4.ミウラご一行、歓迎会
マタノウエ村、マタノシタ村、二ヶ村村民が総出でお迎えにござる。総員、ドゲザでござる。
もっと、こう、ほのぼのとしたお出迎えを想像していたのでござるよ。
一旦足を止め、どうにかせよ、と、コジロウに目で合図を送る。ブンブンと首を左右に激しく振られたので、諦めて口を開いた。
「皆の者、面を上げられよ」
この台詞、人生で初めて言った気がする。あと、絶対に言いたい台詞上位五位に入る台詞でもある。
「へへーっ!」
「顔を上げねば話しも出来ぬ。顔を上げられよ、村長殿」
「へへーっ!」
へへー、て言うだけで身じろぎ一つしない。斜め後ろでドゲザしているご内儀殿に到っては可哀想なほど震えておられる。
「しかたない。では勝手に挨拶を致そう。こちらにおられるお方がスルガとサガミの民を魔獣の牙より守ってくだされる神獣様。ミウラの主でござる」
『ただ今ご紹介にあずかりました、ミウラの主です。どうぞよろしく。って、この挨拶、流行ってるんですかね?』
「へへーっ! オゲェ!」
村長殿は緊張のあまり、吐きそうになっておられる。
「して、某がミウラの主の巫女にして、二ヶ村の領主代行、イオタにござる。ご覧のとおり、ネコ耳ネコ尻尾が生えておる。これはミウラの主のお力の影響でござるが、中身は人と変わらぬから安心めされよ」
ネコ耳と尻尾を弄くってみせる。誰も見ておらぬが。
「既に知っておろうが、某はここ、二ヶ村の領主、イオタ タケマル様の姉である。タケマル様が元服を迎え、正しくイオタ家をお継ぎになられた暁には、晴れて二ヶ村の領主となられる。某はそれまでの繋ぎに過ぎぬ。そう心得られよ」
「へっ、オゲッ、へへー!」
「無理するな村長殿。……先に吐いとくか?」
「へへーっ。うぼげぇ!」
『空えずきですね。あれは苦しい』
「さてと、ミウラの主を含め、神獣様が人の政に関与する事は一切無い。今回、お見えになられたのは単なる興味のためでござる。されど、二ヶ村のことを気にかけていただけるであろう。たとえば、この村に魔獣が出没した場合、何をおいても駆けつけていただけるであろう程に」
「へへー!」
空えずきから持ち直された模様。
「さて、次ぎに、えー、後ろに控えているのが代官のカザマコジロウである」
「ただ今、ご紹介にあずかりました、代官のカザマ コジロウです。以後よしなに」
『定型文と化してますな。今後、イオタ家での正式な挨拶となりそう』
ありきたりな挨拶でござろうに。
あと、とうとうカザマ姓で押し通しおった。
して、ここまで挨拶をしておるのに、誰も顔を上げようとしない。
「その方ら、ミウラの主をその目で拝める又とない機会でござるよ。今顔を上げないと末代までの後悔となるぞ」
「へへー!」
ビクビクと体を震わせておるが、まだ上げない。強い興味は引かれるが、恐怖心と引っ張り合いになっておるか?
『地方の田舎の人達にとっちゃ、わたしは天変地異をもたらし命の創造を行う神様なんでしょうね。興味はあるけど見るのが怖い? 精一杯の誠意を示すため、全員が集まった?』
その様でござるが、これでは話がしづらいし、顔を覚えてもらわないと、後々差し障りがござる。
「顔を見る気がないなら、全員で集まらねばよいのに。空き巣に入られても知らぬぞ」
コジロウ殿も挨拶をして、気がこなれてきたらしい。
「上の村も下の村も村に金目の物はございません。村人全員が集まってるんですから、人攫いも手が出せません」
「ほほーう!」
喋ってくれたのは下の村の村長の隣に座っておる少年でござる。顔を上げておる。
年は、七、八歳か? 一重まぶたの、……普通の少年でござる。
「少年よ、某を見て、どう思う?」
「えーっと、すごい別嬪さんです」
『素直! 妬けます! でもショタです。精通前です! イオタの旦那、絡んでもらえませんか? 神獣の命令です!』
神獣の命令とやらは無視することにして。さてこの少年、強い。物怖じしない人は、話が通じない人の次に強い!
「うむ、少年は見所がござるな! 村長殿の跡継ぎか?」
「へい。今んところ長男です。何年か前までは三男でした」
と言うことは? 上の二人が亡くなったか?
