10.とりせつ
『俺が思うに、神獣の巫女は、イオタと違ってまともな女の子だ。神獣の全てを受け入れられるはずがねぇべ?』
「某はまともでないと?」
『特別な存在だと言ってるべ? そう聞こえなかったか?』
「ならばよい。ふふふ……」
ヒタチの主は人格者でござる!
『普通の女の子であるタキは、俺を見て恐れていた。まー、俺の甲斐甲斐しい努力と優しさが、すぐにタキの心をほぐしたが!』
そこはかとなくご自慢なされるか!
『親元を離れて寂しいとか、心細いとかは、もうアレで横へ置いておこう。俺は実験したいんだ』
「『実験?』」
なんでござるかな? 某はミウラの顔を覗きこんだ。ミウラも答えを知らぬと見て、某の顔を見ておる。
『神獣の巫女は、一件の例外を除き、全て自殺または気がふれて死んでしまった。それはひとえに、肉体関係を求めたから、もしくは、肉体関係を結んだからだ。一件の例外を除いて。これは前振りね。起承転結の起ね』
前振りでござるか。
『そこで賢い俺は考えた。神獣の巫女を己の物とせず、人間の男と見合わせ夫婦にして、子供を成させる。はたして、その子は神獣の巫女となるか? 神獣の巫女は血を介するのか? それと、俺は直接致すより見ながら至高する派だ!』
ふっ、変態……。
『解ります。ヒタチの主のお気持ちがよく解ります!』
『おお、ミウラの主。高尚な趣味を理解してくれるか?』
ミウラもな!
ケダモノ共にタキちゃんは任せられぬ! 某がしっかりしないと! タキちゃんが大きくなったら、某との目もござるからな、ゲフッ!
「ではタキちゃん。もうすぐ昼でござる。お腹は空いてござらぬか? 昼の御飯を一緒に食べよう。ご馳走が出てくるぞ!」
タキちゃんは、うんと大きく頷いた。可愛い笑顔でござる。ちっちゃい子は餌付けに限る。
して――温泉屋敷の中でござる。
海のお魚を中心とした料理が出てきた。飯も山盛りよそってある。
タキちゃん、食べる食べる! モグモグムグムグと小さい口が良く動く。柔らかそうなほっぺたがムニムニと動いておる。
食事を終え、白湯なぞを飲みながらのまったりとした午後でござる。
「ではタキちゃん。神獣様の巫女となる覚悟は出来ておるのかな?」
「うん」
こくりと頷いた。ちゃんとお返事してくれた。
「おとたんやおかたんが喜んでくれる。弟や妹もたっぷり飯が食える。あたしも美味しい御飯が食える」
おお! タキちゃん、長い台詞でも喋れるのでござるな!
「では、巫女の説明を致す。良く聞いて覚えておくのでござるよ。分からなかったり、忘れたりしたら何度でも聞き直すのだぞ」
「うん!」
「よしよし! ではまず、巫女の使う返事はウンではない。ハイだ。言えるかな?」
「はい!」
元気でござる! 何処かのネコと違って素直でござる!
「うむ、良き返事でござる!」
ニッコリ笑う。タキちゃんもニッコリ笑った。
「して、神獣の巫女の仕事は、一も二もなく神獣様の通詞でござる。えー、通詞とは、神獣様のお言葉を回りの大人達に伝えることにござる。よいか?」
「はい!」
元気な返事にござる!
「では次ぎに、巫女の階級を教えよう」
この辺はややこしいし、こないだ作ったばかりなので説明するならミウラが適任でござるが、怖がってはいけないので某が勤めることにした。
「下から順に三級、二級、一級とある。三つの階級だけにござる」
「はい!」
「うむうむ。三級は神獣様のお言葉が解り、通詞ができる者に与えられる階級でござる」
「はい!」
返事がよい! 可愛い!
