16.御屋形様
領地経営編、最終話です。
私がイマガワの御屋形様と呼ばれるようになって、どれくらい経つか?
……二十年が過ぎたか……
もう二十年。まだ二十年。やっと二十年。早くも二十年。
イセのシンクロウ叔父上に助けられ、スルガを掌握したのが二十年前。シンクロウ叔父上の手を煩わせぬようになって幾年月……。
昔話はもうよい。
私が治めるイマガワは、父の代よりも大きくなった。強い家になった。
クシマ、アサヒナ、アマノ、イイ、オキツ、イハラ……。
戦が強い武将。領地経営が強い武将。多くの有能な武将が育った。
そう、育った。大きくなった。
私の父の死を利用し、私を廃しようとした男も、強く大きくなったから己の意のままに……いや、己の都合が良く、望む方向へイマガワを持っていきたかったのだろうな。だから邪魔になった私を殺そうとした。
だから私が殺した。
セナも私に取り入って家を大きくしようとしている。セナはよい。友でもあるのだから。
クシマとアサヒナ……大きくなりすぎた。
イイ家は、大きくなりすぎるとミカワへ寝返った際、手を焼くこととなる。
オキツもこれ以上稼がせるのはどうだか。
力を削ぐか……。
「御屋形様。イオタ様、お見えでございます」
「うむ、通せ」
イオタを呼んでいたのだった。
「イオタ。お召しによりまかりこしました」
廊下で、頭を下げて座る巫女装束のネコ耳ネコ尻尾美少女。イオタである。
この者、下級武士の子女であったが、イマガワ家への忠義が厚い。ともすれば、神獣様より、私を優先する。巫女としてそれで良いのか? と疑問が残るが、単純に嬉しく思う。
ご尊顔をからの、近う寄れからの、儀礼的なやりとりを経て、直前に座らせる。……この者、こういった儀礼的なやりとりが好きなようだ。なので、手間とは思うが、したいようにさせている。今日も喜んでくれるだろう。
「話というのは他でもない。イオタを見込んでの話だ」
「ははっ! 有り難き幸せ!」
はははッ! こちらにまで緊張感が伝わってくるぞ!
黒い尻尾がパタパタと床を叩いておるからのう!
「その方の目を借りたい。イオタから見たクシマは、如何映る?」
「はっ! 勇猛果敢、武人の鏡。苛烈な武。されど、内政もお上手で部下からの信も厚い――」
当たり障りのない答えである。
「――生涯にわたり、イマガワ家の為に尽くされるお方でございましょう」
……。では本題と参ろう。
「イオタ。私はずっと前から知りたいことがあった。なぜ、ミウラの主は、イマガワ館におられるのか?」
「は? あ、ああ、それね、えー……」
話に裏があると思ったか、イオタは言葉を選び始めた。
「ははは! 深く考えてくれるな。普通、神獣様は神社におられる。武家屋敷に、それも一国の領主の屋形に住む。そんな神獣様は珍しかろう?」
「は、はあ。なるほど、そのことでござりましたか。ほっ!」
見た目にホッとしおった。初々しい緊張感である。ういやつ。
「一言で申せば、面白いから、でござります」
「面白い?」
この言葉には色んな意味がある。イマガワを嬲る意味ではなさそうだが?
「はっ! この館におりますと、人の動きが見えるからだとの仰せでした。ミウラ……の主が仰せになる人の動きとは、人そのものの行動はもちろんですが、心の動きが見えて面白いのだそうでございます」
しばし次の言葉を待ったが、イオタ黙ったままニコニコしておる。これで解るだろうと?
「いや、それだけでは解らぬ。もうちと詳しく話すがよい」
「はっ! しからば、えーっと……」
尻尾がユラユラと揺れておる。考えに集中しておるのだな。イオタの頭の中は、尻尾を見れば分かる。
「子が懐く親は、頼れる親でござる。お家も又しかり。武士にとって大事はお家。お家を大切にし繁栄させてくださるお方こそよき主。御屋形様の下でなら、お家を繁栄させることができる。ならば、家のために個の命を捧げて、御屋形様をもり立てていこう。御屋形様はきっと応えてくださる。そう思われておられる方々がイマガワには大勢おられます。勇将猛将と呼ばれる大家、果てはイオタ家のような有象無象の小家までもがイマガワ家のため、御屋形様のためお勤めしておる次第にございます」
うーむ、聞いていて耳が痛いわ!
