11.母上ェ……
して――
母上と相談、という言い訳を使い、台所の隅へ移動した。
「実は母上、これはマタノ荘のことなれど、母上の心に秘めていただきたき事がござるが。よろしいか?」
「まあ、なんでしょう?」
母上に、村の不正の話をした。いつか話さねばならぬ事なのだから。
「――という処置をし、全ては解決いたした。不正義に従事した者どもは、今頃、血の汗と涙を流して働いておる。タケマルに一切の負担はかからぬよう仕置きを致しました」
「見事です。ですが、首を斬らなかったことで、拾点の減点です」
「これは手厳しい!」
戦国の武家の妻とはかくあるべきなのでござろうか? それともイオタ家が武闘(修羅)派過ぎるのでござろうか?
「あ奴らを斬って捨てても良いのでござるが、そうするとこれまでの仕事内容を知るものが居なくなる。それでは困るので、コジロウ達が仕事を覚えるまで生かしておこうとしたまで。仕事を取り上げたら、後はあ奴らの態度次第。首チョンパの許可は出しております」
「ならば宜しい……マツや、あなたやはり男に生まれれば一角の武将になれたはず。実に惜しい」
「偶然ですな。某もそう思うております」
真面目な会話過ぎたのでござろう、母上が笑われた。
ようやく、母の笑顔を見ることが出来たのでござる。
「汚いことに手を染めるのは某とコジロウだけと致したく。タケマルには気持ちよく跡を継いでもらいたいので、この事はいつか時が来るまで内密にお願いいたしたく」
「心得ました。マツのがんばりは、母がしっかりと見ておりますからね!」
元の強い母上がおられた。
して、デンスケのだみ声が聞こえてきた。
「奥方様ぁー! お嬢様ぁー! なんぞございましたかー?」
「母上、そろそろ戻りましょう。皆に疑われます」
「そうですね」
元の部屋に戻り、色々と馬鹿話をした。
「さて、そろそろお暇いたそう」
「まだ明るいのに……ってマツはおなごでしたね。ごめんなさい。いつも忙しいのですね。この後何かあるのですか?」
立ち上がると、母上が編み笠を取ってくだされた。
「クシマ様達が領主の心得なる物を一席講じてくだされるため席を設けていただけるとのことでござる。体の良い飲み会でござろうな? ちと楽しみにでござるのよ、はははは!」
「あの! 猛将で名高いクシマ様ですか! まあまあまあ! マツが楽しみと言うほどなのですから、良きお方なのでございましょうな?」
「面白い御仁にござる。他にも何名か寄られるご様子でして。では、また」
尻尾を袴に収納し、編み笠を頭に乗っければ準備完了。
「タケマル、元気でな。デンスケ、タエも体に気をつけよ! またな!」
「お元気で!」
お見送りご苦労様でござる。して、イオタ家を後にした。
してて、飲み会でござる!
――三ΦωΦ三――
時間は幾日か前に少し遡る。イオタとミウラがマタノ荘へ出かけている時分であった。
「なに? クシマ達がイオタを誘って講演会だと?」
「はい。イオタ殿はクシマ様と共にタカテンジン城で魔獣と戦った仲。より親睦を深めるためと、イオタ殿をお招きされております。その席には、なぜかアサヒナ殿やその他男共が集まるらしいです」
御屋形様とセナがイマガワ館の一室で膝を突き合わせていた。
「領地経営のコツについて一言もの申す。という大層なお題目がついておりますが、オカベ殿が申されるには、体の良い飲み会で、他意は無さそうとのこと。ま、イオタ殿という女性を交えての飲み会でしょうな!」
御屋形様の腹心であるオカベが、潜入捜査員として参加する予定である。
「とはいえ、名だたる将が集まるのです。謀反とされても反論出来ぬことくらい理解しておらぬのでしょうか? 騒ぐ前に中止勧告いたしましょう」
「うむ……」
御屋形様が、顎に指を当て、考え込まれている。
セナは黙って待っている。
「許可しよう」
「御屋形様!」
「されど、宴会場はイマガワ館でだ。私より、酒と料理を差し入れしよう。どうだ、セナ?」
御屋形様は、いたずらっ子っぽい顔で笑っていた。
「ははー……。なるほど、イオタ殿の後ろに神獣様が。神獣様を僅かにでも取り込めれば大の吉。将を射んと欲すれば、先ず馬から射よ。でございますか」
「うむ。わたしは知っておるぞ。見ておるぞ。言わずとも分かろう。それに、イマガワ館で開催すれば?」
「聞き耳も立てやすかろう。で、ございますかな?」
「いかにも!」
ゲソにもスルメにも。
「その他の参加者も調べ上げます」
「ならばそれで良きに計らえ」
御屋形様が立たれた。セナは頭を下げる。
「……だが、なんでだろう? イオタとクシマが酒を飲むのなら分かる。あれは共に戦っておるからな。アサヒナがわからん。他にも参加するのだろう? 謀反の疑いがかかることを覚悟で。分かるか? セナ?」
「……ひょっとしてですが……イオタ殿を酔わせてから拝み込むとオッパイを見せてくれそうですから、かな?」
「……ドゲザで頼み込めば見せてくれそうだもんな」
「はい」
なら仕方ないか。その言葉を口には出さぬ御屋形様は三国にわたる大国イマガワの領主である!