「二級は、三級の資格を持った上で、特定の神獣様にお仕えする巫女が得られる階級でござる。ヒタチの主の巫女となったタキちゃんは、二級巫女ということでござる」
「あたしは二級巫女!」
「賢いぞタキちゃん! して、一級は、えーっと、神獣様と懇ろになって――」
『神獣と致すんだ。致すとは助平だ助平!』
「こ、これ、ヒタチの主!」
タキちゃんが顔を赤らめた。少しくらいは知っておるのだな!
『アレやコレや受け入れていると、やがて仕える神獣に添った変化が体に表れる。イオタのはネコ耳とネコ尻尾だ。こうなると、ちょっとした神通力まで得られる』
「これ、ヒタチの主! 子供相手に変質的なことを言うでない!」
『ったくよ~! 何も知らない子に大人の知識を与える。それが醍醐味なんだよ! なあ、ミウラの主?』
『分かります。完全理解ですヒタチの主』
「ま、まあ、タキちゃん、何のことか分からぬでござろうが……」
「あの、知ってます。おかたんに教えてもらいました。……その……男女の睦みごとを」
顔から火が出そうなほど赤くなったタキちゃん、モジモジして恥ずかしそうに喋る。
『これだ! これが見たかった!』
『この一言が聞きたかった!』
後ろでリスネコが転げ回っておる。後で刀を突き刺しておこう。禊ぎでござる。
『ひょっとして、イオタは小さい子が駄目なのか?』
「ヒタチの主、某は小さな子に手を出すようなケダモノではござらぬ」
『そんなこと言って! イオタの旦那、タキちゃんは女の子なんですよ。もうちょっと成長すれば、色んな所が成長しますよ。その時、タキちゃんが頼れるのは旦那だけなんですから。色々と教えてあげなきゃ』
……某にも刀を突き刺しておこう。それで禊ぎは終わる故ッ!
もとい!
「こほん! そう言うことで、某は幸か不幸か、一級巫女でござる。この耳も尻尾も本物でござるよ。触ってみるか?」
タキちゃんが興味津々な目をして手を伸ばしてきた。人見知りするが好奇心は旺盛でござるな。
耳に触れそうになったところで……ピコンと耳を反らす。
「あっ!」
タキちゃんの指が空振りでござる。
「あはは! 引っかかったでござる!」
「あっ! あっ!」
ピコピコと耳を動かす。触れそうで触れない。某の周囲をピョンピョンとはね回っている。
『あっ! イイ! 旦那! それいい!』
『至高! ちっこい子とネコミミ美少女の戯れ。イケル! 至高れる!』
ケダモノは後で刺すとして、そろそろタキちゃんに触らせてあげよう。
「あっ! 温かい! 柔らかい!」
耳をグニグニと触っておる。くすぐったいでござる。
「本物でござろう?」
「次ぎ尻尾!」
「あひゃぁーっ!」
いきなり尻尾をつかまれた。変な声が出てしもうた!
『心臓に来たッ! イオタ、キサマ天才か!』
『もうちょっとやめてください旦那! 神獣を殺す気ですか?』
慌ててタキちゃんの手を払う。尻尾をうねらせて反対側へ移動させる。
「タ、タキちゃん、尻尾をいきなり触ってはいけない!」
「なんで?」
「尻尾の付け根はどこでござるか?」
「……お尻?」
「そう! いきなりお尻、それも割れ目を触られたのと同じでござる。タキちゃんは、いきなりお尻の割れ目を触られたら如何思うかな?」
「嫌です!」
「でござろう? だから、尻尾は触ってもいいが、一言断って欲しいのでござるよ」
「はい!」
よい子でござる……して、よい子でない悪い大人共は?
『は、破壊力が。なんて破壊力なんだ!』
『お強い! 話を聞かない人よりはるかにお強い!』
神獣が二柱、床で転がり青息吐息でござる。
こういう大人になってはいけない良き見本でござる。
「して、タキちゃん。タキちゃんは二級で良いな?」
「……その、あの……」
タキちゃんがもぞもぞしている?
「イオタ様と同じ、一級にして欲しいのです!」
……「『『はぁ?』』」




