17.教育的指導
して――夜が明けた。
早速、タキちゃんは朝ご飯をモリモリ食っておる。
それを日課の素振りから戻ってきて見ておるというところにござる。
「朝起きてすぐ大量に食えるのな?」
「はい! もごもごもごもごですから」
「食べるか喋るか、どちらかに致せ。食べながら喋ると行儀が悪い」
「はい! もぐもぐ……」
食い気を優先しおったか。
後で話してくれたが、起き抜けであろうとゲロを吐いた後であろうと病で高熱を出していようと、食べられるときに食べておかないと、次に食べ物を口にするのは三日後とか、ザラにあったそうな。かわいそうに。
して、某も食事を終えた。
「さて、神獣様の会議に出向くか!」
「はい!」
タキちゃんは元気いっぱいでござる!
して、会議の冒頭。
イセの主がタキちゃんに挨拶した。
『おお、タキや、昨夜は眠れたか? ミウラの主とイオタが足を絡ませて喧しく唸っておらなんだか?』
「はい! あっ! いいえ!」
『『『『え?』』』』
のんびりしていた神獣様方が全員タキちゃんに顔を向けた。
「いや! ちょっとタキちゃん!」
『あわわわ!』
迂闊! 単純に暑さで寝苦しく、ゴロゴロしておっただけでござるが、神獣様の聞き方悪い。タキちゃんの話し方も悪い! 誤解でござる!
「タキちゃモガァ!」
ヒタチの主が、某の口に手を置いて封じおった!
『ミウラの主。ちょっと』
ギフの主がミウラの身体を縛り上げた。
『ちょっと山の裏手へ』
カワウソの姿をしたカガの主が、ギフの主に巻き付かれ身動きの取れなくなったミウラをタキちゃんから引き剥がした。
『うちの子に何見せとるんじゃ? あ、イオタは良いよ。後でお金払うね』
『とりあえず、ミウラ君、山の裏手に来なさい』
『ハラパン大会が待っているよ』
『ええーっ! イオタさんは、わたしの巫女さんですよ!』
『犯罪者め!』
『それが羨ましいというのだ!』
『嫉ったいのだ! きりきり歩け!』
ミウラは神獣様方に連れられていった。
ミウラが裏山に連れて行かれたが、すぐに戻ってきた。
皆様、満足げな顔をしておられる。
ミウラのことである。心配はしておらなんだ。どうせ上手く口を回して回避しおったのでござろう。
して――
口を塞いでいる手を逆関節に取り、突き放す。
『いててて!』
ヒタチの主がたたらを踏んだ。
「いつまで某に抱きついておられる! 下心見え見えでござる!」
『ヒタチの主! 貴殿よもや!』
残った神獣様に詰められておられる。小突かれておられる。ザマアでござる。
「神獣様方! 朝早くから始まった会議でござるが、もう結構日が高くなっておるのでござる。きりきり始められよ!」
『最後は命令口調だな? 神獣に命令するか、あぁ? それもまた良し!』
『では始めよう!』
こういうところでござる!
して――
某は、持ち込んだ小机を平らな場所に置き、紙を広げ硯と筆を用意した。要所要所で決まり事を書き込んでおくのでござる。あとから言った言わないを防ぐためでござる。後で書に起こすとき参考になるし。
昨日に引き続き、イセの主が議長ぽい感じで進めていくようでござる。だれも議長をしたくないので、進んで引き受けてくれるのがイセの主、イナバの主、フシミの主でござる。だから三貴神獣とか呼ばれておだて上げられているのではなかろうか?
『まず、ヒタチの主。如何だったかな?』
『うむ。イオタの身体は柔らかかった。どさくさで唇に触れた手の感触がたまらなかった。至高れる』
『その手、後で舐めさせよ。舐めさせてください』
『すでにベロンベロンに舐めた後だが、よろしいか? 今宵この手で至高の予定だが?』
『遠慮いたします。これ、イオタ! 刀を抜くでない! あぶっ! あぶねぇ! 振りまわッあぶねぇ!』
話が前に進まないの、強制的に進ませていただいたでござる!
してて――
「では、身分の垣根を越えた神獣の巫女誕生の件は、ヤタガラスで伝える。その際、民百姓その他市井の者に神獣の巫女が潜んでいる可能性と、その事による問題点、解決策を考えておくよう伝える。
今年の神無月にクマノ大社にて寄り合い。そこで、考えておいた問題点を露わにし、知恵を出し合う。全国の神獣様が持ち帰り、関係者である人に渡す文の内容を決める。
それまで、本件の内容を人に伏せておく。
それとヒタチの主提案のタキちゃんの取り扱いについてでござる。
これでよろしいか?」
『そんなところだろう。もし後から思いつくことがあればその場で議題に乗せよう』
イセの主がウンウンと何度も頷かれた。
『イオタはなんぞ考えておらんか?』
「イセの主。お話の内容はそれでよろしいと思いますが、ちと時間が……。神無月まで半年近くありますぞ。悠長すぎませぬか?」
今、皐月でござるから、神無月まで五ヶ月開いておる。
『んん? 五ヶ月しか開いておらんが……ああ! 人の寿命は短いからな。神獣の時間感覚と人の時間感覚は違うのだ。イオタにとって五ヶ月は悠長だと感じるのだな。だがこれは仕方ない。イオタに慣れてもらうしかないな。それに巫女との邂逅は縁である。時間が開くとか無いとか、それは関係ない』
「はぁ」
神獣様がそうされるのであるなら、その通りでござろう。縁とは時と人と地の三位一体でござる故。
しててて――
三日かかると思っていた会議も、二日の夕方に終わった。
終わったら早く帰っていただきたい。
どんよりとした曇り空でござる。夕日は見えぬ。湿った風が吹いておる。
お別れの時間に、マタノ荘の者達が、神獣様方をお見送りをしたいと集まってきたでござる。
一連の出来事を書物に残さぬという約束で、お見送りを許可した。
捕らえておいた……えーっと、武芸者の……えーっと……名前を忘れたでござる。余りにも失礼でござる。人に聞くわけにもいかず、でござる。どうすればよい?