「そういった方々の心の動きが見ていて面白い。イセ家と違ってイマガワは楽しい、と仰せでありました。ただただ神獣様にお仕えするだけの神社では味わえぬ、との事でございます」
「ふむ、なるほど。あいわかった。ミウラの主の広い御心には感心いたすばかりである」
「ははっ! 有り難き幸せ!」
イオタはミウラの主を褒めたり崇めたりすると、我が事のように……違うな……我が家族が褒められた事のように、だ。嬉しそうにする。
その笑顔が見ていて心地よい。
「手間を取らせた。下がって良い」
「ははっ!」
古式ゆかしく。イオタは礼儀正しく下がっていった。
親と子か……父は私が幼き頃、お亡くなりになった。私は父の顔を忘れた。いつ頃忘れたのかな?
仕置きはもう少し様子を見てからといたそう。
――三ΦωΦ三――
『おや? お早いお帰りで』
「何か解らんが、禅問答のようなことを聞かれた」
『ひょっとして、イマガワ家経営の参考に聞かれたのでは?』
「うむ! 領地を持つと、言葉に重みが出るか!」
イオタ家は領地持ちでござるからな!
「着替える故、結界を頼む」
某が男だったらポイポイと着替えられるのでござるが、男の目がござる。側勤めは男でござる。なぜか男しかおらぬ。
『結界の簡易バージョンを作りました。試していただけますか?』
スーイ、バタン、スーイバタン! と衝立が自分で動いて部屋の中央を取り囲む。
『衝立に音やなんやかんやを遮断する機能を付けました。半永久的に機能します。イオタの旦那だけでも自由に使えますから、ちょっとしたことになら便利だと思います』
ミウラが中へ入り、暴れておるが、何も聞こえぬ。時たま、衝立の上から耳や尻尾が見えるだけでござる。
『如何です?』
ひょっこりと顔を出せば、声が聞こえる。
「完璧にござる」
側勤めの者に遠慮はしておらぬが、若い男達ばかりでござる。あちらの方が某に対し、遠慮しておる。たとえば、視線を外しておるがチラチラと伺い見をしたりとか。
「では」
と言うことで衝立の中へはいる。ちょっと暗い。一方を明かり取りに開けておきたいのでござるが……
「……ちなみに、一方が開いておったらどうなる?」
『その一方からは中が見えますね。音は、難しい理由があって9分の1に以下になりますが、聞こえます。指向性なんで、衝立が立ててある側からは何も聞こえませんが』
「ふーん……」
とりあえず、ミウラが寝そべる方向だけを開けて、ヌギヌギする。
バサバサと衝立に着物を掛ける。側付きの者からは、衝立と衝立の上に乗っかる着物しか見えぬと言うことでござる。
腕を後ろに回し、おブラを取って衝立にかける。おパンチュも衝立に引っかけた。
「ふう! 開放感!」
丸茣蓙の上にお尻を降ろす。
昼の日中。衝立一枚挟んだ向こう側には若い男が二人。周囲を警戒している。
そして、衝立の内側に全裸の美少女。
滾るでござる!
「夜は空けておけ! 共に星空を眺めよう。よいな、ミウラ! しかと命じたぞ!」
『望むところ! ふんす!』
星を見るだけでござるよ?
お着替えをし、息が整ってから衝立を仕舞う。
お外でお付きの若い方が顔を真っ赤にして、何かに耐えておられた。有りもせぬ良からぬ事を想像しておったのでござるかな?
『おブラとおパンチュを見て興奮なされた模様です』
「うむ! 刀を持て! 覗き魔として突き出してくれる!」
『あっ! 魔獣の反応です! うおおおー! コノヤロウ! 厚かましくもスンプの町中ですよ! 空を見よ、発進5秒前! イオタさん、着装(合身ゴー)!』
「うぉ!」
せっかく着たお衣装が爆発! 素っ裸!
光の帯が体を纏い、イオタさん戦闘服着装にござる!
恥ずかしがってる時は無い。一刻を争うスンプの町中案件にござる! 太刀を手にミウラの背に飛び乗った。
「魔獣出現でござる!」
お付きの方にお言付けを頼む!
「場所は何とスンプの町中! 直ちに退治仕る!」
「畏まりました!」
お付きの方が畏まった。
『ミウラ、いっきまーす!』
虹の輪をに飛び込んだのであった。
――領地経営編・完――
今回にて、領地経営編終了です。
次章に向け、誠意執筆中につき、しばらくお待ちください。
次章「神獣の巫女」編の予定のつもりのハズです。




