10.報告会
――コタロウ殿に宜しくお伝えくだされ――
コジロウの全身から一度に汗が噴き出した。
なぜ、頭領の名を知っている?!
ハヤテもシュンスケも頭領の名を知らない。小頭以上でないと知らされない。
イオタの持つ情報網にコジロウは恐怖した。……ひょっとして、ミウラの主か?
神獣様は人の言葉を理解する。でも、人の言葉を口に出来ない。神獣様独特の言葉、会話法で話されておられる。それを聞くことができるのは神獣様の巫女様。つまりイオタ様。
「これは、想像以上に……」
イオタが治めるマタノ荘の代官職。それは、コジロウやコタロウが想定しているより、高度な対応が求められるだろう。
――三ΦωΦ三――
マタノシタ村。村長宅の庭に、ちょっとした池がある。
神獣ミウラの主が前足で突いたときに湧き出た池である。「前足お突きの池」と呼ばれている。
マタノウエ村に丁度良いあんばいの岩が転がっている。神獣の巫女、イオタ様が休憩のため腰掛けた、「イオタ様腰掛けの岩」である。
マタノ荘の奥に山がある。ミウラの主が、山の中腹をお力を持って叩かれた。ミウラのヌシを恐れた山は、どんな日照りが続いても、山からの水を枯らす事がなかったという。「ミウラの主、お情けの水」と呼ばれている。
マタノ神社の裏に、イオタ様がお植えになった田んぼがある。植えた途端、あっという間に成長し、稲穂が頭を垂れ、実を結んだという。現在そこはネコ神田と呼ばれ、そこでとれた米はマタノ神社に奉納され、神事に使われている。
この米を使ったお握りを食べると、一年間無病息災で過ぎ、藁を燃やして焼いた餅を食べると、虫歯にならないとされている。
マタノ荘に伝わる伝説の一部である。
して――
『フウマ忍軍、頭領の名はフウマコタロウ。代々、頭領になった者がコタロウを引き継いでいるのでしょう。身の丈、スゴイ尺。体重、スゴイ貫。口から牙が伸びておるとの伝承があります。この伝承はあからさますぎますので、コタロウは逆に小男なのかも? 小さい方が忍びやすいですし』
「ミウラの生きた時代は、そんなことまで伝わっておるのか!」
『腕の防具が伸び縮みして、敵を切り裂きます。戦国の無双ですな!』
ミウラは物知りにござる!
してて――
マタノ荘での仕置きを終え、急遽出現した魔獣をぶち殺し、イマガワ館へ戻ってきたのでござる。
「やれやれでござる」
肩をトントンしながらミウラの背から降りた。
『おほう! お股の温もりが! 柔らかいのが!』
ミウラは相変わらずでござる。
しててて――
イオタ家でござる。
「万事、滞りなく処してきました」
「ご苦労でした」
「あねうえー!」
「ごふぅ!」
タケマルは可愛い生き物でござる。だから、脇腹にイイのが入っても痛くない。
「……と、このように風光明媚な村でござった。代官はカザマ・コジロウ。文官、管理としてイムラ・シュンスケ。タケモリ・ハヤテの二名を安い給金で雇うことと致した。二人とも数字に明るく、愚直に真面目な男でござる。召し抱えたことで、イオタ家に多大な恩を感じておるようでござる」
「まずは上々の滑り出しですね。おマツや、ご苦労でした」
「ははっ! ありがとうございます!」
母上に対し、軽く頭を下げる。
「ミウラの主も、気に入っておられたご様子。もし魔獣が出没したら、何をおいても駆けつけようと仰せです。これで、魔獣対策は万全にござる」
「ありがたいお話ですが、ミウラの主の威を借るような真似をしてはいけませんよ」
「ははっ! 肝に銘じます!」
いつもながら、母上はお厳しい。されど品行方正にござる。見習うこと多し!
「お話をお聞きしている限り、のどかな村のようでやんすね?」
良い笑顔のデンスケでござる。この男の頭の中のイズは、魔境もかくやのド田舎なのでござろう。
「大きな神社で、ようございました」
タエは某の巫女職を心配してくれているようだ。とてもデカイことをしておった神社でござるよ。
「どんなふうけいなのでしょうか? おやまはおおきいいのですか? かぶとむしはいてましたか?」
「うむ、タケマルよ。カブトムシは夏の虫でござる。沢山住んでおられるそうでざるよ。そうそう、これを見られよ」
書類入れを開き、中の紙束を取り出した。
紙は貴重でござるので、雑い紙でござる。
「ほぉ! これ、お嬢様の手でやんすか?」
「味のある絵ですこと!」
デンスケとタエが目を見開いた。
皆の前に広げたのは、某がチョチョイと描いたマタノ荘の風景画でござる。タネラでのんびりしておったとき、ミウラに教えてもらった画法でござる。線を極端に省き、立体を意識した丸っこい絵にござる。
「これがマタノ神社。これが後ろのお山。これがマタノウエ村に、これがマタノシタ村。二つの村の村長の似顔絵と、見所のある子供、サンスケの似顔絵でござる。あと、イハラとタケモリの似顔絵に、マタノ荘の警備団の絵姿にござる。他にも風景画がござるよ!」
バサバサと絵を広げていった。忘れないよう、一行文付きにござる。
「まるで、わたし達もマタノ荘へ行った気分になりますね!」
母上がお喜びにござる。忙しい間を縫って絵を描いてきて良かった。
「して、タケマルには特別にこれを。マタノ荘の地図でござる」
「へー!」
タケマルが目を輝かせておる。
「タケマルよ。領地の詳細な地図とは、領地の最重要機密でござる。これがあると敵が攻めてきたとき、どこを守ればよいのかが分かる。逆に、地図が敵の手に渡ったら、上手い具合に攻められる。大事にするのでござるよ!」
「すごい! あねうえ! たいせつにいたします! あんぜんなばしょへかくさなきゃ!」
地図を手にしたタケマルが、おろおろと左右に首を振っておる。顔つきが真剣でござる。さすが領主でござる!
「あとで母上と隠し場所を相談するがよい」
よき領主になれ!




