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【外伝-2】 (ネコ耳サムライTS転生物語。ニホンは摩訶不思議な所でござるなー)スルガの国のミウラの主でござる  作者: モコ田モコ助
神獣の巫女編

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19.狙い

「マタノ荘が狙いなら、イオタ様を狙うでしょう。村人を狙うのも有りです。ですが、あやつの狙いはタキ様だった。マタノ荘は標的じゃないと思いますが?」

「コタロウ殿はそう思われるか?」


 うーむ、某に狙いを付けておれば、一撃は入れられていたはず。当たり所が悪ければ死んでおった。

 タキちゃんより下手人に近い位置に某が立っていたからのう。しかも背を向けておった。


「某は眼中にない?」

『そういう意味では、村も眼中になさそうですね。神獣会議にコジロウ達の目が向いている間なら、いくらでも田や村人に危害を加えることができましたでしょうし、実行犯が一人だけというのも気になります』


 それに、もっと気になることがござる。


「魔獣の襲撃が具合良すぎるでござる。時間を計ったか、呼び出したか?」

「イオタ様、そんな馬鹿な……まさか」

 コタロウ殿の懸念も、某の懸念と一致する。


「フウマが総力を挙げてタキちゃんを襲撃するとして……いつ現れるか解らぬ魔獣を計画に組むでござるか?」

「組みませぬ。いや、組めませぬ。イオタ様、何を仰りたいのですかな? 嫌な予感しかしませんが」

 さすがフウマの頭領。勘がよい。


「ではコタロウ殿。魔獣を自在に操れたとしたら?」

「……必ず魔獣を襲撃に使います」

 間を開けて答えが返った来た。


「イオタ様」

「疑っておる。方法も、理由も、犯人も、何もかも不明でござるが、魔獣を呼び出し、高度な命令を与えることができる組織があると睨んでおる」

『かもしれないし、でないかもしれない』

 世の中がひっくり返る案件にござる。大事過ぎてピンと来ておらぬのでござる。


「一番の念頭に置いて捜査を致します。それではこれにて」

 シュルッと影が滑るようにコタロウ殿の姿が消えた。……五間四方『約十メートル四方ですね』は何もない見通しの良い広場で話をしておったのでござるが……いつも思うが、どうやって消える?

 

「騒動でござるな」

 フウマの主立った連中が仕事で出払ったため、急に閑散とした空気が漂う。


『気を当てられたというか、なんというか、気疲れましたね。しかし、魔獣使いですか……ふぅ』

 珍しくミウラが溜息をついている。


「おや?」

 額と頬に冷たいのが。雨でござる。  


『梅雨入りですかな? 日が暮れて気温が下がったためうんたらかんたら』

 遠くの方で雷が聞こえてくる。遅い梅雨入りにござる。

「今夜はマタノ荘で泊まる。マタノ荘防衛の意味もある」

『そうしますか』

 

 して――、翌日。

 しとしとと雨が降り続けておる。捜索に出かけたフウマ衆は難儀しておることでござろう。

『ニンジャは全天候型ですから大丈夫ですよ』

 そんなものでござるかな?


 結局、夜の襲撃はなかった。

 今日の昼にはイマガワ館へ引き上げる予定にござる。


 朝の間に、実験田での稲の生長を見ておこう。

 蓑傘被って歩くことしばし『濡れるのヤだなー』、田が見えてきた。元、隠し田でござる。


「雨の中、ご苦労でござる」

 作業を任せていた男達が雨の中、働いておられる。畦の雑草取りでござるかな?


「これはイオタ様! ご視察ですか?」

「うむ、どうだ、苗の具合は?」

 聞くまでもなかった。田んぼには青々とした稲が太く長く伸びておった。


「へい、さっきもみんなと話をしていたのですが、吃驚するくらい元気に伸びています!」

「株も増えてます。植え始めて僅かの日で、この力強い伸び。これは秋が楽しみです!」

 某も疑っておったが、ミウラの言うとおりでござった。


『雑草だけはまめに処理してくださいね。雑草で風が溜まって虫が湧きますから』

 ――と、直訳して伝えた。


「へいそりゃもう! この稲を見たからには、雨の日だって草引きいたしますよ!」

「田んぼの仕事が楽しくて仕方ありません!」

 嬉しそうで何より。


『これから暑くなりますから、頭に傘乗せて、日に当たりすぎないよう注意してくださいね。熱中症が怖いです。えーっと、熱中症とは中暑? 暑気あたり? 暑すぎて倒れる病のことです』

 意訳して伝えた。


 自分たちのことを考えてくれている! と感動しておった。あんまり感動させるな。後が怖いでござる。

 なんだかこっ恥ずかしくなってきたので、早々に引き上げた。


 して――

 スルガのイマガワ館へ引き上げでござる!

