16.神獣の巫女、特一級
『普通、過去の例、諸々から鑑みて、神獣の巫女はタキの事例が正当、普通、通常である。しかるに、イオタ、ミウラの主の事例は初めてだ。異存ないか?』
皆様頷かれる。スワの主だけ、頭の上に疑問符を浮かべながら、舌を出してヘッヘヘッヘしておられる。
困ったでござる! なんかに気付かれたでござる!
『えーっと、発言させていただけますか?』
ミウラが右前足を上げた。
『どうぞ、ミウラの主』
イセの主から発言の許可が下りた。
『えーっとですね……』
ミウラの目が斜め右上に寄った。考えておるときの癖だ。
僅かの沈黙の後に、再びミウラが口を開いた。言い訳を思いついたでござるな?
『わたしたちもよく解らないんですよね。だって、目と目があった途端、わたしはこの人だ! ってピキュンと閃きましたし、イオタさんもミウラの主だ! ってズギュンと閃いたって言ってました。現に、イオタさんはすぐにトンカチで殴られたような痛みを伴う激しい頭痛に見舞われて、意識を失ったって言ってました。これは……』
ミウラは、一息つきながら神獣様方をぐるりと見渡した。
『……これは、愛の運命なんです!』
ザワッ! っと空気が揺れた。
こ、こんなので誤魔化されるわけが――
『愛だとッ! 運命だとッ!』
『それは仕方ないな!』
『くっそ、羨ましい!』
『情熱的じゃないか! 浪漫的じゃないか!』
『浪漫って単語、この時代にあったか? どうでもいいや! 滾るぜ!』
誤魔化せたでござる。
神獣様方は身をくねらせて悶えておられる。
『えーっとですね、発言ついでなんですが、わたしの方からも、問題点を一つあげさせてください』
ジト目のミウラが、騒ぎをぶった切るように発言した。
『過去これまで、神獣の巫女は、人の手によって探され、献上されてきました』
だいたいが某のように選考会で発見されておる。……上手く話題をそらしおった!
『彼女らは、神獣に巫女に相応しいように、それなりの身分から選ばれていたはず。選考会を開いている人が、上の方の身分の方ですから、選んでくるのも武士に属する家の娘、貴族や神官の娘、大きな商家の娘など、権力者の娘でした。万が一選ばれれば紐付け出来ますし、特権階級意識もあったのでしょう』
……そういえばそうか。かくいう某も武家の娘でござったし、選考会に出席しておられた娘様方も武家の出でござる。
『ところが、ヒタチの主の巫女様は、お百姓様の出。いっちゃ悪いが下級層です。これが世間にもたらす影響は如何なモノかと愚考する次第でございます』
「あ、そうか! 神獣の巫女が、これまで無視、除外されていた低い身分の層から出現した。支配者階級の者達からすれば、面白くない出来事にござる!」
某の一言が、神獣様の間でどよめきをもたらした。
『おいいおいおいおいミウラの主! もう一つ問題が出てきたぜ!』
『ヒタチの主は勘がよろしいようで』
「なんでござるか……あっ!」
気がついたでござる!
『それです! イオタさんが思いついたこと。これまで、身分の卑しいとされている層からも神獣の巫女たり得る能力を持った娘が、たくさん出ていたはず。それは日の目を見ることなく埋もれていた』
「ミウラの主、これはもったいないでござる!」
これまで、千年? 二千年? の長きにわたる神獣様の歴史において、神獣の巫女たる者達が神獣に出会うことなく死んでいった。
効率よく……方法は考えつかぬが、効率よく探しておれば、もっと沢山の巫女が世に出ていたはず。
『より多くの巫女が現れたはず。そうであったら歴史が変わっていた。そうだな、ミウラの主、ヒタチの主?』
イセの主様である。厳しい目をして遠くを睨んでおられる。それは人知れず埋もれていった巫女達への思いか?
『幸い、イオタが現れてくれている。我らを必要以上に畏れぬ巫女である。むしろ、我らをなんか、こう、権力を振るう? ただのスケベな動物と思うとらんか?』
言葉に刺はござらぬか?
