9.タキ
ヒタチの主。ヒタチ、シモフサ、カミフサ、アワの四カ国を守護する大神獣様。
見た目、大きなリスである。くりっとした目が可愛い。
『わ、わたしもスルガとサガミの2カ国の他に、気付いたらイズとトウトウミも守護してたんですからね!』
ミウラは張り合わなくても良い。
問題は、ヒタチの主の後ろ、モフモフの尻尾の陰に隠れてこっちを見ている少女であろう。
『細い! ちっこい!』
ガリガリで背が低い。おまけに日に焼けていて満遍なく黒い。小ぎれいな着物を着ておるが、みすぼらしさは隠せないし埃っぽい。……よく見ると、着物の裾とか袖がほつれてる。
あと、小動物のようにオドオドした挙動。黒くてクリクリした目が、クリクリしている。
獣耳と獣尻尾は未だのよう。
『手は出していないと?』
あの年齢で契っていたとしたら、ヒタチの主を斬らねばならぬ!
「えーっと、ヒタチの主の巫女殿でござるか?」
尻尾に隠れながら、こくりと頷かれた。人見知りが激しい子でござる。
それでいながら、某をガンガン食い入るように見ておる。
『えーっと、イオタの旦那。黒のワンピース水着のままでございます。いたいけな少女にとって、そのお姿は少々刺激が強すぎるようで』
「おおう! これは失礼した! 某のこの格好は、海に浸かって遊ぶための物でござる!」
少女はビクンビクンと小刻みに震えておられる。
『まさか、その水着の系統が巫女様の制服と思っておられる……とか?』
それではまるで某が痴女ではないか!
『痴女のネコミミ美少女とロリツルペタ少女の絡みも好物です』
「違う! 違うのだ! これはあくまでお遊び!」
『……と言えば、神獣様とスケベなお遊びをしていた、等と連想させるのでは? 痛い痛い痛い!』
髭を握って捻って黙らせてやった。
「いつもの着物に直せ!」
『へ、へひゃい!』
水着がパンと弾けて千切れ飛んだ。
『おっ!』
「ひぅ!」
おっぱいボロンでござる。全裸でござる。ヒタチの主は性的興奮を現す悲鳴を上げ、女の子は殺されそうなときの悲鳴を上げた。
光の帯が体をなぞるように纏い付き、一瞬ピカリと強く光ったらいつもの着物を着ていた。直垂に袴姿でござる。……が!
「おいミウラ、下着忘れておるぞ!」
無パンチュに無ブラでござる。
『おや? この時代におブラとおパンチュは存在してましたっけ?』
「おや? 神獣の制服はおブラとおパンチュが標準ではなかったか? あの子のおパンチュ姿を想像してみるがよい」
『承りました』
おパンチュとおブラ装着でござる!
「こほん! お初にお目にかかる。このネコはスルガの神獣様、ミウラの主」
『ただ今ご紹介にあずかりました。ミウラの主です。以後よろしくね』
緊張しまくるチビッコ。ネコの目を持ってしか分からぬほど小さく頭を下げた。ミウラの声は聞こえておるようだ。
「して、某は、ミウラの主の巫女でイオタと申す者。よろしくな。してて、娘、名前を聞かせてもらえるかな?」
モジモジしながら、ヒタチの主の尻尾より体を半分だけ出して――
「……タキ……」
ネコ耳でようやく拾えるほどの小さき声でござった。
「タキちゃんでござるか……あれ? タキ?」
なんだか聞き覚えが……
『タネラにいたときのタキ坊と同じ名前! はっ! 女体化! 燃える!』
ミウラには自然発火していただくとして、この子の事を詳しく知りたい。
これまでの神獣様方、および、神獣様に詳しい方々のお言葉を纏めると、神獣様の巫女は滅多に現れないという事でござる。
現れるとしても百年から数百年の間隔が開く。希少な能力者にござる。
某という神獣の巫女がいて、また新たに神獣の巫女が現れる。同時代に二人の巫女が現れた。世界開闢以来初のことではなかろうか?