 タキちゃん襲撃事件の行方はフウマ衆の調査結果待ちにござる!

 

――三ΦωΦ三――



 ここはイセの国。イセ神宮の外の宮である。この世界のイセ神宮は、イスズ川の外を外の宮と総称していた。


 外の宮の、とある板葺きの部屋。

 アシムラ フミマサはここにいた。座って人を待っている。お茶も水も出されていない。


 身なりが……出奔してからの日数を考慮しても、うらぶれすぎている。無精髭を生やしている。身なりが汚い。


 やがて、待ち人がやってきた。フミマサは礼儀正しく頭を下げてお迎えしている。

 艶を無くした灰色の髪。年老いた巫女様だ。

 老巫女様はフミマサの前、上座に腰を下ろした。


「さて、アシムラ フミマサと申したか? 儂はウメと申す。お婆に気遣いは要らぬ。楽にされよ」

「ははっ! スルガの元住人アシムラ フミマサにございます!」

 礼儀作法に則って、フミマサは顔を上げた。


「宮司殿と面会をと望まれたが、生憎その儀は敵わぬ。かわりに巫女頭をやっとる儂が来た。外宮、内宮合わせても儂が一番の年寄りよ。儂で我慢なされよ」

「もったいなきお言葉! 感謝の言葉もございませぬ!」

「大げさじゃのうフェフェフェフェ!」

 老巫女様、歯の抜けた口を開けて笑っておられる。


「さて、フミマサ殿。そなたがここへ来た理由は知っておる。単刀直入に言おう。そなたの願いは、ここでは叶わぬ」

「……はっ! されど、拙者のお話をお聞き下され! お聞き下されば、万民がなるほどと理解されよう」

 フミマサは顔を顰めた、が、堪えて声を出した。話せば解るはず!


