18.調査
『魔獣はぶち殺しました。一撃ですよ一撃!』
「よしよし、良い子良い子」
ミウラの頭をカイグリカイグリしてやる。ここで煽てておいて、いつか取り戻そう。
ヒタチの主とタキちゃんは先に帰した。シンエモン殿もご一緒に虹の輪を潜るかと問うたら「畏れ多すぎます、走って帰ります!」と言って、えらい速度で走っていきおった。
任せておけば大丈夫でござろう。幸い、カシマ神宮の男共はやる気に満ちておる。無給でござるのにご苦労でござる!
村人の皆様も、上手い具合に理由を付けて納得の上、引き上げて頂いた。
『あの状態でどのような説明をされたのです?』
「コジロウの才には目を見張るものがござった。まさか、あのような言い方があったとは!」
「イオタ様にそこまで言って頂けるとは、感謝の極みでございます。あの場合、ああ言えば、大概の人は納得されるんですよ」
『だから、どんな説明したんですか?』
ミウラの余計な突っ込みは、この際横へ置いておこう。話に関係無いし!
問題は、あのくせ者の正体にござる!
「コジロウ。自白させられるか? そういうことも得意でござろう?」
「実は私、拷問とか苦手なんですよ。あまりに下手なので、上の人から禁止令が出てるんです」
「ニンジャにしては珍しい」
「すぐ対象を壊すからって。でも、頑張ってみます」
「うむ!」
任せて良いのでござろうか? くせ者を捕まえる際、捕まえると同時に縛り上げておった。
「どうも残念なことになってしまったようです。イオタ様」
「どうしたコジロウ?」
「既にお亡くなりです。毒ですな。捕まる前に服用したようで。諦めが早い」
嫌だけど確認した。首でも左腕でも脈は感じず。切り落とされた部位からの出血も勢いがない。
「何者でござろうか? 目的は?」
「それを証明する物は……なんも無いですな」
コジロウが男の身体を調べたが、所属を示す物は何もない。着物は普通の村人のと大差ない。使い込まれていてあちらこちら擦り切れておるし、継ぎ接ぎもある。
「刀も数多い数打ち物。武器以外に持ち物無し、褌も普通に前が黄色いし、顔も見覚え無し」
『ですが、ニンジャです』
それをそのまま伝えた。
コジロウ達は顔をしかめる。
『そして、コジロウの配下が一人増えています。何故でしょう? まさかと思いますが、フウマの仕業ですかな? 準備運動始めて良いですか?』
そのまま伝えた。某も気になっておった。たしかに新しい顔が一人増えている。
背はさほど高くない。胸板ががっちりしている。しかも、雰囲気からみてかなりの上役。
「えー……」
コジロウはチラリと新顔を見る。新顔は微かに頷いたようだ。
「ミウラの主、イオタ様、お疑いも仕方ございません。私も最初は身内を疑いましたが、匂いがフウマと違います。第一、せっかく手に入れた拠点、神獣様の信頼、イオタ様との絆を自ら断ち切る事と、引き替えにできる利益が見あたりません。一国を譲渡されたとしても割が合わない。違いますか?」
「それもそうでござるな」
某を敵に回すことは、神獣様を敵に回すこと。神獣様方の総掛かりにフウマなど一蹴でござろう。逃げても受け入れてくれる国はない。魔獣と神獣と国とを相手に戦うことになるが、それを上回る報酬が何なのか、某にも思いつかない。
「それに、忍びである我らに対し、変わりなく接していただいてくれるイオタ様の敵にはなりたくございません」
え? ニンジャ、格好いいとしか思わないけど?
