13.カシマ神宮
「おおーい! フウマの方ぁー! フウマ頭領コタロウで殿でも良いぞー!」
山の方に向かって、大声で呼びつける。
しゅたっ!
「お声が大きゅうございます! それとコタロウ様の名を大声で叫ぶのはお控え下さい!」
右脇に何の変哲もない男が出現しおった。ニンジャ座りでござる。
「すでにその方も知っておる件でござるが――」
「公式には何も知りませんので、お言葉にお気をつけ下さい!」
「緊急の案件でござる! ミウラの主と某は、その方らが温泉を覗いて見聞きして知っておろう件により、ヒタチの主の本拠地カシマ神宮へ赴く事となった! よいか?」
「まるでフウマが覗きみたいですので、大声を出さないでください! お願いです!」
「さほど時間はかからぬが、アタ川より一時離れる。イマガワ館へ直接お伝え下され。コネくらい持っておろう? 持ってるはず!」
「持ってますが! 断定しないでください! 秘密なんです!」
「帰ったら詳しいことをお話しいたします、ともお伝え下され」
「承知いたしましたと言いたいところですが、我らの任務はイオタ様の護衛。それにイオタ様は手前共を使う権利がございませぬ! 第一お給金を頂いておりませぬ!」
「権利と給金って……その方ら、某の裸をこっそり覗いておったのでござろう? 隠匿の忍術を使って。なんなら世間に公表しようか? 風魔忍軍の特技として」
「ご下命承りました。直ちに仕事にかかります! ごめん!」
シュバっと効果音だけを残し、未だ判明しない方法で姿を消した。無事、イマガワ館へ連絡を取り付けてくれることでござろう。
「ではタキちゃん。これより、カシマ神宮へ向かう。準備はよいか?」
「あの、そこでもご飯食べられますか?」
「大丈夫でござる」
「だったら準備完了です!」
虹の輪を潜り終えたら、そこはヒタチの国、カシマ神宮でござる。カシマ神宮へ飛ぶと仰せでござったので、カシマ神宮でござる。
カシマ神宮の境内にドンドンと二柱の神獣が出現したのでござる。神宮の使用人達は大あわてにござる。
「かっ、畏くもぉッ!」
年老いた宮司様らしき方が、膝で滑り込みながらゲザーされた。手にはハラタマキヨタマするときに使う紙をくくりつけた棒切れを握っておられる。
『たしか御幣? でしたか? 二枚の紙垂を気の棒きれに挟み込んだ神具です。お祓いするためにバサバサさせるアレ。イオタさんも巫女さんなんですから、神具くらい覚えておいてくださいよ』
「覚える前にイズモの巫女様がチョンされたのでござる。こほん! えー、某、スルガとサガミの国、と、非公式にイズとトオトウミを守護する、ミウラの主の巫女でイオタと申す者。よしなに頼む」
「へぁっ! へへーっ!」
『光の国の戦士ですか?』
「イオタ様! お名前は伺っております。ようこそ、当神宮へ! して、ご用の向きは?」
「そう畏まらずとも良いのでござるよ。ここへ来た用向きは、シモフサにて神獣の巫女が出現した。して、ヒタチの主の庇護下へ入り、ヒタチの主の巫女となった。その連絡でござる!」
「なんと! 神獣の巫女様が!」
「当神宮へ!」
巫女様! 神獣の巫女様! ネコ耳至高る! ヒタチにも神獣の巫女様が!
集まった者達がざわめいている。変なのが一人混じっておるが。
して――
本殿に案内された。宮司様と重臣的なお方々が、下座で五名ばかり並んでおられる。お年を召した宮司様の膝に血が滲んでおるが、大丈夫でござろうか? ゲザーも命大切に。
ミウラはゴロリと横になっておるが、ヒタチの主はキリリとされておる。目も細まってキリリ感を演出しておいでだ。
ヒタチの主の前にタキちゃんと某が座るという図でござる。二人の前にはお茶が入った湯飲みが出されておる。
「こちらはヒタチの主の巫女、タキでござる。神獣の巫女二級免許持ちにござる。ちなみに、某は一級免許持ちにござる」
『さりげなく自慢』
「よ、よろしくお願いします」
タキちゃんが、チョコンと頭を下げた。仕草がカワイイでござる。
一通り経緯をかいつまんで話しておいた。
「なるほど! それは可哀想な身の上。嘆かわしいことにございますなぁ」
お爺さんが孫娘を見るような目でござる。
「うむ。その村から神獣の巫女が出たのでござるから、ご両親ご家族の方は村で何とか面倒を見てもらえると思う。カシマ神宮の方からも、それとなく様子をうかがってもらえれば助かるのでござるが」
「お任せ下さい!」
「頼もしいでござる!」
神獣二柱を後ろに控えさせておるのでござるから、圧、もとい、霊験もあらたかでござる。
それに神獣の巫女を擁する神社、神宮でござる。世間的な権威が大幅に上昇するでござろう。
「して、タキの今後の身の振り方でござる。ヒタチの主が、ここカシマ神宮を主として住まいされておられる故、タキもここで預かってもらうのがもっとも良かろうと。これがヒタチの主、ミウラの主のお考えでござる」
「ははっ! お任せ下され! タキちゃんに不自由はさせません!」
孫決定でござる。
「頼みます、宮司殿。して、タキは先だって巫女となったばかり。礼儀作法も勉学も何も知らぬ子供。そのあたりも教えていただければありがたい」
「わ、私共で神獣の巫女様の作法でございますか!? 私共は神獣の巫女様の作法は、不勉強にて何も!」
あー、そうか。
「えーっと、読み書きと簡単な計算、それと、一般的な礼儀作法だけでかまいませぬ。神獣の巫女とは、つまるところ、神獣様の通詞でござる。普通の巫女とは仕事が違うのでござるよ。某からの注文は、修行や仕事中でも神獣様の用事を優先していただきたい位でござる」
「それくらいでしたら」
宮司様はホッとされておられる。
「さしあたって、ヒタチの主様のお側に部屋を用意してもらいたい。夜は別々の部屋にしてくだされ」
「それはもう!」
目がキッと吊り上がった。孫娘を見守る爺様の目でござる。孫が溺れたら、泳げないのに飛び込む爺様の目にござった。
「そうと決まればこうしちゃおれん! 皆の者、仕事じゃ! 儂に続け!」
オウとばかりに掛け声かけて、威勢良く飛び出していく神官の方々。
入れ替わりに巫女様が入ってこられた。若い巫女様はおられぬ。おばさま方ばかりでござる。
某やタキちゃんの身の回りの世話をしてくださるそうな。
「もともと、ヒタチの主にはお付きの者はおりませんでした。ですので、巫女の座を争う様な真似は致しません。どうぞ、心安らかにお過ごし下さいませ」
巫女頭様からのお話でござる。礼儀作法が洗練されておる! 母上と肩を並べる切れ味にござる!