「フミマサ殿。その方は知らぬであろう、日の本中の神社に回状が回っておる。そなたが日の本中の神社や権力者を訪ねても、会うことは出来ぬ状態じゃ」

「そ、そんな馬鹿な!」

 フミマサは顔を歪めた。


「そんなそなたが、余りにも哀れでの。年寄りが相手してやろうというのじゃ。儂がそなたの話を聞く最後の相手と知れ。まずは、そなたの話を耳で聞いてしんぜよう」

「ギッ! あ、ありがたき、幸せッ。それでは、人外の化生たるイオタの悪行と陰謀について――」


 フミマサは激しい怒りに歯を音立てて食いしばり、喋った。

 長き時間を費やし、イオタの悪行を。そして、想像されるイオタの陰謀から、さらに想像される未来を! 目を剥き、血走らせ、口角泡を飛ばし、気持ちよくしゃべり尽くした。

 老巫女様は、一つ一つに頷きながら、口を挟むことなく全てをお聞きになった。


「ふむふむ、なるほどのう。第六天より浸食してきた魔王とか、新しい言葉じゃが、なるほどなるほど!」

 フミマサは明るい顔になった。

「お解り頂けましたか!」

「全然」

「え?」

 老巫女様はゆるりと首を左右に振られている。


「どこが!」

「先ずのぅ……フミマサよ、神獣様は全知全能であるとお婆は思う。フミマサは如何思う?」


「神獣様は絶対正義でございます! 神獣様は人の世に平穏をもたらす絶対正義! 神獣様は全能で不可侵の存在! だから神獣様なのです!」

 フミマサは顔面を真っ赤に染め上げ、膝行って少しの距離を詰めた。


「その通り。儂らも神獣様を無条件で信じておる。神官職じゃしのうフェフェフェフェ!」

 老巫女様は無邪気とも言える笑い声を上げられていた。


「その神獣様が信を置いておるのが、神獣の巫女イオタ様じゃ」

「ですから! 何度も何度も何度も言いますが、そのイオタが神獣様をたぶらかしておるのです! 何故解らぬのですか!」

「神獣様の御力を疑うとか?」

「滅相もございませぬ! 何度も何度も何度も言いますが、神獣様は全知全能絶対正義です!」


 フェフェフェフェ! 老巫女様は笑われた。


「何を笑われる!」

「これを笑わずにいられようか! 全知全能絶対正義の神獣様が? 騙されることもあろうと?」

「滅相もございませぬ! 神獣様は例え相手が悪の大魔獣であるとも、騙されることはございませぬ! この世に神獣様を騙せる者はおりませぬ!」

「その神獣様をイオタなる小娘が騙したと、おぬし言ったではないか?」

「そのとおり! 騙したのです!」


「短慮よのう。では、神獣様は絶対者ではないと? 騙されるようなマヌケだと?」

「あ、う……」

 初めてではなかろうか? フミマサが言葉を詰まらせたのは。


「こどもでも……気付かぬほどの浅慮よのう。まあ、よいか……ところで」


 老巫女様は、フミマサの隙をつき、話の方向を変えた。

「日の本全国に回った回文には、フミマサ殿のお家、ニシグチ家お取りつぶしと一族の処刑が書き記されておった。奥方も御養父母様も全て処刑されたと。フミマサ殿の失策で死に追いやられたご家族に何か言ってやることはないかのう?」


「拙者の言を信じぬ者は死んでも仕方ない! いや死こそ相応しい!」

「ほほー、これはこれは! 素晴らしいお考えの持ち主じゃ。自分の立場しか考えられず、人の気持ちを考えようとする頭がない。フミマサ殿は情が無いと見た!」


 フミマサは目を剥きだし、怒りを隠そうともしない。 


「ではフミマサ殿。御一族のササムラ家のご当主が隠居の上、領国を半分に削られたことはいかが?」

「情けない! 恥ずかしいことを! 情けない!」

 フミマサは顔を真っ赤にし、膝をダンダンと拳で叩いた。


「これはこれは! 回文にも書いてあったとおりじゃ。身内の恥じゃが、これまでモリ家の小倅が頭一つ抜きんでた短慮浅慮気短の一番と思うておったが。これはこれは、上には上がおるものじゃ。長生きはするものじゃの-」

 老巫女様は、心より感心しておられた。そんなに目をひん剥いて、よくぞ目玉がこぼれ落ちぬものじゃと。


「まあの、思うは自由じゃ。されど、フミマサ殿が認めたとおり神獣様が正しいとなれば、イオタ様も正しいとの事となる。そこから導き出された答えは――」

 背が丸くなった老巫女様は、上目遣いでフミマサを見上げる。


「――フミマサ殿が間違っておるという事じゃ。それとも神獣様をお疑いになるか?」

 フミマサは奥歯を食いしばったまま、言葉を口にしない。たぶん、考えることを止めた頭の中で、様々な汚い言葉が舞っているのだろう。


「もはや、日の本全国津々浦々まで、フミマサ殿のお言葉を真に受ける者はおらぬ」

 フミマサは熟し柿のような光を放つほどの赤ら顔で俯いていた。


「解ったようじゃの? いや、頭では解っておるが、気持ちが解らぬのであろう。人とは気持で動きたがる生き物じゃからの、仕方ないわ。さて、話はこれでお終い。好きなところへ行かれよ。お主はここに居られぬ」


 老巫女様は、腰を痛そうにさすりながら立ち上がり、奥へと消えていった。

 代わりに、手に武器を持った男が大勢現れた。


 フミマサは……ブツブツと何やら呟いている。

「おかしな。おかしな世の中じゃ。アシムラをバカにしおる。かようにおかしな考えが蔓延っておるとは情けない世じゃ。情けない。情けない情けない……」


 フミマサは真っ赤な顔のまま、飛び出しそうなほど目をひん剥いたまま、立ち上がった。

 ……理解していなかったのだ。


「間違った者は正してやらねばならぬ。おかしな奴らばかりだ。おかしな世になったものだ」

 実はフミマサ、怒りが過ぎて、頭の動きが止まっていた。脳が処理を止めていた。考えられない。あまりにも強い怒りのためだ。

 心臓が激しく動き血圧が上がる。脳からアドレナリンがビシャビシャと流れ出る。


 フミマサは気付かないまま心地よさに酔っていた。怒りに身を焦がすのが心地よいのだ。

 怒りのために怒る。どこかに怒る材料は落ちてないか? そこか? ここか?


 フミマサは気付いていない。

 アシムラ家もイオタも、二の次になっている事に。

 怒る事が目的となった事に。


 フミマサは、落としどころを無くした人生に、一歩踏み出した事に気づいてもいなかった。

 


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