村長殿と奥方らしき女が少年を押さえようとして、小声で怒鳴られておる。少年は聞こえぬふりをしておる。面白い少年でござる。
「子供が育たぬのは悲しいことでござるな。村長殿、ご心中お察しいたします」
「め、滅相もございません!」
「ようやく、へへー、以外の言葉を口にしてくれた。礼を言うぞ、少年」
なんのことか分からぬようで、少年はキョトンとした表情を……あ、すぐに理解しおったこやつ。
「少年、名は?」
「サンスケです。三人目の子供という意味みたいです。サンって呼ばれてます」
ニヘラと笑うサン。綺麗な笑顔をしておる。こやつ、天然の人誑しにござる。
「サン、なぜ先頭切って喋った?」
「だって、巫女様が何度も顔を上げよと言ってられるのに、大人は誰も顔を上げないし話さないでしょ? 礼儀も長いとしつこい。それって前から時間の無駄だと思ってたんですよね」
遠くから来た人と挨拶が始まったら、いつまで経っても挨拶合戦が終わらないとか、お土産をもってきたのに受け取りを断られるとか、訳の分からん遠慮が美徳とされる風習。それをこの子は無駄と一蹴した。
『信長公に通じますなぁ』
うむ!
「村長殿、よい跡継ぎに恵まれたようでござるな。マタノシタ村は安泰でござるな」
「いえ、こんなやつ、生意気で理屈言いなだけで、とてもとても!」
「気に入ったぞ。これより、某と面会する際、サンを側に控えさせよ」
「た、大変な事に……」
村長殿も顔を上げて話しておられる。集まった村人も、多くが顔を上げて、ミウラや某らを見ておる。
小声ででござるが、口々にミウラの大きさや、某の耳・尻尾についてお喋りしておる。コジロウがいい男だと秋波を送る娘の声も聞こえてくる。某のネコ耳を嘗めてはいけない。針の落ちる音さえ拾えるのでござるよ。例えば――
某のネコ耳ネコ尻尾を見て、滾る、とか、今夜はあれで至高ろうとか聞こえてくる。この村は近いうちにネコ耳美少女の手によって滅ぼされるかもしれぬ。
ようやく慣れてきたか。ざわつく声が一際大きくなった。
『受けがよいようなので、一発サービスしましょうか? タケマル君が支配しやすいように』
「頼むミウラ」
持つべきものは頼れるネコにござる。
「さて皆の衆!」
声を張り上げた。たちまち静まる村人達。
「畏れ多くも、ミウラの主が、お力の一端をお見せいただけると仰せだ。しかと見られよ! 危ないんでちょっと下がって! はい下がって-!」
波が引くような液体的群衆行動で、人のいない空間が出来上がった。後ろの方の者達は、木に登ったり。肩車をしたりして、何事かと見つめておる。
『コホン!』
なんか緊張したかのような咳払いを一つして、ミウラが背筋を伸ばした。
『えー、では一発芸を。雷精! 行け、ファンネル達よ!』
ブワッと湧き出てきたのは、五個の火の玉みたいな、パチパチする青白い塊でござる。
「うおぉー!」
観客から声が上がる。
青白い光の塊が、ミウラの周囲を高速で回る。それぞれが不規則な筋を描いておったが、一列に纏まり、上へ飛び上がる。頂点に達すると、順次落下。
ズドドドドド! っと音を立て砂煙を立て、地面に穴を穿つ。
「おおおおー!」
受けがよろしい。
『では最後となりました。皆様、お耳を塞いで、軽くお口を開けておいてください』
「――との事! 大技でござる!」
『雷回廊! からの鋼雷砲!』
バリバリバリッ! ッドドド-ン! ウィンウィンウィンッ! チュドーンッバララッ! ボボッ!
ミウラの回りに沢山の雷が落ち、光の柱を作った。
次ぎに雷の玉を造り、遠くの山に向けて発射! 山の中腹で炸裂! こっからでも大木が何本か吹き飛んでいるのが見えたし、土煙も上がった。幸いにも火災は起こらなかった。
村人達が全員中腰で構えておられる。手は開いたままの構えにござる。
『初代マン?』
コジロウまで腰を落としてニンジャの構えをとっておる。
「……と、今のが、先日、フジ川の上流で五匹の魔獣を纏めて消滅させた、ミウラの主のお力でござる。はい、拍手!」
ミウラの雷に負けぬ音量の拍手が打ち鳴らされた。もう、手のひらが真っ赤になるほどの。
「こうして、マタノ荘の住民達と打ち解けたのでござった」
「え? どこが?」
コジロウは突っ込み体質。




