12.男同士の飲み会
夕刻までまだ間がある。
「で、早かったけどキリの良いところで帰ってきた次第。新参者は早く行かねばならぬ不文律があるのでござるが、それを見越しても、ゆうに一時はござる」
『2時間ですか……』
「座禅してから水浴びまでできる時間でござる」
『ではちょいとお遊びしましょう』
「セッセでござるかな?」
せっせっせのヨイヨイヨイ遊戯にござる。最近の自己流行にござる。他意はござらぬことをしかと明言致す。
定刻でござる。
イマガワ館の一角を借り、男が寄り集まって、領地経営研修会という名の宴会にござる。
由緒あるイマガワ館でそんなことして良いのでござろうか?
御屋形様公認でござると、セナ様が仰せであったのでいいのでござろう。
して、広大なイマガワ館の、とある広間にござる。広間との名が付いた部屋に入ったことが何度もござれども、同じ場所は二度と無いのでござる。この館、一体、幾つ部屋があるのでござろうか?
して――
元々、クシマ様のスンプ屋敷にて執り行われるはずでござったが、急遽、イマガワ館でとなったそうな。なんでも御屋形様が、イマガワ館を使え! 差し入れするから。との仰せ。
差し入れの酒と料理が出る上に、部屋まで貸してくだされるのなら、ということで一も二もなく、皆が賛成した。ただし、部屋の中で嘔吐してはいかん!
してて――
参加者は、発起人のクシマ様。ミウラが描くところの上杉謙信みたいなアサヒナ様。
初顔のイイ様は、目力の強い中年でござる。お腹の恰幅がよろしい。
同じく初顔のアマノ様。お若い。口ひげが似合わぬ青年でござる。代替わりして、ゴタゴタが片付いたばかりだそうな。どこのお家も代替わりは面倒でござる。
そしてオカベ様の五人でござる。某を入れて六人でござる。
誰が上座とは決めず、車座でござる。膳には煮物と焼き物に汁物。御飯はござらぬ。何故か塩が盛られておる。アテとしては最強に部類する!
前髪の取れぬ男の子が……どちらかの御家中の小姓でござろうな……酌をして回っておる。
『ちなみに、この時代、柄杓みたいな形をしており、長い柄が付いた提子という容器で酒を注いでおります。結婚式の三三九度の時に巫女さんが注ぐアレの実用型です』
どこからかネコの鳴き声が?
某としては、お小姓よりも女中さんに酒を注いでいただきたいのでござるが……この部屋、女性率低くなかろうか?
あれ? 某一人だけ?
おもむろに立ち上がって、部屋の戸を開け放つ。外から見えるように。そして、すぐ逃げられるように。
「どうされた? イオタ殿?」
不審に思ったのか、オカベ様が聞いてこられた。
「いや、たいしたことはござらぬ。密談している、などと痛くもない腹を探られるのが嫌に思いました故」
「それは良い心がけじゃ!」
して、クシマ様の音頭で、まずは乾杯。
濁り酒にござるな。グイとひとのみ。
ぷはー、でござる。清酒に比べて劣る酒とされているが、某はこの雑味も、味があって嫌いではない。
「されば皆、よう集まってくだされた」
クシマ殿が挨拶を始められた。
「堅苦しい挨拶はこのくらいにして――」
どこに挨拶がござった?
「――さっそく、酔いつぶれる前に、イオタ殿に領地経営の何たるかを各々ご教授いただきたい」
飲みつぶれる気マンマンにござる!
して、真面目な顔で「領地経営とは、こう……ぶわーっと盛り上げて、ザクっと割って、ダーと足していく。これが肝要にござる」系の話が延々と続いたでござる。こんなんで分かるんかい? と思いきや、皆様、盛んに頷き、感覚系で意見の交換をなされていた。会話できるんだ。
領地経営、恐るべし!
皆様、酒をカパカパと水のように、いや、水なんかでは生温い。空気を吸うように体の中へ落とし込まれておられる。某もいける口でござるが、ここまでではない。
某の膳は、塩以外ほぼ空っぽにござるが、皆様の膳は減っていない。唯一、塩を入れた皿の底が見えておるくらい。
して、良い感じに酒が回ってきた頃。領地経営について、同じ内容の話が連続しだした頃でござる。
目元をほんのりと桃色に染めたクシマ殿が、某の名を呼んだ。
「イオタ殿。酒の席でしか聞けぬ事であるが……無礼仕る話であるが、少々お聞きしたいことがござる」
酔っているとはいえ、ずいぶんと回りくどい話し方にござる。
「何でもお聞き下され」
「実を申せば、我ら一同、心配しておるのだ」
クシマ様が杯を膳の上に置かれた。他の皆様も、杯を……飲み干してから膳におかれる。何でござるかな、改まって?
「その、あの、その……」
「先に進まぬでござるよクシマ様」
「情けない男め! 代わりに俺がもの申す!」
おお、アサヒナ様! 男らしい!
「イオタ殿! ずばり聞く! ミウラの主と致しておるのかな?」
「は?」
「その、俺が言う致すとは、男女の睦み事の事で、遠回しにして申さば、オッパイをアレしたり、陰に根にアレしてアレなる行為のことだ!」
「全然遠回しじゃないでござる!」
「酒の力だ! 許されよ!」
酒の力にすれば何でも許されると思うておらぬか? この野郎共は!
「ご想像にお任せ致す」
「うむ、想像致す!」
「うむ、なるほど、ほうほう!」
「こうなって、ああなって。さすが!」
「うーむ、ちなみに、イオタ殿は下付か? 上付か?」
遠慮という言葉を知らぬのか?
して――信じられぬことに、宴会はまだ始まったばかりにござる!




