14.宴会場の急性酒精中毒
やっと話が進んだ。
「皆様のご懸念は、過去の巫女様方の顛末でござろう? それらは某も耳にしております。されど、某に関して、例外的に大丈夫でござる」
いつもの解答でござる。
だけど、皆様、ご納得いただいてない顔をしておられる。
「無理をなされるなイオタ殿」
現にイイ様が眉をしかめてお話になる。
「イオタ殿はまだ十六。ミウラの主と出会われたのは十五の時。男勝りと噂され、男の成りでおられたのも、お父上が討ち死にされたからであろう? イオタ家のご嫡男は、五つか六つと聞く。世間から舐められぬため、ご親戚のお家乗っ取りを防ぐため、お家のため、幼い弟のため、母者のため、男勝りを演じておられた。一番楽しい次期、娘盛りを武にかけて。ここにいる皆、分かっておる。無理をしてはならん!」
「親戚が、某の体目当ての乗っ取りを仕掛けてきたことは正解でござるが、後はちょっと違うかな?」
どう説明しよう?
クシマ様方が、某の身を真剣に案じてくれている事は痛いほど伝わってくるでござる。
されど! されどでござる。
某とミウラの前前世の因果。
前世での冒険。共に絶体絶命の窮地を切り抜け、笑い、泣き、ドジを踏み、逃げたりもした。旨い物も食った。喧嘩もしたし仲直りもした。
そして、死別。あれがあの世の終わりでござった。
そして、この世での再会。大きさが違おうと、能力が違おうと、ミウラは某の半身。某はミウラの半身にござる。縁や因果などと言う生やさしい言葉で表現してほしくない。
して、それを口にすることは出来ぬし、理解してもらえはしないし、二人の大事を理解させるつもりもない。
「正直に申し上げます。男の成りをするのは趣味でござった。生まれつき、女らしく、など出来ぬ性格でござった。花を愛でるより団子を食したい。男に従うより棒きれの一つでも振っていたい。自分でも変わった女、いや、人だと思うておりました」
真実を言うつもりはない。真実は某とミウラだけの物にござる故。
皆様も、じっと某の話を聞いてくれている。
「そんな変な人が、ミウラの主を初めて見て、可愛いと思うたのです」
年を取るとうまい嘘のコツを覚えるもの。
「ネコでござるからかな? イズモやカイの国で他の神獣様とお知り合いになりました。キョウでは、狐のお姿をしたフシミの主に親切にしていただきました。されど、フシミの主を可愛いとは思えませぬ。ましてや、男として考えることすら出来ませぬ。他の神獣様もまたしかり。不遜を承知で申し上げると、皆様仰せの通り獣でござる」
静かでござる。酌をしてくれる役の子供も身動き一つ立てず固まっておる。
ただ、誰も信じてはくれていなさそうにござる。自分が思う常識を人に当てはめておられるからでござろう。
「別の見方を致しましょうぞ。そもそも、女はお家のために見たこともない相手に嫁ぎ、実家に益をもたらす。そうでござろう?」
皆さん、うんうんと頷かれる。この時代にしても、某のいた江戸の世でも、武家の女とはそんなものでござる。そうやっていたからこそ、生きて来られたのでござる。逆らって死にとうなどござらぬ。多くの人は、それほどまでに弱いのでござる。
「この点を踏まえ、考えていただきとうござる。某、父もおらず、嫡男である弟は幼子。次男は生まれたばかりの乳飲み子。イオタ家を支えるには某が良い家へ嫁に出るしかござらぬ。して、当時のお相手はヒョウスケ様。ヒョウスケ様を悪し様に言うつもりは毛頭ござらぬ。されど、ヒョウスケ様のヨシダ家はイオタ家より頭一つ上のお家柄に過ぎませぬ。同時期、ツモトのオヤジ殿から、某を側室で迎えたい旨の打診もござった死ねよツモトのオヤジ殿」
「ツモト殿は……いささか……」
アサヒナ様が言い淀まれた。
「ツモト殿は、機会が有れば俺の兵で後ろから押しつぶそう」
「クシマ様、頼りがいのあるお方だと以前より思うておりました。満貫成就の暁には、お礼に某のオッパイをお見せいたしましょう」
「その際はイイの兵もお手伝いいたしましょう」
「策謀ならお任せ下され。なんぞあやつを嵌める手だてはござらぬか?」
アマノ様。恩に着ます。
「それに関して……ツモトのオヤジ殿はオッパイに執着されるお方。オッパイを置いておけば、自動的に嵌りましょうぞ」
「オッパイ?」
皆様の目が、某の胸元へ集まったいるでござる。
「あっ」
某、無意識に胸元に手を置いておった。
擦れるのを防止するためのおブラですら、擦れが気になる。無意識に乳首位置を修正していた模様。『乳首ポジですね』。
どっからかネコの鳴き声が?
