3.領地見学会
『これから内政パートですね! 腕が、もとい、前足が鳴りますよぉー! 石鹸、清酒、椎茸、正条植え、千歯扱き! 味噌に醤油に養鶏所!』
あれから数日後、某とミウラはコジロウを連れ、領地へと向かった。領地へと向かった。大事なことを強調するため、二度言った。
道順は、前回のスワの海への旅と途中まで同じでござる。サッタ山の難所海岸を難なく突破。雄大なフジのお山を横目に見ながらフジ川を越え、ヌマズからイズへ入る。みんな足が速いんで、その日の内にイズ入りにござる。
「領地はまだでござるかな?」
「へぇ、あの低い山を回ったら見えてきます」
今回もコジロウ殿の案内にござる。コジロウ殿は便利でござる。なぜか地理に詳しい。
そうこうしておる内に、村が見えてきた。
ここがイオタ家の領地マタノ荘、マタノカミ村とマタノシタ村にござる!
して――
ここには神獣様を祭る神社がござる。そこそこ大きい。して、生臭い話でござるが、二ヶ村とも、この神社の影響下にある。それが証拠に、年貢の納入はこの神社が仕切っている。
『何処かの世界線の興福寺だとか、本願寺の地域密着型ですね』
だ、そうだ!
まっ先に向かったのはその神社にござる。マタノ神社という名の、大変古くに縁起を持つ、由緒正しき神社にござる。由緒正しき神社はご多分に漏れず、戦闘力を持っておられる。怖いお兄さん方が、境内をウロウロ警備しておられるのでござる。
「どう見る? コジロウ殿?」
「あえて言います。カスですな」
それは心強い。あっという間に制圧されるでござろう。
「警備の侍を雇う手間が省けます」
鍛え直されるか? コジロウ殿、目を光らせてはいけない。なにやら鬱憤が溜まっておられる模様でござる。
してて――
神社にて。厳つい顔の宮司様と関係者が数を揃えてお集まりになってこられた。刀を腰に差しておられるが、神獣様に対し奉り、失礼でござろう?
ミウラは、神棚の前で香箱座りで落ち着き、某がその前、コジロウ殿が斜め前の下座という配列にござる。
ちなみに、マタノ荘では、マタノ神社の宮司殿が名主をしておられる。
『こんにちは。サガミとスルガの神獣やっとりますミウラです。制圧!』
ミウラの圧迫面接が始まった。コジロウ殿ですら顔から血の気を引かせる圧でござる。
『文字通り魂への直接攻撃です。攻撃をライフで受けよぉぉーッ!』
宮司様方は、直ちに刀を後方へ放り投げられ、額を床材に気持ちよく打ち付けられた。
『そう。最初からそうしていただければ、このお社が燃える必要もない』
「ミウラの主のお言葉を意訳するでござる。あと少し動きが遅ければ、マタノ神社が焼失するところでござった。以上でござる。危ない危ない」
「おっ、お許しをー!」
最初から喧嘩を売ってこないでいただきたい。こちらとしては、穏やかな関係でいたいのに……。
……されど、後に赴任する弟タケマルのことを考えて、いっちょかましておかねばなるまい。
「最初から左様心がけられよ。ちなみに、某とミウラの主はイマガワ館で起居しておる。たまに御屋形様と意見の交換を致しておる身でござる。御台所様にもよくしてもらっておる。某の世話役がセナ様とオカベ様でござる。クシマ様とは魔獣を相手に、共に戦った仲でござる。それとイセのシンクロウ様とも何度かお話をしていただいた仲」
「うへぇー」
「さらに、イズモ大社の焼失事件を知っておろう? イズモ大社は燃え、某に手を出してきた者どもはアマコ様の手により滅ぼされた。後にキョウへ上がって、帝にお目見えいたした際、イズモ大社の後始末の件を直接聞かせていただいた。帝はお美しい声を持つ美男子でござったな。そうそう、公方様とも親しく歓談いたした。さすが武家の棟梁。武の圧が強いお方でござった。して、キョウに滞在中は大納言様のお屋敷にやっかいになったでござる。お茶が美味しかったでござる」
これ位お名前を列挙しておけば、某は手を出してはいけない相手で、逆に仲良くせねばならぬ相手と思っていただけることであろう。
「して、某は一時的な領主でござる。弟でありイオタ家の嫡男であるタケマルが元服した暁には、全てを譲る予定でござる。某よりタケマルと誼を通じた方がよかろう。例えば、文のやりとりとか如何でござるかな?」
「へ、へへー!」
ここから宮司殿の背中が見えるのでござるが……汗で色が変わっておる。
『脱水症状が心配です』
脱水原因の八割方はミウラでござる。
「して、この者はカザマコジロウと申す者。イオタ家の代官でござる。便宜を計っていただけるとありがたい。ちなみに、剣の腕を試そうなどと思われるな。……死ぬぞ」
「ただ今、ご紹介にあずかりましたカザマコジロウです。若輩者ですが、ご指導ご鞭撻等の名目による嫌がらせがございましたら殺します。宜しくお願い仕る」
「へへー、何なりとご用命下さい!」
そろそろ、床に汗が水溜まりをこさえるのではなかろうか?
