1.イズ・アタ川温泉
再開しました!
『カポーン!』
「?」
『いえね、温泉の効果音なんですけどね。この時代、露天温泉ばかりなんで、寂しくてね』
何を言ってるのか訳が分からぬ。
醒めた目でミウラを見つめる。お湯は熱いが。
上手く言えた!
イオタ家領地マタノ荘での仕置きを終え、イオタ家領地マタノ荘での仕置きを終え、大事なことなので二回言った。もう一回言っても良いくらいでござる。イオタ家領地マタノ荘での仕置きを終えて、温泉に浸かっておる。
「長湯は避けよう。ザバー!」
『おお! お股から流れ落ちる雫が違う雫を連想させてなんともかんとも!』
月は皐月『旧暦です』でござる。気温が高い『グレゴリオ暦で6月下旬から7月上旬です』。本来温泉なんかに入る時期ではござらぬ。されど、ミウラがどうしてもアタ川温泉へ行きたいと駄々をこねるので、付き合った次第。
『あれ? わたしの記憶ではイオタの旦那が「疲れた! 休みが欲しい!」って言いながら縁側まで転がりまくるから、暑い季節ですが温泉にでも行きましょうか? って申しあげましたところ「何故それをもっと早くに言わん!」って逆ギレしてましたよね? 怒りに身を任せて必殺技撃って良いですか?』
「すまぬ」
『誠意って……何ですかね? ――by北の国から』
「これが某の誠意でござる」
下からオッパイをすくってフルフルした。
『誠意は伝わりました。夏の温泉旅行を楽しみましょう!』
ミウラは話せば解る子であると信じていた。
「湯は満喫した。海にでもくりだそう!」
『おっ! 久しぶりですね。旦那の水着を作りましょう。それぃ!』
「うわぶっ!」
体を光の帯が縛り付け、布地を形作る。
あっという間にわんぴぃす型水着を着装した。前世と同じ意匠で、伸縮性に優れた黒の水着でござる。
温泉から真っ直ぐ下へ下っていけば、アタ川の海にござる! 砂浜に打ち寄せる波でござる!
神獣様専用砂浜でござる!『プライベートビーチですね』
ここで漁をすることは禁じられておる。某らに見つかったら死罪にござる。
逆に言えば、某らに見つからねばよい、ということで、漁をされていても某らは見て見ぬ振りをしておるので、実質死罪になる者はおらぬ。
『わたし達を優先して下さればそれで良いということでございますよ』
波打ち際で戯れるネコ耳美少女と、しつこく体を絡ませてくるネコ型神獣がそこにあった。
それを生暖かい目で見守る漁師さん達。
「勃起眼、開眼!」
ギュオッ! ギュオギュオュ!
夕方にはアタ川の海でとれた海産物を届けにきてくれる優しい人達だ。
して――
なんで、クソ暑い季節にアタ川の温泉中に来ているのかというと……
遅れ遅れになっていたが、東風様がスルガの国に下向なされた。
気をよくした御館様が、キョウの風をみなと分かち合おうと思われた。
在スルガの有力者を広間に集め、東風様と御館様の対談をお見せになった。ミウラが言うには『権力の誇示ですよ』
だ、そうな。
『その証拠に神獣様の巫女たるイオタの旦那も呼ばれたでしょ? 旦那の席次が御館様に近ければ近い程、その傾向がございます』
して、何かにつけて初めてのことが多いので、お知り合いの方々に聞いてみた。かような行事は、多いのかと。
答えは、滅多にない。あるいは、そんなの初めて。でござった。
ミウラが言う通り、某を利用した権力集中および、権威をあげるのが目的でござろう。
『ですんで、気をつけてくださいね。変な言質を取られないように気をつけて。答えに困ったり、嫌な予感がしたときは「持ち帰ってミウラと相談します」で、逃げてください。未来の世界では洗練された常套手段とされております。営業職の』
未来の世界の常套手段なら心強いでござる! しかと覚えた!
して、当日にござる。
大広間で、一段高いところに畳が敷かれており、そこに御館様と東風様が並んで座り、対談をするという形式でござる。
同じ段の畳が敷かれてない下座に御台所様がおすわりになっておられる。
一段低い、つまり、普通の床に、セナ様を始め有名な方々が行儀良く並んでおられる。
さらにその後ろに、中堅のお家の方々。その後ろはイマガワ館へ上がることを許された方々、と続く。
当主のみ参加を許され、名代は許されない。
某は……木っ端武士である某なのだけれど、なぜか御台所様と同等の位置に座っておる。御館様と東風様を挟んだ反対側でござる。歯の根が合わぬ程ガチガチでござる。
『ですから、イオタの旦那は、本来御館様より上の立場なんですって!』
どこからかネコの鳴き声が聞こえてきた。
でもって、御館様と東風様が歓談。チラチラと某の顔を見ながら。
話は、イズモの件でござる。日時は経っておるが、最新の公式発表にござる。
キョウの争乱は話されておらぬ。なにせ公方様が係わっておいででござるから。
最近のキョウの流行とかを面白おかしく挟み込みながら話されておられる。某に気を使っておられる事、ビシビシ伝わってきておるのでござる。
時々話を振られるが「はぁ」とか「いえいえ」としか言ってない。脇汗がだくだくでござる。
某がらみの話が終わり、各国の状況と文化文明に移ったでござる。取り敢えず某の話題から逸れたのでホッと一安心。居並ぶ皆様のご様子を伺うことができるまで余裕が出来た。
して――
先ほどから視線を感じておったのござるが……
某を刺すような? 挑むような? 睨み付けるような? そんな目でずっと某を睨んでおられるお方が一名。
若いお方でござる。若侍でござる。体ががっしりしておられる武闘派っぽい侍にござる。
気になるでござる。別の意味で汗が出てくるのでござる。
チラチラと目を合わせる度、より力を目に込めて睨み返されるのでござる。
都度、隣に座っておられる中年侍に小声で咎められておられる。あきらかに某狙いでござる。
某、何かした? 見知らぬ顔でござるよ。終わるまで俯いたまま過ごすのが良いと思う。
……と、気がつけば、御館様と東風様のお話が終わっておった。最後の方、聞いておらんかった。
「その者……」
御館様が口を開かれる。何やらご不満のご様子。某が心ここにあらずであったのを咎められておられる……。一瞬そう思うたが、どうやら違う。
先ほどから御館様のお話を無視して某を睨んでおった若侍に向けられたご様子。
「……なにゆえ、先ほどからイオタを睨んでおる?」
目力の強い若侍は、初めて某から目を離した。
「御館様に徒成す人外の化生を睨み付けております」
「やめよフミマサ!」
隣の中年が若侍の肩を抱き、引き倒した。フミマサと呼ばれた男は、その手を振り払い、また某を睨み付ける。
「その方、フミマサと申すか?」
御館様がそう言うと、フミマサ殿は僅かに頭を提げられた。某を睨み付けながら。目が血走っておる。
「お恐れながら。この者はニシグチ家の当主フミマサと申す者。此度のご無礼、平にご容赦を!」
隣の中年男が頭を下げる。ニシグチ家のフミマサ殿の頭を力尽くで下げようとするが、力尽くで逆らっておる。
「その方は?」
「はっ! アシムラ家当主タダマサと申します!」
あ、アシムラ家!?




