13.宴会場のセクハラ
「クシマ様。某、致す話をして今宵を終わりとうござらぬのですが」
「いや、俺もそんなつもりはない。アサヒナ殿はそのおつもりか?」
「何をおっしゃる! そんなつもりは毛頭ござらぬ!」
「誰がそんなことを?」
皆様、腕組みして頷いておられる。
致す話は、武将らしい堂々とした態度で終了致した。
「何が言いたいのかというとだな! イオタ殿のお気持ちをお伺いしたい!」
「お気持ちとは? 致すとき? 気持ちいいとかの?」
「気持ちいいのなら結構。……ではなくてェ! イオタ殿の心根をお聞きしたい。本心を教えてくだされ!」
「……もう少し激しくしても良いのでござる。とか?」
「激しいなら激しいほど滾るでしょうがッ! そういう話ではござらぬ! そういう話でも良いが! 全然前に進まぬ!」
クシマ様は、何を言いたいのでござるかな?
「クシマ殿が口を開くと助平な話にしか聞こえぬとイオタ殿は仰せだ。私が代わろう!」
できる男の顔。アサヒナ様でござる。
「男勝りと言われども、イオタ殿はまだ十六歳。うら若き女性。しかも、誰が見てもお美しいお顔をしておられる。加えて、御髪も艶やかでお美しい。まさに緑の黒髪。ご自覚がござろう?」
「うーん、その、自慢でも自惚れでもござらぬが、たしかに某、美しい見た目だと思うておりますが?」
美少女であることは自覚しておるが、それを鼻にかけた覚えはござらぬ。男を釣ったことも……からかったことはござったが! 男より女の子にどうやってこの美貌を使おうかと日夜悩んでおるだけにござる!
「自覚しておられるのなら尚更!」
えーっと、アサヒナ様は何をお怒りか?
「話を続けます。一方、神獣様でございます。神獣様は神の獣。神の代理人。人の力、いえ、十万の軍をもってしても敵うわけござらぬ、畏れ多くも大いなるお力の持ち主。人を喰らう魔獣の牙より、我ら人を無償で守ってくださる神そのもの!」
端的に言って、その通りでござる。人が作りし如何なる武器も通じず――鉄砲含む――、人が作りし如何なる防具も守れず――城壁含む――。
魔獣も同じく。人の力、武器では傷一つ負わすことのできぬ魔物。デキソコナイなる魔の眷属を産む。
されど神獣の爪は、易々と魔獣を引き裂く。神獣の繰り出す不思議な力は、魔獣を塵芥へと帰す。
「されど! されど! 神獣様と言えど、見た目は大きな獣。毛皮に包まれた獣です。人の子であり若い女であるイオタ殿が、獣にアレで何も思わぬはずはない! イオタ殿ほどの器量であれば、男など選り取り見取り!」
その叫びに、某は戦慄を憶えた。
「えーっと、お話の続きは如何……そこの子供、もう良いぞ」
「は、はいッ!」
お子様が、引きつった声を上げ頭を下げた。
「いや、出ていかんでよい! 子供の教育に悪い話をするつもりは毛頭ござらぬ!」
クシマ様がお子様を引き留められた。
「して、話の続きでござるが、やはり今宵は致し系の話を延々と続けて――」
「いや待たれよ! 致し系の話をして酒宴を終えるつもりはないと、先ほど申したではないか!」
クシマ様が慌てて両腕を振っておられる。
「クシマ殿もアサヒナ殿もイイ殿も!」
オカベ様を除いた最後の一人、アマノ様が仕切られるか?
「アマノ様。皆様が仰せの通り、斯様な成りをしてござるが、某は若い女でござる。このままスケベ話をなされるというのなら――」
「ちゃうんすよ!」
アマノ殿が吠えられた。
「ちゃいますねん、って!」
何故カンサイ弁?