『私の意見だが、イオタに文を書いてもらうというのはどうだろう? 各神獣がその文を懇意にしておる者に見せ、新たな選抜体制を築いていく。かような方向性で如何かな? カスガの主?』
エチゴ、エッチュウを守護するフクロウの神獣様がカスガの主でござる。
『基本方針はそれで良いと思う。ただし、次の寄り合いで決めよう。今回は議題と問題点を抽出するだけで、議論及び決定事項は、次の寄り合いで決めよう。今年の神無月は、なるべく多くの神獣が集まることを望む。希望は全員だ。神無月までにそれを周知徹底させる。今からなら充分間に合う。いかがか、皆の衆?』
即頷く方、考え考えして頷く方。
全員が賛成の意を表明された。
『来られなかった者も、大方の神獣が意見を尊重するだろう。これまで通り委任という扱いだ。それで行こう』
イセの主が纏めた。……ちなみにフシミの主と、イナバの主、そしてイセの主の三柱を特別に三貴神獣と呼び、全ての神獣様より頭一個上に出られておられる。……理由は聞いてないし、興味無いから知らぬ。
して――
そうこうしておる内に、日が暮れてきた。
タキちゃんは未だ子供なので、日が暮れる前に屋根のある場所へ連れて行きたい。神獣様方の野獣のような目に晒したくない。紳士然と気取っておられるが、幾柱かはタキちゃんのような幼子を性的な目で見ておった。それがイカンというのだ!
ツルペタストンのどこが良い!?
『そういうところです!』
解せぬわ!
お夕食でござる。
コジロウ達と共に並んで膳を囲む。
贅沢なおかずは出すな、質素で良い。と言っておいたら、本当に質素なのが出てきた。
青菜の浮いた味噌汁と菜っ葉のおひたし。そして香の物と山盛りのご飯。
タキちゃんに悪いでござる!
「こういう粗末な物しかないが――」
「すごい! ごちそう! ご飯が山盛り! パクパクパク!」
ご馳走らしい。
「タキちゃん。まずは食べる前に、感謝でござる。お米を作ってくれたお百姓様、菜っ葉を育ててくれたお百姓様。味噌を造ってくれた人。そして料理し膳を用意してくれた人。全てに感謝する。そして、感謝の心を頂きますという言葉に乗せる。それを忘れずに」
「はい」
タキちゃんは、食べかけのお椀を膳に置き、お箸を置き、某らと一緒に……
「コジロウ! シュンスケ! ハヤト!」
「はっ!」
食べかけた椀を戻し、食ってませんよとばかりに膨らましたほっぺたのまま、真面目な顔をして手を合わせておる。
「……頂きます」
「「「「いただきます」」」」
ご唱和の後、戦場における乱取りのような勢いで食べ始めおった。
某、脇に置いておいた太刀をスルリと抜いた。
して、礼儀作法の講座を身体に覚え込ませた食事会は終わった。
『お風呂にします? それとも、わ・た・し?』
「風呂だな」
愕然としておるミウラのケツをトントンし、水浴びの準備をさせる。
暑い季節でござるから、井戸水を被ってゴシゴシするだけでござる。ミウラに頼んだのは、見えぬように衝立を立てることと結界を張ることでござる。
『はい! 張り終わりました。どれだけ音を立てても――』
「ふー、さっぱりしたでござる」
「肌がサラッとして気持いいね!」
『だから、このクソザコネコ耳がぁーッ! ヒヨコさんを何だと思ってんですかッ!』
「何度も言うが、ツルペタに需要なぞござらぬであろう!」
『タキちゃんは、貴重なヒヨコさん要員なんですよー! せっかく手元にあるのに何で使わないんですかー!』
「所用も済ませたことだし、寝るか?」
「穴の開いてない屋根だー! うわーい!」
『聞いてて涙が出てきました。二つの意味で』
床に布を敷いて、寝転ぶ。暑い季節なので、お腹の上にだけ布を載せておく。
除き防止用に、衝立を四方へ立てる。ぼろっちい衝立でござるが、ミウラが唸りながら結界の魔法?を掛けてくれたので、こちら側の様子は表に出ない。
ミウラは衝立の中で寝転んだ。ミウラがいない夜は考えたことがないので、某にとって自然でござる。
「ではタキちゃん、お休みなさい」
「ねえ、イオタ様、神獣様とのマグアイって、どうするんですか?」
「ゲホォツ! ゲホンゲホン!」
続くでござる。




