5.シメっぞ? お?
翌朝。気合いの入った叫び声で目が醒めた。
マタノ神社の一角を借りて寝所として、気持ちよく寝ていたのだが、野太い声により最悪の目覚めとなった。
『なんすか?』
「心当たりがある。コジロウだ」
『あー、わからせですね』
すぐに服を着替えて表に出る。体の筋を伸ばしながら、神社の境内へと向かった。
コジロウが最後らしき一人の手から、木刀を跳ね上げたところだった。クルクルと宙を舞った木刀が、コロンガランと音を立てて転がった。
コジロウは、血糊を払う動作の後、木刀を収めた。そして、背後から近づく某に対し、膝を付いてご挨拶いただいた。
「起こしてしまいましたか?」
「それは良いのでござるが、弱い者イジメはよくない」
見ればマタノ神社郎党は十人ほど。うち、打ちのめされたっぽい男は四人。
残りの者の手にも木刀が握られておるが、コジロウにかかっていく気迫が見あたらない。転がらされた四人が、この中で最強だったのだろう。
荒くれ者とはいえ、所詮は田舎のゴロツキ。町のゴロツキの方が強い。剣ったって、見よう見まねで木切れを振り回しているに過ぎぬ。コジロウなら目を瞑っていても叩きのめせるだろう。
「どれ、朝の稽古といこう。コジロウも、ヘナチョコばかりを相手にしていたら腕が鈍ろう」
言いながら木刀を拾い上げ、二度ほど振って感触をものにする。
「ほほう。それはありがたい。おいおまえら! 剣の見本を見せてやる」
コジロウが木刀を構えた。なかなか堂に入っている。強そうに見える。
観衆の中、忍術は使えぬ。コジロウは剣術だけで向かってくる。
某は上段に構える。スリスリとすり足で近づいていき――
間合いギリで上段から浅く袈裟斬りに。コジロウ殿は半身を下げることで、切っ先をかわす。
それが某の罠。コジロウにそう動いてもらった。切り下げた切っ先が、腰を過ぎた途端、急停止。逆袈裟に跳ね上がる。これが本命。初めて見る技でござろう!
慌てた表情で、それでも余裕で避けられ、逆襲に出てこられた。ニンジャは目が良い!
その後も何度か、ギリギリの攻防と欺瞞技織り交ぜた踊りのような剣技の応酬が続く。
見学者の間から、おお! と時折声が漏れ聞こえる。
見た目、某がコジロウに押されて見えるだろう。それは否。某がコジロウの繰り出す技を全ていなしておるのだ。
なんでかって? それはコジロウの繰り出す剣技が初歩的すぎるからでござる。
この時代、まだ疋田様は生まれておらぬ、はず? 剣豪宮本武蔵も生まれておらぬ。有名な柳生心影流など影も形もない。
某、この時代より百年は未来に生きた者。これから開発されるはずの剣術、今は未だ無いはずの剣術を知っておる。加えて竹刀による撃たれ稽古も多数受けておる。江戸の道場じゃ技の一つとされているが、当時は秘奥義とされる技を何度も目で見て、何度も体で受けておる。
つまり、コジロウの使う剣など初歩の初歩。すでに某が幼少の頃、通ってきた道でござる。相手は体が出来ただけの初心者剣士にござる。
されどコジロウはさすがにござる。「それ」を解っておるようだ。顔に焦りが見られる。
忍術という、某の知らぬ技を交えれば、互角以上の戦いが出来るはず。それが使えぬのだから、業も煮えよう。
某の方からスッと身を引いて、下段にかまえる。コジロウも察し、身を引いて上段に構えた。
でもって、にっこりと笑う。美少女の笑みにござる。
「これでは、技の使えぬコジロウが不利。負けても負けた気がせぬだろう。なのでこうしようと思う」
某は木刀を手放した。
で、両の拳を開き、ヘソの上と下で構える。
徒手空拳となった。見ようによっては、嘗めくさった構えでござるが、コジロウはそう思わなかったようでござるな? 上段の構えからピクリとも動かぬ。
何も分かっておらぬ見学者は、オイオイとか言っておる。
「おいで」
と、誘ってもコジロウは動かぬ。某が無手だからだろう、何かあると必要以上に警戒しておる。
なので、こちらから歩み寄る。スタスタと――
剣の範囲に入っ――「加速」
パシッ!
