6.視察
過去の横領案件はコジロウに任せるとして――やはり某とミウラは内政にござる!
マタノウエ村村長と、マタノシタ村村長とその子、サンスケことサンを伴って、村のあちらこちらを視察しておる。
『もうすぐ田植えですよね。一発やらかしますかぁ!』
やたらやる気のミウラが、みんなの後ろから圧をかけてくるので、サン以外は顔が引きつっている。
……このサンという少年、圧を感じる力が鈍いのでは?
村は、時期的に田に水を入れておるところでござる
「こうやって水を入れて数日放置しています。田んぼが慣れたら、皆様よくご存じの田植えです」
「ほうほう!」
マタノシタ村長の解説付きにござる。
田植え前の光景は初めて目にする。新鮮な驚きがござる。
「上も下もマタノ荘は、お山から流れ出る水が豊富なので、余程の日照りでないと水には困りません」
「それは何よりでござる。……して、なんぞ欠点はござるのかな?」
「はあ。マタノは峻険な山を背にした小さな村でございます。田にする地が少ないことでございます」
山から出てくる水は冷たいので、回し水という工夫をしておられる。また、より山に近い村であるマタノウエ村は、棚田も作っておられる。
先人の知恵は偉大にござる。
「田を作れる地が少ないため、米が多く作れません。それに、稲の病気が他の村より多いように思えます」
『山が壁になって夏場の風が少ないとか? いもち病とかウンカとか多いのかな?』
賢者ミウラが目を覚ましたでござる!
「ウンカもよく見るのかな?」
「ウンカは少ないのですが、稲が焦げたような病が多く見られます。あれにやられると実がならなかったり枯れたりしますんで……」
マタノシタ村長が困った顔をしておる。マタノウエ村長も、困った顔になっておる。
「田が少ない上に病気米も多くて……ですので、自然と人数も限られ……。戦に人をとられると、一気に働き手が足りなくなり……赤子が生まれたら生まれたで、その……」
『食うもんが少ないんで、赤ちゃんの間引きなんかやってんのかもね』
「間引きは辛うござる。戦を始めとする賦役については、なんぞよい案がないか考えよう」
イオタ家の領地でござるからのう。なるべくいい塩梅にしてタケマルに渡したい。
「ありがとうございます」
「どうか宜しくお願いいたします」
頼られたでござる! ふんす!
「賦役に関しては腹案がござるが……米の取れ高を上げることが条件となる。田に出来る土地が少ないのが痛いでござるな!」
ええ。はい。としょげる二人の村長。
前世を参考にして商業を取り入れるか?
「でもさ、水を張った田んぼで鯉とか鮒とか放してるよ。水を抜くときにでっかくなってるんだ!」
いつの間にか、カエルを掴んでおるサンでござる。
「それも名案でござるな! 兎や鳥を飼うのも一つの案でござるが、エサとか考えると効率が悪いでござるか……」
「上の村は、罠を仕掛けて兎とかとってるよ。オレ、たまに食わしてもらうんだ!」
「こ、これ!」
村長がサンを押さえている。特に無礼とは思わぬのだが?
『哺乳類はね、成長もね、遅いしね。山の猪や鹿や熊の狩猟は命がけでしょうし。ここは一発、稲作を見直しましょう!』
「どうやってでござる?」
『この時代でウンカの対策は皆無なのでお手上げですが、いもち病なら幾つか予防策があります。一も二もなく風通しをよくすることです。いもち病って稲専用のカビなんですよ』
ほほー。
「村長、いもち病の原因はカビにござる。稲に特殊なカビが生える事によって枯れるのでござる。対策は風通しをよくすることでござる。具体的には……」
あ! ここ、夏場に風が少ないんだ!
『すぐに取れる対策は、畦とかに生える雑草をまめに刈り取るくらいです』
「――ということでござる」
「カビでしたか! だとすると、背の高い草を刈るのは理にかなってます!」
「そういや、雑草を刈ったりはしないな? それくらいなら、簡単だ!」
「仕事が増えるでござるよ」
「なーに。働くのは苦になりませんやな!」
村長二人のお顔が晴れた。サンは、田んぼへ帰したカエルに手を振っておる。
『それだけじゃ駄目なんです。苗の植え方に抜本的な改革が必要です。それでもまだまだですが。で、以後は訳さないで聞くだけにしてください。ヤバイ話になりますから』
どんなヤバイ話でござろうか? 田んぼを爆破せよとかなら聞けぬ話でござるが?