『それに関して、わたしに説がございます。後で解説いたしましょう』
「うむ。されどミウラ、某の心の声を勝手に拾うな」
『いえ、そんなことを考えているのではないかなー、と思って口にしたまででございます』
「ならいいか」
『えーっと、ミウラの主とイオタ。夫婦漫才を楽しんでるところ、まことに、まっことに申し訳ないけどもよー、そろそろ話をして良いかなー?』
「何を仰せか、ヒタチの主。漫才なぞしておるつもりはござらぬ! なあミウラの主?」
『そうですとも! ではお話をお聞きいたしましょう! まずは馴れ初めから』
『……ま、いいけど。じゃぁ――』
タキは十歳『数え年齢ですから、満9歳。小学校4年生です』だそうな。
シモフサのとある田舎の村で、村人が大勢集まってワイワイしておるところにヒタチの主が偶然通りかかった。
『今から思えば、タキの運命に引かれたからそこを通りかかったんだろうな』
何事かと近づくと、どうも新しい橋の完成記念に人柱を埋め込む作業の最中だったそうな。
「ひ、人柱? 今時でござるか? まさか、タキが人柱に?」
『おかしな事を言う。イオタよ、人柱なんか珍しくねぇだろう?』
『えーっとイオタさん。今より百年以上後の「未来」ですと人柱なんて迷信だ。代わりに人型の彫刻でも放り込んでおけ、となるかもしれませんが、「現代」では人間を柱のパーツ、部品ですね、に使うのがメジャー、最有力説ですね、なんですよ』
うーむ、色々と介入したいと思うが、悪目立ちするでござる。
『それにだなぁ、ミウラの主、イオタ、人柱を出した家は村民に大切に扱われるんだ。例えば、米や田畑を融通してくれるとか――』
ヒタチの主の話は続く。
タキは五人家族だそうな。両親と長女のタキ、小さい弟と妹の五人。して、五人を養うには小さすぎる田んぼ。
『タワケと言ってな。田を分けると書くんだ。タキの父親は分家なんだ。本家の次男だったそうだ。親が次男に田を分け、次男は家族を持った。馬鹿な親だ。余程次男が可愛かったか、可哀想に思ったか。ちっこい田んぼで家族を養えるはずないだろ? 分けた本家も田が少なくなる。苦しいのが二軒できあがり。だもんで田分けはタワケだ』
して、話は続く。
田を分けてもらい、嫁ももらい、子供も増えたのだが、案の定、田が足りない。小さすぎて、家族五人も暮らしていけない。最初から分かっていたことだ。
そこで出てきたのが新しく作った橋の人柱。
人柱の効果効能は置いておいて、人柱を出した家は将来に渡って米を分けてもらえる。色々と優遇処置をもらえる。上手くいくと、田んぼがもらえる。という決まり事がこの世界にあるそうな。
そこで、差し出されたのがタキ。
どういった経緯で出されたか、差し出した親御さんの気持ちは分からぬが、人柱にタキが選ばれた。
でもって、タキを埋め立てる直前にヒタチの主が通りかかった。
『なにやってんだ?』
それは独り言だった。人に聞こえない神獣の言葉であった。
「はい、人柱で埋められるところです」
タキが答えた。ごく自然に。
それからが大騒動であった。
タキが神獣様の言葉を聞き取れる! 何度か試したところそれはまごう事なき事実!
日の本の国全部ひっくるめて数百年に一人出るかでないかの神獣様の巫女出現。
なんやかんやの騒動があり、タキはヒタチの主の巫女となる。
残されたご家族は、村や近くの神社の援助を得ることとなって大団円。
神獣の巫女になったとはいえ、これまでの巫女がこれまででござる。ヒタチの主は、ミウラと某に助言を求めてやってきた。
↑いまココでござる。
「で、あれでござるか? タキちゃんは未だ幼いので、致したくとも致せない。その悩み相談でござるかな?」
『あーはいはい、こちらは経験豊富な相談員が揃ってますから、安心してご相談下さい』
『ちげーし! そんなんじゃねーし!』
ヒタチの主から、信じられない言葉が飛び出した。
「神獣の巫女を手にして、致す気が無いとは!」
『神をも恐れぬ大犯罪!』
『手を出さないわけがあんだよ! 大犯罪はチビッコと致すことだろーが!』
パキパキと音を立てて、周囲の空中に雪が浮かびだした。うわっ! 冷える!
『俺が相談したいのは、巫女としての扱い方針と、タキの取り扱い説明だ!』
……ああ、ヒタチの主は理性的な主でござったか。




