15.秘密基地・マタノ荘
してて、問題は――
「まさか、某の領地で会合がなされるとは思わなかったでござる。そこ! そっと歩くように! 田や畑作物を踏んづけたら某に斬られると思われよ! 道や川を壊したら直させるでござるよ!」
いや、ほんと。ミウラ式で、マジ勘弁してくださいよ、にござる。
現に畦を踏み抜いた神獣様が、土を盛って修繕しておられる。
一時的にでも人目に付かず、身内に等しい場所と言えば、マタノ荘が筆頭でござる。田舎でござる故。
マタノシタ村とマタノウエ村の中間地点で山へ入る道がござる。そこを上がった場所を会場とした。
木が生い茂っておるが、その間隔が広く、神獣様ほどの大きさでも窮屈を感じることなく顔を突き合わせることが出来よう。
村から近いのも良い。
神獣様方はここで寝ても風邪一つひかぬでござろうが、某とタキちゃんはこんな所で寝られない。……この世でもっとも安全な場所には違いないが……。
某とタキちゃんは、ご飯を食べなければならないし、屋根の下でしか寝られない。屋根がある方が良かろう? 夜露を凌ぐためにも!
「家ね、家の屋根ね! 寝転ぶとお星様が見えるの! 雨が降るとお家の中も雨が降るの!」
屋根がある方がよい! そもそも、屋根とはッ!
ここで小一時間ほどタキちゃんと話し合いたい衝動に駆られておるが、今はそんなことしておる場合ではない!
ぞくぞくと神獣様が集まってくる。
一度も来たことがない場所へは跳躍できぬのが掟。故に、空を飛んだり地を走ったりしてやってこられる。
今回は臨時の集会でござる。集まってきたのは近隣の方ばかり。
ミウラ、ヒタチの主が主催。
ムサシ、ギフ、そしてスワの主は嬉しいのか尻尾を千切れんばかりに振っておられる。
イセ、カスガ、カガ、リクゼンの主。
合わせて九柱の神獣様でござる。
『ハイ皆様! 木々を倒さないように! 土を踏み固めないように抜重して抜重!』
『こ、こうか? 難しいな?』
ムサシの主様は律儀でござる。つーか、言われただけで抜重できるのってスゴイでござる。
『そうそう! 頭から紐が出ていると想像して、その紐を引っ張って宙に浮く感覚!』
『こう? ね、こう? これでいい?』
はいはい、スワの主は器用器用!
皆様、頭の上から紐で引っ張られているかのような不自然な姿勢で歩いておられる。どこの百鬼夜行でござるかな?
『ふっ! 羽を持たざる者は不便』
カスガの主は自力で空中に浮かんでおられる。
ビックリ芸は横に置いていくとして――
大変な迷惑でござる!
「すごい! なんか、すごい!」
純粋に神獣様を見て心を躍らせるタキちゃんだけが心の泉にござる。
某にも、あのような純な時代があったのでござろうか? 自信が無い。
『わたしも子供の頃はあんなだった。なにもかもみな懐かしい』
……俗にまみれたミウラにも純粋な時期あったのだから、某にも必ずあったはずでござる!
『イオタの旦那、会議が始まる前にちょっとお耳を……』
ミウラの口調は何かあるときのだ。
「うむ、では一旦マタノ神社へ戻るか」
して――
マタノ神社の本殿裏で。
『前々から話そう話そうとおもっていて後回し後回しになっていたことです』
「なんでござるかな?」
『神獣の巫女について、わたしなりの推測です。神獣の巫女は百年から数百年単位で一人の割合で各国にばらけて出現しておりました。それなのに当世、イオタの旦那とタキちゃんの二人が同時に出現しました』
……言われてみれば。仲間が増えて喜んでおったが、それもそうでござる。同時期に二人の巫女出現。過去則からみても有り得ない。何がござった?
『2人巫女の出現は、確率的な問題でコンマ以下4桁以下の確率です。可能性としてはゼロ。ですが、わたし、無理矢理理屈付けいたしました』
「それは?」
『わたし達が異質なのです。特異点と言ってもよろしいかと』
うむ、フワッとだが理解出来そうでござる。
『わたし達は2人で1人。わたしが神獣でイオタさんは神獣の巫女としてこの世に出現したのはイレギュラー、変則的であり不規則。本来、この時代に出現する巫女はタキちゃんだった。わたし達は、ただ転生の時間軸が揃ったからこの時代のここへ舞い降りた。わたし達はおまけ。まるきりの別物。確率の外の算学問答です』
ミウラの説明が長いのは何時ものこと。されど、……タキちゃんが本命で、某がオマケでござるか。
「……タキちゃんが可愛いから良いか」
『可愛いから良いですよね!』
カワイは正義にござる!
『それに、実力とか影響力とか物事の道理や経験や能力は、わたし達が数段階上を行ってますから、ある程度の指導的立場にいます。これをどうにかして……』
ミウラはチロリと某を見る。
「どうにかして、全部を当代の巫女タキちゃんにおっかぶせて、某らはまったり生活に入る。で、ござろう? ミウラが言いたいのは?」
『ご名答!』
うひひ、と狐の目をしてネコ二匹が笑う!
我がイオタ家も心配はしておるが、コジロウという優秀な代官を得た。タケマルもあと五、六年もすれば元服でござる。タケマルが元服すれば、某は一線から身を引ける。
その頃になればタキちゃんも十五、六歳。今の某と同年齢でござる。
五年の間に仕込みを済ませれば、某らは晴れてお役御免にござる!
『その為には、まずはこの会合を誘導し、もとい、成功させ、次世代の体制を作る』
「俄然、やる気が出てきたでござる! まったり生活のためには命を惜しまず!」
『本! 末! 転! 倒!』
して――
「お待たせ致しました。某とタキちゃんの寝所の準備を整えてまいりました」
『さあ、おっぱじめましょう!』
九柱の神獣様による会議が始まった!
『まずは俺から、事の経緯を説明しよう』
ヒタチの主が、文字通りこれまでの経緯をお話しされた。タキちゃんの発見から、なんやかんやで、ここで会議を開いたことまで。人の目を引きたくないので、本会合は素早く解散したいといった事までお話しされた。
皆様、ふむふむと考え込みながら静かにされておられる。……スワの主だけ、何のことか解らないみたいで舌を出してヘッヘヘッヘしておられる。
そして、視線をチラチラと鶏、もとい、イセの主に向けられておる。イセの主は食べ物ではござらぬよ。
『私が思う議題を幾つか述べよう』
誰も口を開かない中、イセの主が口を開かれた。
チラリと、某とミウラを見た後で。
『まず、タキを神獣の巫女二級と正式に認定する。所属はヒタチの主。ヒタチの主にタキの保護責任が存在する。異存有るまいな?』
皆様、静かに頷かれる。スワの主を除いて、理解した上で承認なされた。圧倒的多数決でタキちゃんの巫女就任が決まった。
『次ぎに、ミウラの主の特殊性と、イオタの特殊性についてである』
『え?』
「え?」
まさかのこっち来たでござる!