『正条植えという方法がありましてね。わたしが生きていた時代の3世代前。イオタの旦那の時代より400年は後の世で、ようやく開発された新しい植え方なんです。カビ系の病気にも効果がありますし、日の当たりも良くなる。何より少ない苗で大量の収穫が見込めます』
ならば、すぐに言えば良かろうに! という顔をする。ミウラとは付き合いが長いので、この位の意思疎通は朝飯前でござる。
『ところが、これを受け入れていただけるか。先ず拒否されるでしょうね』
なぜ? という顔をする。
『今現在、苗の植え方は、みっちりと隙間無く植える方法でしたね?』
いかんのか? なるべく多くの苗を植えた方が沢山米が取れるのではないか? という顔をする。
『15㎝から20㎝、えーっと5寸か6寸ほどだったと記憶してるのですが、四方にその間隔を空けてまばらに植えるんですよ。苗の株も数本で良いんです』
それは駄目でござる。必ず反対される。米は人の命。少なく植えよと強制したら、一揆が起こる。
……だから黙って聞いていよと申しておったのか……
『今の季節を逃したら一年待たねばなりません。上手くいくとも限りませんので、小さい範囲で幾つもの試験を同時進行しなければなりません。効果を見られるのは一年後。トントン拍子に成功し続けても、村人全員が納得するまで最低3年は必要。遅れれば遅れるほど年数が消えていく。タケマル君の元服に間に合わなくなってしまいます。さてはて、如何致しましょうか?』
「どこかに都合のよい田があればよいのだが……」
『ただでさえ田に出来る土地が少ないのです。余分はありませんよね……』
「新しい田を作るか?」
『今から新しい田を開墾していては、早くとも来年がスタート。それに、田を作るにしろ条件の悪い場所しか残ってないでしょ? それじゃ実験が成功するはずありません』
どこか、よい場所はないか……。
「どうかした? 巫女様、考え込んで」
「サンか……」
気がつけばお供の者達まで心配そうな顔をして某を見ておる。
「案ずるな。どうにかならぬかと考えておっただけ。さて、だいたい見たな。では視察はここまでにしよう。皆の者ご苦労でござった!」
して、解散となった。
「うーむ、何処かに田が一枚転がっておらぬかな?」
『あの山、破壊しますか?』
やれと言えば、ミウラならやってしまうだろうが、それはマズイ。あの山で食っておる人もいるはずでござる。
して――
唸りながらマタノ神社へ戻ってきた。
戻ってきたら戻ってきたで、問題を抱え込んだコジロウが待っていた。今にも吐きそうな顔色をした宮司を正座で控えさせて。問題は、立て続けに起こる癖を持っておるのかな?
してて――
コジロウが目を通した帳簿を見ておるところにござる。頭を抱えそうになっている腕を強靱な意志の力で押さえつけておるところにござる。
「……宮司。某、確かに素直に言えば許してやると申したが、ものには限度というものがござる」
横領などと言う言葉が、恥ずかしくなって何処かへ旅立っておるのでござる。
「年貢の横領はまあよかろう。よくないが! 給田だけでは足りなかったか? この給田、記載されておるのより倍の面積でござるよ? それと、もう一枚、田がござるが……給田は一枚だけのハズでござろう?」
『イオタの旦那。キュウデンってなんですか?』
ミウラでも知らぬ事があったか! そっちが驚きにござる!
「給田とは、税がかからぬ田でござる。マタノ荘の宮司のように、名主の仕事をしておる者への給金でござるな。普通に年貢がかかる田を作っておっただけでは、仕事の割に合わぬでござろう?」
イマガワ領の田んぼは六公四民でござる。自分の田で取れた六割が年貢でござる。戦になれば、さらに年貢を取られる。その分を払わず、自分のものにできたらウハウハでござろう?
給田とは、読んで字が如く、余計な仕事をする役職者に対し、与えるお給金でござる。年貢を出さなくてよい田んぼでござる。年貢の分が役職者の利益となるのでござる。
余談として、その他、賦役とか兵役とか、都度諸々の役がかかるのでござるが。
『へぇー』
ミイラを感心させたことは収穫でござったが、それにしても……この額は!
「無謀にも、マタノ神社を大社格へ押し上げようとして動いていたようです。無謀にも。後でお見せしますが、金銀煌びやかな財宝が眠っておりますよ。全部賄賂用です」
「いざというとき銭になるでござるな。宮司、それだけはでかしたと褒めてやろう。されど、如何するか。罪を許すと申した以上、吐いた唾は飲み込めぬ……うみゅぅ……」
『へーホントすごいや。元々の田の三倍以上ですか?』
ミウラが後ろから帳簿を覗いておる。
『この時代の人は、やるとなると容赦ありませんね。ですが考えようによっては、一気に二枚の田が増えた。少しは余裕が……全然ですね?』
「うーむ、余計な田、余計な田……」
と唸っておったが、ひらめいた!
「この、余計な田で新しい田植えを試そう!」
『ハブアグッドアイデア!』