コジロウの反応は速かったが、某の方が何十倍も速い。動きが起こる前に捕まえた。
某の左手が、コジロウの右の二の腕を下から押さえた。右腕が左の腕を下から押さえた。
コジロウの体幹が移動する。それに合わせて足を払い腰をねじ込み跳ね上げる!
背負い投げにござる! 腕を掴んだまま、叩きつける!
『下がコンクリでなくてよかったな!』
何処かからネコの鳴き声が聞こえてきた。
っと、投げの型を外して腕を放す。
吹き飛んだコジロウは、空中で体を捻り、両足の裏からフワリと着地。剣を構え直す。
さすがニンジャでござる!
『まだやるかい?』
何処かからネコの鳴き声が聞こえてきた。
コジロウが構えを解いた。試合は終了でござる。
互いに礼。
ほぉー、と息を吐く音。観戦していたヘナチョコ達でござる。
コジロウは、額に浮いた汗を拳の裏で拭う。
「イオタ様、歯が立ちませんでした」
観衆は皆「え?」って顔になる。
「バカヤロウ共が! 投げられるところまで見ておいて、私が弄ばれていたのが分からんのか!?」
「申し訳ありません!」「すみません!」等との声が上がる。コジロウ先生誕生の瞬間にござる。
「イオタ様。最後の投げは神獣様の神通力によるものでございましょう? ですが、剣術は地の技。剣豪を名乗られてもおかしくない。いいように動かされました。どこでその様な技を?」
「うーん、まあ、日々の工夫でござるかな? 仮の敵を相手に毎日千回も素振りをしておるが、十年も続ければ、このくらいは……とは申せども、師匠……もとい、ミウラの主なら『まだ悪い』と仰せになるだろう」
危ない。ミウラの言葉としたが、失言でござった。
江戸に生きていた頃に、二天一神流の師匠から毎日言われていたのでござる。道場では下から数えた方が早かったのでござるが、前世の異世界で、そこそこ実戦経験を積んだのでござるよ。いまなら、少しは師匠に褒められるやもしれぬ。
「ほほー」とか「一日千回も!」とかの声が聞こえてくる。
「お前ら! 素振り練習すらしないで、なにが四天王だ。人から笑われるぞ!」
コジロウが弟子達を叱りつけた。もうお弟子さんで良いよね?
で、叱られたお弟子さん達がキラキラした眼で某を見上げておる。
『おやおや、アイドル爆誕ですか? この人ら、イオタの旦那を憧れの目で見てますよ』
フワリとミウラが舞い降りた。
コジロウ始め、お弟子さん達はその場でドゲザにござる。
「まだまだ。ミウラの主の方が神がかってるでござる」
『うーん。でも、イオタの旦那の方へ信仰心がだいぶ高まってますよ。これは妬けますね! ちょいとミウラさんもスゴイって事を教え込みましょう!』
「暴力はいかん。……朝っぱらから雷は――」
『服装変換!』
ズバン! と音を立て、某の着ている服がはじけ飛んだ。
オッパイプルン!
全裸にござる! ネコ耳ネコ尻尾美少女が全裸にござる!
「「「おおおおおー!」」」
歓声が上がる。いきなりなことで呆然となる某。
シュルシュルと光の帯が体をまとい、オッパイと股間を隠す。たちまち男共から「ええー!」っと非難の声が上がる。
して、新たなお着物は……
上半身がいつもの巫女装束。但し横乳が出ておる。
下半身が……? 縦一本?
『巫女ハイレグでございます』
「巫女装束と合わぬ」
『何を仰せか! 大魔女神も聖女もハイレグがデフォなんですよ! いわば神の衣装! ひとよんで神衣!』
それから、某とミウラの間で一悶着あったのでござるが、なぜかミウラへの信仰心がグンと上がったと聞く。




