9.帰還
「え? 家名をもらった?」
「はい、コジロウ様。俺は今からイムラ・シュンスケです」
「俺はタケモリ・ハヤテです」
家名をもらったからと、シュンスケとハヤテから聞かされた。それもいきなりだ。
俺がゴロツキ共を鍛えているところを探し出しての告白だった。正直、ビックリした。
何にビックリしたかと言えば、わざわざ俺を捜してまで知らせに来たことだ。
そんなに嬉しいか?
「俺、イオタ様から一文字もらった! この縁を大事にしてたらオッパイ見せてくれるかな?」
「見せねぇよ!」
「俺なんか、タケマル様からですよ! タケマル様を守って死んだら、オッパイ見せてくれるかな?」
「それは見せてくれるだろうけど、死んでたら見られねぇよ!」
こいつら、舞い上がっている。
「疾ッ!」
ババッと風切り音を立て、二人がひざまづく。いつ如何なる時も、傾聴せよの合図が「疾」だ。
「イオタ様から直接名をもらい、嬉しいのは分かる――」
なぜか分かるんだよなー。
「――しかし、俺達はフウマだと言うことを忘れるな!」
「「!」」
疾がかかった際、声を出してはいけない決まりだ。口答えや質問も許されぬ。
……きついことを言ったのだが、舞い上がる気持は解る。
かくいう俺も、カザマという家名を付けてもらい、今日からコジロウは侍だ、と告げられた時は密かに舞い上がったりしたものだ。
落ち着いたようなので、疾を解く。
「そういえば、イオタ様がカザマの家名が気に入らなかったら変えても良いと仰せでありました」
「うむ。一度名乗りを上げたからな俺はこのままで行く。カザマでもフウマでも一向にかまわん」
嘘でーす。カザマがいいでーす。
「まあよいわ。全てはフウマのため。イオタ家に忠誠を誓った風で、このまま勤めよう」
「真面目に勤めたら、オッパイ見せてくれるでしょうか?」
「イオタ様なら、ドゲザすれば見せてくれそうですけど」
「……うん、まあ、そこそこ緩そうだから……。何を言わせる!……でも、見せてくれそうだな」
俺もがんばろうっと!
「誰がオッパイを見せるのでござるかな?」
「「「げぇっ!」」」
過去最速の動きで振り返る。ハヤテに至ってはクナイまで手にしておる。
「イ、イオタ様! いつの間にフウマニンジャの背後を!?」
後ろを取られた? 恐ろしいお方!
「隙だらけでござったが……真面目に勤めたらオッパイ、のあたりからでござる」
「不覚ッ!」
男はオッパイの話を出されると警戒を解くという習性を利用されたか! 恐ろしいお方だ!
「見せても良いぞ」
「「「え?」」」」
我ながら間抜けな声が……イオタ様が、懐に手を差し入れておられるッ!
また我らの動きが止まっていた!
「働きによる、でござるな。フウマよりマタノ荘の事を優先してくれるだけでよいのでござるが……」
「えーっと、それは、その……」
なんて答えづらい問いかけだ。オッパイかフウマかを取れと? 究極の二択じゃないか!
「そうそう。三人とも、この荘の人別帳に目を通したでござるか?」
「は?」
「男より女の方が多い」
「は?」
「マタノ荘で草として根付くには、某のオッパイより村の娘と結婚するのが一番だと思うのでござるが?」
「は?」
「侍の身分で独身……」
イオタ様が可愛らしくお笑いになられた。
「モテモテにござるよ?」
雷に打たれたように、みんなが体を硬直させた。
「はっ!」
危ない! 全員が隙だらけになっていた。こんな時に敵の奇襲があったら、イオタ様の盾にもなれず全滅していた! あれ? イオタ様の盾?
「か、考えておきましょう」
どうにかこうにか。問題を先送りにすることで、その場を逃れた。
――三ΦωΦ三――
して――
某はミウラの待つ本殿へ戻った。
「ミウラの策通りになったでござる。ミウラは陰の功労者にござるな」
ニヤリと笑った。
『献策した甲斐がありました。ですが、一番の功労者は悪女ムーブのイオタの旦那でございます』
ミウラも笑った。狐のような目で笑ろうておる。きっと某も同じ目をしておるだろう。
「自覚はないが? しかし、この程度でコジロウ達がフウマを抜けるとは思えぬが?」
『いいんですよ。いざというとき、少しでも動揺してくれれば。我慢して我慢して稼ぎだした1秒が、とてつもなく大きなプレゼントに化ける事がある! アルファロメオのおねえさーん!』
何を言っておるのか分からぬが、未来の格言あたりでござろう。
「ではそろそろイマガワ館へ戻る段取りを付けよう」
『そうですね。あんまり長い間、イマガワ館を離れてると、あらぬ疑いをかけられます』
神獣であるミウラの力と権限をもってすれば、なんとでもなるが、無駄な争いは避けたいでござる。
して――
マタノウエ村へ出向き、別れの挨拶をし、マタノシタ村で別れの挨拶をし、タケマルのことを宜しく頼んでおいた。
してて――
マタノ神社兼代官屋敷にて。
「コジロウ、シュンスケ、ハヤテ、そして宮司。これからでござる。これからマタノ荘を頼む」
頭を下げて一言「おっぱい」と言っておく。
「お任せ下さい。きっと良い村になりますよ」
キリリと顔を引き締めたコジロウがいい感じに言ってくれたので、安心いたした。
「さて、では、名残惜しいが――」
『むっ! イオタの旦那!』
「どうした?」
『魔獣の反応です!』
「皆の者! 魔獣が現れた。某はミウラの主に従って魔獣退治に向かう。後は任せた!」
「おかませを!」
コジロウが答える。
『行けますか?』
「もちろん!」
『では、練金武装!』
「うおっ!」
着物がビリビリになって吹き飛んだ。おっぱいポロンでござる!
「「「「おおー!」」」」
コジロウ達が目を大きく見開いた。
シュルシュルと音を立て、光の帯が体を隠す。あっという間にイオタさん武装形態にござる。
「ミウラの主、後で話がある。なに、魔獣共を血祭りに上げた後でござる!」
『え? サービスカットですよ! お約束のどっきりスケベでございますよ!』
某は、ミウラに跨ってケツをひっぱたいた。
『あうっ! で、では行っきます。イキまーす!』
「コタロウ殿に宜しくお伝え下され!」
目の前に虹の輪ができた。そこへ飛び込む。
行きはのんびりでござったが、帰りはずいぶんと慌てた様となった。
また来るぞ、マタノ荘!