「では、お言葉に甘えるでござる。早速、年貢の帳簿を出していただきたい」
「え?」
顔を上げられた宮司殿は、びっくり顔をしておられる。
「如何かなコジロウ殿?」
「はっ、10年前までで結構です。そろい次第、精査に入ります」
コジロウ殿も解っておられる。
「宮司殿、過去に間違いがあったとしても、責めたりはせぬ。過ちは見て見ぬ振りを致す故、隠すでないぞ。正直には正直で返そう。これで宮司殿の立場も安泰にござる。これから手を取り合って上手くやっていこう」
「へっ! へへー!」
へへー、しか聞いておらぬ気がする。
「後はそうさのう……まだ日が明るいから、村を回ってみようか? 宮司殿、誰ぞに案内を頼んでいただきたい」
「へへー! 直ちに!」
「私も付いていきましょう。書類は部下に任せます」
気がつけば、コジロウの手下と思われる身なりのこざっぱりした男が二人。後ろの壁際に出現して頭を垂れておった。いつの間に?
「ニンジャすげぇ!」
『給金は出ませんけど大丈夫ですか?』
直ちに案内人が用意され、まずはマタノカミ村へ向かう。
「コジロウ殿、境内のゴロツキ共は如何致す? 刀を提げておるぞ」
「仕事の前にちょいと躾けておきます。イオタ様はなんら心配をなさりませぬよう」
『ふふふ、頼もしいぞ、コジロウ』
「――と、ミウラの主が仰せだ」
「あ、有り難き幸せ!」
腐敗していてもミウラは神獣。神獣に褒められて、コジロウは舞い上がっておる。
さすがニンジャでござる。平然とした表情を浮かべておる! と言いたいが、表情が硬いぞ。それに血色が良くなった。
しててて――
でかい方の村、マタノシタ村の村長さんのお家にて。
マタノウエ村は、マタノシタ村から分派した村とのこと。歴史的なナニがあって、上の村は下の村を立てているそうな。
村人総出で、とびきりのおめかしをしてお出迎えにござる。
『おめかしと言っても、冠婚葬祭用の一張羅ですが』
マタノウエ村の村人も総出でござる。これ全て案内人が自慢げに説明してくれたのでござる。
ドゲザでお迎えにござる。
村長さんの家に通じる道からドゲザで迎えが始まり、村長さんの広い庭も、ドゲザでみっちりと埋まり、上がり口の土間から、台所から薪置き場から牛小屋まで。
ミウラと某を見たら目が潰れると思っておるのかもしれない。
『ドミノ倒しの後みたいですね? なんで?』
原因がそれゆう?
「まるでお祭りでござるな」
「そりゃお祭りにもなりますよ。戦わない神獣様、というか普段の神獣様を拝めるなんて親子三代に一度あるかどうかの出来事です。さらに伝説の神獣様の巫女様まで拝めるとなれば、村開闢以来の出来事ですよ。今回の仕事、ウチの身内にも人気でして、任務の取り合いで小競り合いが発生したくらいですから」
「うーむ……某の為に働いてくれたコジロウの手下の者に、某がしたためた短い書でも渡そうか? 特に良くしてくれた者には、書にミウラの抜け毛でも添えよう」
「絶対に止めてください! 統率がとれなくなりますから!」
怖い目で叱られたでござる!
そんな中をしずしずと進む一行。玄関前で、マタノシタ村村長さん一家とマタノウエ村村長さん一家が、なかよくお出迎え。
『ゲザーで』
思っていたのと違うお出迎えにござる。