「この件、フウマに任せていただけませんか?」
「ずいぶん大盤振る舞いでござるな。それはかまわぬが、そこまでして潔白を証明する必要ないと思うが? 某もフウマが下手人とは思うておらぬ」
「フウマの意地でございます」
どういう事かな? コジロウはマタノ荘二ヶ村の代官に過ぎぬよ。
「えーっと、紹介いたします。フウマ忍軍頭領コタロウです」
見知らぬ男がずいと前に出た。
「ただ今ご紹介にあずかりました、フウマ一族の長にしてフウマ忍軍の頭領コタロウです。以後宜しくお願い申し上げます」
『ゲッ! コタロウ! コタロウが小男だった!』
「驚いたでござる! ここに来たことが!」
「それはニンジャにとって最高の賞賛でございます」
コタロウ殿が優雅に頭を下げた。
「さて、たまたまコジロウの様子を見に来ていたところ、フウマの頭領の目の前で犯行が行われた。それをフウマが阻止できなかった。生まれてこのかた、いえ、フウマ誕生以来、これほど恥ずかしいと思ったことはございません!」
「お、おおぅ」
コタロウ殿、めっちゃ怒っておられる。背中から何かが出てござる!
「下手人の背後に潜む者、その目的。フウマの名にかけて探り当ててご覧に入れましょうぞ!」
拳を痛いほど握りしめ、歯をギシギシ言わせておられる。
『ま、それは当然ですな。フウマの頭領を目の前にしての犯行。フウマなぞ恐るるにたらず、というのが犯行動機だったのかもしれませんし? 事実、シンエモン君がいなければ、暗殺は成功していたし。しかもフウマ頭領コタロウ君の目の前でだし』
それをそのまま翻訳したした。
「うぎぎぎぎっ!」
コタロウ殿が腹に拳を当てて、……まるで胃のあたりを押さえるかのように手を当てられ、片膝を着かれた。顔色が真っ青でござる。
わかるぞ、顔色が変わるほど悔しいのでござろう!
『おおお! ニンジャの本気! 螺旋の丸くらい手から出しそう!』
「頭領、胃の具合大丈夫ですか?」
「案ずるなコジロウ。これしき!」
ちょっと分かんない話を挟んでからコタロウ殿が立ち上がる。
「つきましては、あの死体、我らにお下げ与えください。それこそ解剖してでも繋がりを見つける所存!」
「お、おう!」
目が怖いのでコジロウ……コジロウは既に実地検分に入っておる。某もお手伝い致そう。なにせ、もと常町回り同心でござったからな!
「コジロウ、下手人はあの木の枝に潜んでいたようでござるな」
そこそこ大きな木でござる。木登りしても降りるのが怖い木でござる。
「ええ、枝がしなる音を耳にして反射的に手裏剣を手にしたのです。村人も大勢繰り出してきましたし、神獣様も大勢ウロウロしておられたので、目を盗んで木に取り付くくらいは簡単でしょう」
「人が大勢出ていた、でござるな? ひょっとして、人を繰り出すにあたり、声をかけた者がいるやもしてぬ」
「……それ、それです! おい!」
「はっ!」
ハヤテが走っていった。聞き込みでござろう。
「あとは……似顔絵でも描いて、隣近所の村か街道で聞き込みでござるかな? 侵入経路が解れば、本拠地の方向が分かる。それに、下手人もマタノ荘へ入るまでは気を抜いていたでござろうから付け入る隙もある。飯も何処かで食わねばならぬし、宿に泊まっておったかもしれぬし、足取りさえ掴めれば逆をたどっていける……ん? 如何した?」
コジロウとコタロウ殿が気の抜けた顔をしておる。
「イオタ様、ずいぶんと捜査にお詳しい」
「それは忍びの者の捜査法でございます」
「思いついたことを言ったまででござるがなぁ?」
江戸町同心の捜査法でござる。
『伊賀者が町同心になったとか話を聞いたことがあります。同系統の捜査法か、もしくは捜査法の収斂進化か?』
そういうことでござる! 知らんけど。
「とにかく手を打ちましょう。人を使います」
コタロウ殿が目配せした先は……見たことのない男が数人いた。早速動き出した。
手の者を連れてきておったか。色々言いたいことはあるが、今回はよかろう。後で釘を刺すが『物理的に』。
して――
「問題は、マタノ荘が知られたことになるのでござる。マタノ荘の防衛は大丈夫でござろうか? 青田刈りなんかされたら、ミウラの主の怒りに触れ、イズ半島が海底に沈むことになる」
某には、マタノ荘を無事タケマルに引き渡すという使命がござる!
マタノ荘を守れなかった暁には、ミウラをけしかけ、イズ半島もろとも海に沈む覚悟でござる!
『本・末・転・倒!』




