20.スルガ・イマガワ館
御館様に、一通りの説明をした。
事が事だけに、完全人払い。ミウラも部屋に入って、結界を張ってもらう念の入れようにござる。
御館様と某、そしてミウラの組み合わせでござるから、周囲からの注目が高い。密談バレバレでござる。
『だから、とある時代の政治家は密談そのものを隠蔽する為に高級料亭を使ったのでしょうな』
うーむ、ならば御館様がミウラの部屋へお一人で入る。さして変わらぬか?
某と御館様二人で温泉旅行へ出かける。何事かと噂されるでござる。
『ベスト(最良)じゃなくてベター(良)をチョイス(選択)しましょう』
して――
「これは……他言出来ぬ」
御館様が唸られた。
「百姓出の神獣の巫女様だけでなく、魔獣を操る者の可能性。そして、神獣の巫女を狙う者であるな」
脇息に両腕ごと体を預けられた御館様は、眉根に皺を寄せられた。御館様のこんな表情は初めてでござる。
「情報が足りぬ。今現在、複雑に糸が絡み過ぎていて、しかも全体が見えぬ。魔獣を呼び出せる者の可能性。では、魔獣とは? そうなると……」
御館様のお言葉は途中で途切れた。その後は続く言葉は「神獣様とは」でござろう。ミウラがここに居る。憚られたのでござろう。
ミウラを抜いて話した方が良かったか?
好奇心はネコを殺す『イギリスの諺です』。だから某の心の声を読むな!
「図らずもフウマが動いた。情報がイセ殿に抜かれるか?」
「御館様。抜かれたとしても、他言は致さぬと思います」
御館様は、暫し考えられた。
「敵味方関わらず、イセ殿は経験豊富なお方。外に出る事の危険性を理解されよう。こちらの伝手でフウマに伝えよう。イセ家に漏らすときは、シンクロウ殿だけにと」
「それがよろしいかと。……ところで、ミウラの主」
某はミウラに向かい合った。……これは一部のお芝居でもござる。
「神獣様はなぜこの世におられるのか、魔獣はなぜこの世におるのか、魔獣と神獣の関係は? 教えて頂きたい」
御館様も脇息より腕を放し、姿勢を正された。
『わたしは知りません。魔獣は人を喰らう魔物。神獣はそれを防ぎ人を守る。そもそも、わたしがこの世に顕現した瞬間に理と知性を持っていました。イオタさんもスワの主の変身を見たでしょう? あれ、そのまんま、わたしの顕現と同じなんです』
それをそのまま……スワの主は省いて……御館様にお伝え致した。
『おそらく、どちらの神獣様に尋ねても答えは返ってきますまい。わたしも問われて初めて気づいた位ですから。誰も考えたことも疑ったこともない。それほど常識なんです』
それをそのまま御館様にお伝え致した。
『わたしはスワの主に次いで若い神獣だと思います。知らない事もあるでしょう。今年の神無月の集会でその事を諸先輩方にうかがっておきましょう。こんな感じで如何ですか?』
それをそのまま……スワの主は省いて……御館様にお伝え致した。
「うむ……」
御館様が頷かれた。眉間の皺が寄り深く刻まれた。
「その件はミウラの主にお任せ致す。我ら人は人で、人の情報を集めましょうぞ。ミウラの主と良き協力関係を続けたいと願いまする」
そして一礼。政治臭プンプン。
『腹の読み合いがハラハラ時計です。ですが、協力関係は結べそうです。お互い利用し合いましょう。いざとなれば御館様1人を殺害するだけで秘密を守れるよう、きつく口外禁止を確かめてください。神獣様と御館様、個人のお約束、ってことで』
……ミウラを取るか侍として御館様を取るか……ミウラでござる!
ミウラの言葉をイイ感じでお伝えした。
御館様は「ミウラと個人的な秘密」という単語に心を躍らせておられる。……ちょっと間が空いたので、疑われたかもしれぬ。
ま、良いか。
して、二・三の確認をして、御館様との密談は終わった。
相変わらず前世より人見知りの激しいミウラは、飛ぶようにして部屋へ帰った。
某はセナ様の案内で、なぜかセナ様の案内でミウラの部屋へ向かっておる。
……聞き出したいのでござろうな……。
「セナ殿」
「はい」
お耳が飛行子象でござる。
「御館様との密談は、政に関わる秘事でござる。されど、悪い話ではござらぬし、戦とは縁遠いお話でござるので安心召されよ。それに時が経てば公表されるでござろう」
「ははっ。お心遣い感謝致します」
セナ様は歩きながら頭を下げられた。
「だもんで、公表されるまでは口を噤んで頂きたい。ミウラの主と某が頻繁にイマガワ館を離れる事になるが、その事に関する調整でござる。聞かれたら領地の視察だとでも答えておいた頂きたい」
「お任せくだされ」
……セナ様を信じぬワケではござらぬが……もうちょっとだけ突っ込んでおこう。
「セナ様を信じて一言だけ。公表されるまでは、か弱き命が掛かっておる。殊の外慎重に取り扱いをお願い致す。その為には嘘をついても良いと思いまする」
「それほどでございますか。心得ました!」
ここまで踏み込んで申さば、セナ様がイイ感じで噂を抑えてくださるでござろう。
して――
ミウラのお部屋。
「これから、ミウラの主をお慰め致す神事を執り行う」
お付きの方々(若い男性)に、下がるように言いつける。
「その間誰も近づけるな!」
「ははっ!」
ギュォ、ギュオォッ!
いかん、勃起感知を切り忘れておった。
してて――
雨戸を降ろし、結界を掛ける。
蝋燭を立て火を付ける。人工の灯りが必要だと思うたのでござる。
「さて」
腰を下ろし、ミウラと向かい合う。
『さて』
のし掛かってきたミウラを巴に投げ、髭袋を握って捻り上げる。
『いてててて! 冗談ですって! お約束ですって!』
しててて――
向かい合って座る。
「改めて聞くが、某は母上の腹より生まれた。ミウラがこの世に生を受けたとき、どんなでござった? スルガの地を守っていたはずの神獣様は今どこに? その他諸々」
『良い機会ですんで、全部お話し致します。そして情報を共有しましょう!』
ミウラは静かに話し出した。
次話で神獣の巫女編、終了です。