「こちらこそ、よろしくお頼み申す」
負けてはならじと、母上仕込みの礼儀作法の奥義炸裂でござる!
『トントン拍子に話が進んだな。感謝するぞイオタ』
「ははは、何のこれしき!」
『イオタの旦那が、神社社会で認識されつつあるのでしょうね』
して――
一段落した老宮司殿を呼びつけた。話がある。
「イオタ様、あの、お話の前に、あの……」
「アレでござるな」
老宮司殿が聞きたいことは分かる。
空を飛び回っとる黒くて大きくて不思議な鳥のことでござろう。知らない人が見ると怖い。ヤタガラスなんて誰も知らぬでござろうし。
「宮司殿、アレがかの、有名、なヤタガラスでござる。聞いたことはないでござろうが」
「ええー! アレがかの有名なヤタガラスでございますかー! 関係者ならみんなが知っている、神獣様同士が連絡し合うために使われる、あの有名な式神でございますかー! この年になってヤタガラスが見られるとは! 寿命が四十五日伸びましてございますー!」
知っておったか……有名でござったか……デンスケと同じく寿命が延びたのでござるか。
「んーとね、ヤタガラスは、近在の神獣様と連絡を取るために飛んでおられる。飛んだ回数だけ連絡が行き交っておるのでござるよ」
解説しておるのだが解せぬ!
「それで、この老体をお呼びになられたのは? 如何なるご命令でもお申し付け下され!」
ニコニコ顔の宮司殿でござる。仕事を与えられ、喜んで走っていく犬のようでござる。
『神獣様の御用事ですからね。神官冥利に尽きるんでしょう』
うむ、喜んでくれるならいい。
「およその決まりでござるが、近隣の神獣様がお集まりになり、会議が開かれることとなった」
「なんと! まさか! ここカシマで!?」
「残念ながらここではない。タキの事が議題となる故に、ヒタチの主とタキの本拠地であるカシマで寄り合いを持つと、偏りがあっていかん、との意見で纏まりつつあるのでござる」
「それは、仕方ありませぬ……いえ、残念は残念でございますが、おそらくいきなりな会議でございましょう。ここでは対応できかねると思いまして……」
ここで会議して欲しいのが本音でござろうが、急な開催に準備が出来ぬ。準備不足で神獣様の御不興を買いたくない気持の方が大きい。といったところでござろうな。
わかるわかる! 誰だってやっかい事は背負いたくないのでござる故。某も、出来れば傍観者でいたい。
「そこで宮司殿への話でござる。神獣様方は、人に対し、秘密の会議を開くこととなった。開催場所は内緒でござる」
タキちゃんの身の安全を考えてのこと。
某はイマガワ家という利益協同団体による強力な保護があった。某自身も武士であったため、個人戦闘力を有しておった。色々併せ持っておるので、己の身は己で守れたのでござる。
それでもアシムラ家のような加害者が出てきた。……そういや、何とかという若侍どこにいる?
もとしいて、――
されど、タキちゃんにその様な背景はない。
貧乏村の貧乏なお百姓さんの娘。しかも親はタワケ。本人に戦闘力はない。身体も弱い。
悪い大人に、どうぞ利用してください、と差し出すようなものにござる。
完全な防御態勢ができるまで、隠すに限る。
「して、これは宮司殿を信頼しての話でござる。しばらくの間でよい。宮司殿達も、口を閉じておいていただきたい」
「畏まりましてございまする!」
「いずれ、二級巫女タキを宮司殿らの懐で保護してもらいたい。これはヒタチの主、並びにミウラの主、および、連絡の付いた神獣様方の共通した希望でござる。宮司殿! そなた神獣様に頼られておるぞ! カシマ神宮の責任は重大でござる。泣き言は許されぬぞ!」
「なんの! 神獣様の御為なら、カシマ神宮の者共、そろって社と町に火を付け、神宮を枕に討ち死にいたしましょうぞ!」
「そこまでせんでいい、逆に迷惑にござる!」
戦国時代の人間は武士にしろ神官にしろ、死に急ぎすぎるでござる!
『旦那旦那、イオタの旦那! 準備できました。わたし達は先に入りますよ!』
「わかった。某も参ろう」
して、どこへ行くのか聞かされないまま、某は虹の輪を潜る。
神獣様方の秘密の場所? それはどこでござろうか?