「我らはイオタ殿の身を案じておる。スケベな気持で申しておるのではない! 眉に唾を付けないで!」
狐が人を化かすとき、人の眉毛の数を数えるという。狐に毛を数えさせぬ為、眉を唾で固める風習がござる。転じて、騙されないために眉に唾を付ける。眉唾の語源にござる。
「これでは話が進まぬ! だから眉に唾を付けるなと申すに!」
「しからば、何の話をしようとしておられるのか? はっきりと仰れば良かろうに!」
話が進まないので、某が仕切ることにした。
「だから先ほどから申しておろう! 眉に唾を付けるな! ああっ、もう!」
アマノ様が頭を掻きむしっておられる。理性が酒に飲まれたか?
こうなった男は怖い。美少女の危機にござる。
そろそろ強い酒を出して酔い潰す頃合いでござろう。
「真面目な話ッ! 真面目な話だ! すけべいの話は、こう、遠くの方へ置いておく!」
アマノ様が小さな箱を後ろに置く動作をなされた。隣に座るアサヒナ様が刀の鞘で遠くに押しやる仕草をされた。
「別方面から話を致そう! 神獣の巫女のお話だ。過去、何人かの巫女様が現れた。その顛末の多くを我らは聞いて知っておる。その辺のお話だ!」
「だったらそうと早く言っていただければ――」
「さっきからそう言っておるでしょ! コホン! 変な風に捕らえるなよ。神獣とはいえ、獣の姿をしておられる。普通……よいか? 普通の娘は獣に抱かれることを忌み嫌う。そうだろう? そうだよな? 絵的には至高でござるが。でもって、イオタ殿は、その辺、どう思っておられるのかと言うことを聞きたいだけなのだ! スケベな話ではない! 体の話ではない! 心の問題である! これだけ念を押せば間違うはずなかろう?」
「心の問題でござるか? うーむ……」
うーむ、うーむ、皆様の言いたいことがやっと分かった。この集まりの意味も。
母上と同じく。フシミの主と同じく、スワの主と同じくでござる。
「ここ! この場にはイマガワ家を支える闘将、猛将が何人も控えておる。敵わずとも、イオタ殿の本心をお聞きすることぐらいはできる。話すだけでも楽になる。聞く相手がおるかおらぬかで、心の持ち様が変わると聞く。それを踏まえて、本音を聞きたい。我らはイオタ殿の力になりたいのだ!」
アマノ様始め、皆様方は某を心配してこの席を設けられたか。ありがたい話にござる。
「某の心身を真摯に心配しておられることは充分に伝わったでござる。有り難き幸せにござる」
居住まいを正し、頭を下げて礼を言う。
「イオタ殿、困ったことはないか? 細かいことでも良い。力になろう」
アマノ様はお優しい。
「困ったことと言えば……ミウラの主は某に、事ある毎にお着替えさせようとなされる」
「お着替え……」
皆様、何故か黙られた。
「例えば、この小袖は某の家から持ってきた物なので何の変哲もないお着物でござるが、いつもの巫女装束はミウラの主の神通力で作りだしたもの。戦いに赴く際の衣装も同じく」
「ほうほう」
「神通力で強制的に着替えさせられるのでござるが、いつもいつも、神通力で着物を煙のように消し去られ、或いはビリビリに破り捨てられ、毎度毎度、素っ裸にされるのが困りもの!」
「ほ、ほうほう……」
「すぐに着物を纏わせていただけるが、これを人前でもやられる。その場にいた者にオッパイとか、お尻とかを見られてしまうのでござるが、どうにかならぬものでございましょうや?」
「そ、それはそのままでいいのでは?」
「は? 今何と? 聞こえなかったでござる」
「いや、大変難しい問題でござろうが、後日我らで考えましょう! 後日、時間を取って!」
「よろしくお願いいたします」
親切な方々で嬉しく思う。
して、話を本筋に戻そう。
巫女様の悲劇でござるな。