合わせ目から、白い谷間が顔を出しておった。慌てて仕舞う。
「ところでイオタ殿、酒の席だけの話であるが。酔っぱらいの戯言と笑ろうてくだされ」
はにかむように笑うクシマ様。後頭部に手を置いて照れておられる。
「何でござるかな?」
「おっぱい見せて」
……は?
「ドゲザいたせば見せてくれましょうか?」
アサヒナ様が男前の顔で、姿勢を正し、ドゲザに移行する直前の体勢を取られた。
「ははは。酒の上の冗談でござる! おっぱい見せて?」
イイ様もドゲザ準備にござる。
「右に同じ」
アマノ様も居住まいを正された。
小姓達も目を見開いて土下座の体勢をとろうとしておる。期待しておるのか?
オカベ殿。目付役のオカベ殿! なに眠ったふりをしておられる! 薄目を開けておられるのは明白でござる!
くっそぉー! ツモトのオヤジ殿の話が出るまでは真面目な路線だったのにー!
とことん祟られてておる!
うーむ、どうやらミウラから渡された最終兵器を出すときが来たようでござる。
取り出したのは、太い竹の水筒。内容量は、およそ一升。
「少し酒が足りぬご様子。どれ、ミウラの主が試作中の秘蔵澄み酒をお継ぎいたそう。それそれ!」
「おうおう!」
杯に、ではなく、空けた椀に無色透明な酒を注ぐ。
「アサヒナ様も、それ!」
「おお! ミウラの主の酒ですか!」
して、一巡した。
「では、小姓の方、一緒にご唱和願います。あなたのイイとこ見てみたい。ソレ、イッキイッキイッキ!」
「イッキ、イッキ、イッキ!」
女と子供の歌声に合わせ、名だたる武将の方々が椀に入った酒を嬉々として一気に飲み……。
「ブフォオッ!」
「げふぉぉお!」
咳き込んだだけで吹き出さなかったのはお見事!
「何度も醸し出した蒸留酒にござる。皆様方には、ちと酒精がきつかったでござるかな?」
ミウラが言うには『アルコール度数40。ウォッカ並みです』だそうな。
「な、なにをおっしゃるネコ耳さん!」
「この程度、水と変わらぬ!」
「我らイマガワの武士を嘗めては困る!」
胸の合わせに手を差し込み、少しだけくつろげる。
「これを飲み干せるような猛々しい男でござれば……」
飲み干せば、と言っただけにござる。言うだけならタダでござる。但し、信用度ががたんと落ちるが、どうせ酒で記憶が消し飛ぶ予定にござる。
「おおお! 俺様が鬼クシマと呼ばれた男だー!」
「闘神アサヒナの二つ名は伊達じゃないぜ!」
「では、ご唱和願います。イッキイッキイッキ!」
「イッキ、イッキ、イッキ!」
「グハァーッ、何のこれしきィ!」
「ごぶっごぶごぶぅ!」
汁椀に入った蒸留酒40度を一気に飲み干す名将達。そんなにしてまで見たいか? 某のおっぱい?
……イズモの巫女様のオッパイなら某も見たい……刺されてもいい。
「かはぁーッ!」
飲みきられたでござる!
仕方ないので最終兵器投入でござる。
胸の合わせに手を入れて、くつろがせる。白い谷間が見えるわけでござるが、皆の目がここに集まる。
視線を誘導しておいて、後ろ手で新たな竹水筒を取りだした。
「六十」と赤い文字で書かれた竹水筒にはさらに醸す回数を増やした蒸留酒が入っている。キケンと書かれたお札で封印されておる。
『度数は消毒用に達してますし、死ねます』
どこからかネコの鳴き声が?
片手で、空になった提子に、こっそりと注ぎ込む。
気づきそうなものでござるが、これが全く気づいておられぬ。某得意の視線誘導にござる!
「ではもう一杯、こぽこぽこぽ」
「いや、あの……」
「さぁさぁ!」
「うへへへへー」
胸元を緩めながら酌をすると喜んで飲んでくれた。
して――
浜に打ち上げられたトドが群で転がっておる。
オカベ様まで転がっておられるのは何故でござろうか?