「イオタ様。シンエモン殿を解放してよろしいですかな?」
「おお! でかしたコジロウ! この出来事を書にしない事を条件に解放せよ」
「? 何かお褒めにあずかるようなことをしましたかな? シンエモン殿、解放です。ハイ、刀」
「エライ目にあったが、貴重な経験でござった」
刀を慣れた手つきで腰に差すシンエモン殿にござる。シンエモン殿は後に引かないお方でござる。
「イオタ様!」
タキちゃんでござる。
「色々とありがとう御座いました」
「おお! ヒタチの主に巫女装束を出してもらえたのでござるな! お似合いでござる!」
某と同じ意匠の巫女装束にござる。
『肩がね。ばーっと出てるのがポイントね!』
某の巫女装束と違う点は、鮮やかな朱色の糸で縁取りの飾りが入っていることでござる。子供らしくて良いと思うぞ!
タキちゃんには某からの文を持たせた。カシマの宮司殿に宛てた文にござる。今回の出来事と、神無月の事と、タキちゃんの世話と護衛をよろしく頼む事が書かれている。
ではさらば、とばかりにミウラの背に跨った。
次々と神獣様方が、虹の輪を潜って行かれる。
某らとヒタチの主がそれをお見送り。イセの主も付き合いで最後までお見送り。
順番が回ってきてミウラも虹の輪を作り――
『はっ! 魔獣の気配!』
転移中止!
ミウラが振り向く。某もミウラの背から飛び降りる!
マタノウエ村の背後にそびえる山から気配がする!
みんながそちらに注意を向けたときでござる。
コジロウと手下二人の手から棒手裏剣が飛んだ!
飛んだ先は某の頭上遥か!
手裏剣を弾く金属音。某の頭上を飛び越えて行く黒ずくめのくせ者!
タキちゃんに狙いを付けておる! 落下の勢いそのまま、白刃がタキちゃんに振り下ろされる!
コジロウ達は、手裏剣を放ったので剣を抜くのが遅れた!
「加速ッ!」
間に合わない!
ザン!
くせ者の腕が飛んだ?
刀を振るうシンエモン殿!
冷静に反応したのはシンエモン殿でござった。
無表情な顔で刀を振るっておる。
返す刀で、くせ者の着地を狙う。危なげない動作で片足の膝裏を深く切った。これでくせ者の足は動かぬ。
片腕となったくせ者にニンジャ組が飛びかかった。
あっという間にがんじがらめ。ついでに止血までされておる。こういう歳の手際は真似できぬ。
「おお、シンエモン殿、助かり申した!」
「なんの」
刀を振って血を飛ばし、慣れた動作で納刀した。派手さはないが腰が据わっておって格好いいでござる。
「くせ者はお任せするとして、イオタ様。あの神獣様は、ひょっとしてヒタチの主様でございましょうか?」
「いかにも。リスさんに見えるはヒタチの主。そして、あの可愛い子はヒタチの主の巫女でタキ」
「おおおおお! ヒタチの主様に、神獣の巫女様が現れなされたか! ありがたやー!」
「へ?」
目を点にしておるタキちゃんの前にシンエモン殿がひざまずいた。
「拙者、カシマ神宮の、神官の一族の出でござる。四家老の一人、卜部家の次男でござる。シンエモンとお呼びくだされ!ここでの巡り合わせ、運命でござる! 縁を感じました!」
「え? は? おおおう! それは良かった……ちなみに、シンエモンはカシマ神宮近くで腕に覚えのある剣士に知り合いはおられるか? タキちゃんの護衛を頼みたいのでござるが?」
くせ者を自白させるまでもない。明らかにタキちゃんを狙った。
魔獣は神獣ヒタチの主の対応で心配は要らぬが、人である暗殺者の対策が必要になった。シンエモンほどの腕前なら安心して任せられる。出自も文句ないでござる。
「某、カシマ神宮に縁あるカシマ神流と天真正伝カトリ新道流を収めております。両派はカシマ神宮を根拠地とし繁栄しております。故に腕利きの剣士ならそこら中に転がっております!」
「それは頼もしい! 護衛の依頼、受けていただけるか?」
ざざっと音を立てて正式なドゲザ。姿勢がとても綺麗でござる。
「喜んで拝命いたします!」
「うむ。よろしいな、ヒタチの主?」
『こちらからも頼む。タキは大事な子である』
「シンエモン殿、ヒタチの主もよろしくと仰せだ」
「ははーっ! 命に替えて! 万が一タキ様を守れなかった場合、責任を取ってカシマ神宮に火を付け腹かっ捌いて果てましょうぞ!」
「それはやめよ」
ってか、カシマ神宮の男共は短慮な奴らばかりでござるかな?
と言うことで、強力な護衛団を形成することとなった。
して、くせ者は一体何者?




