし掛かってきた。某を下に敷いての腕立て伏せでござる。
某も負けてならじと腹筋でござる!
して――
バタンバタンと雨戸が上がる。
着物を整えた某は、ミウラの干物を後にした。
眩しいお日様……まだ夕刻にもなっておらぬか……肩をトントンしながら外へ出た。
お付きの方が細かく震えながら平伏しておられる。何がござった? 良い格好をしようとしたミウラが運動を頑張りすぎただけでござるよ?
「いえ、何もございませぬ!」
「我らにお気遣い無く!」
「で、ござるか? なら、ここ数日サボっておった素振りを致す。千回程」
木刀を手に庭へ降りた。
「あの後で千回!」
「なんと!」
なぜか驚いておられるが、意識は素振りに集中でござる。
敵を想定する。マタノ荘で立ち会った、なんとかエモン殿を召喚!
「ふん! ふん! ――」
今日も通常運転でござる。
――神獣の巫女編・完――
今回にて、神獣の巫女編、終了です。
次章(仮)熊野詣で(夏)編の予定・
再開までしばしご猶予を!




