2.代官職
フウマの忍び、コジロウがイオタ家領地の代官となる。
バカですか、と罵られた ←イマココ
「コジロウ殿がなんでも命じよ、と言うたばかりでござらぬか? それとも『カザマ家』は舌の根が乾かぬ家系か?」
ペシペシと尻尾が床を叩いている。
「一から説明しても良いですか、イオタ様?」
「カザマ家の系譜を説明しても良いのでござるか? 特に上司」
「ご下命、しかと承りました」
コジロウ殿は素直にござる。ニンジャ式片膝の礼をもってイオタ家に恭順の意を示された。
「注意しておく。正式な領主、つまりコジロウ殿が殿と呼ぶのはイオタ家嫡男タケマルにござる」
「くっ、ははー!」
六歳児のタケマルに対し、条件反射で礼をしておる。凄まじきかな宮仕え、でござるな! 任務失敗の危機を回避しおった。
「マツや、この者は一体? マツとどういう関係ですか? マツの知り合いで、家名無しで名をコジロウとだけ。マツの紹介でこの家に勤めると……紹介状もありましたよ」
その紹介状は偽造された物にござる。と言う目でコジロウを見た。大汗をかいておったわ(笑)
しかし、さすがお母上。落ちぶれても武士の妻。自然な感じでコジロウ殿よりの情報で、知らされただけを語られた。
「この者の本分はカザマ家のコジロウ殿。浪人中の武士にござるよ。少し前に御屋形様から『直接の紹介』で、ミウラの主と重要な秘密の仕事を共にした男にござる。大変有能な男でござったので、伝手を保っておこうと思うた次第」
「ほう、それはそれは。で、代官職は勤まるのですか?」
母上。グイグイ来なさる!
「この男、『部下に命令をし慣れて』おります。数字にも明るく腕も立つ。体力も並以上。なにより、ミウラの主よりの信任も厚い。裏切ることなど……裏切ったらミウラの主並びに近隣の神獣様が蜂起いたします」
部下を持つ立場の男。そんな立場の者が場末のイオタ家で下男なんかするのはおかしい。と、母上に伝わったでござるかな?
「ほほー、ならば適任ですね。コジロウや、よしなに頼みましたよ」
母上様。某の言葉の真意を読み取られた。狐のような目でコジロウ殿に微笑みかけられたでござる。怖いでござる。
「コジロウ殿、出世でござるよ。浪人(笑)しておった男が代官でござるよ。断れるはずなかろう? 断ったりしたら不審者でござる!」
「ははーっ! 誠心誠意お勤めいたします!」
汗でコジロウ殿の脇の色が変わっておられる。……おもしろ!
「近いうちに、某と……ミウラの主も付いてこよう。コジロウ殿と領地へ向かうつもりだ。コジロウ殿、シメられる覚悟、もとい、旅の用意を致しておけ」
「ははーっっ!」
して――酒の席でござる。
「さてデンスケ。その方の変わらぬ忠義、まこと天晴れにござる! 褒美に、イオタ領で家老職を申しつける!」
「ごっ! ご遠慮いたしますッ! あっしにできるわけないでしょう! 後生ですからお考え直し下さい!」
「ははは! しかたないのう。では、タエ、領主館で侍女頭の役職に付かぬか?」
「めめめめめ、めっそうにもない! ありありありありありがたきお言葉でございますが、タエは奥様にお仕えして一生を終わりとうございます! お許しを!」
「ははは! 断られたでござる」
「ご、ご推挙していただけた名誉を子々孫々まで伝えていきます、お嬢!」
「タエもでございます! さっそく親戚やご近所様に自慢しなきゃ!」
酒を飲んでご近所に自慢しまくるデンスケや、井戸端でご近所の奥様方に自慢するタエの姿が目に浮かぶようでござる。
「さて、そういうことだコジロウ殿、いやこれからはコジロウか? 必要と思う部下に、もし『心当たり』があれば、予算の範囲内で雇うがいい。コジロウの配下としよう」
「へっ、へへー! ……それくらいでご勘弁を!」
ふふん! 領地は二ヶ村でござる。お給金はそれほどでない。それ以外の人件費は手弁当でござるからな。
某は前世で手広く商いをしておった商人。帳簿にはちと煩いし、人使いも荒かったとご近所からの評判でござった。ふふのふ! こき使ってくれようぞ。
してて――
ミウラの屋敷へ戻ってきた。報告でござる。ほうれん草でござる!
『さすがですイオタの旦那。恐れ入りました』
「されど、注意は致そう。能力的に問題のない男であるが、出自が危ない」
『ですね。でもって、いつ行きます? ちなみに、領地はどこですか?』
「それはな――」
――三ΦωΦ三――
「なにやっとんだぁ↑コジロウ?」
なにやっとんだぁ↑、と極端に語尾を上げられてもなー。呆れられても言葉など出ない。
頭領、コタロウ様の前で俺は傅いている。ちなみにコタロウ様は俺の叔父上だ。
でもって、とってもマズイ。二ヶ村とはいえ、俺は代官職。フウマ忍軍とはいえ、ニンジャに過ぎない頭領は、無位無冠。立場が逆転していた。
「あのネコ耳、頭おかしいのか?」
「はっ、そうとしか思えませぬ」
あと、上手く使われているのかもしれない。
「まあ仕方ないか。最悪でも草を植えることができる。それで、ちなみに領地はどこだ?」
カイ方面だとかミカワ方面だったらまだマシだっただろう。
「イズ方面の寒村だそうで……」
「……」
頭領は口をパクパクしておられた。これほど隙だらけの頭領は初めて見た。いや、頭領が人前で隙を見せたのが初めての事だ。
頭領が混乱するのも仕方ない。
イマガワ館近くは、最初からあり得ないと思って諦めていた。予想に上がっていたカイの国国境やミカワの国国境なら、フウマ忍軍の基地として使用できる。
でもなー。イズはフウマの大口取引先であるサガミとの国境地だしなー。フウマの本拠地であるハコネの山のすぐ南だから、重要度が希薄なんだよなー。
よりによってそんな地を賜るとはなー。引きが良いのか悪いのか。……イマガワ館もイオタ様も、俺がイオタ家に潜入してることに気付く前に決めた事だから、本物の偶然なんだよなー。
「ま、まあよい。仕方ない。誰が悪いわけでもない。考えようによってはイオタ様と昵懇になれる機会が増えたと言うことだ。良いように考えよう。基本戦略の見直しを含めて」
「それが、その頭領……」
「なんだ? まだ何かあるのか?」
棟梁がイライラしておられる。言いにくいなー。
「言いづらいのですが、彼の地の正式領主は弟君のタケマル様。イオタ様はタケマル様が元服されるまでの繋ぎでございます。そしてわたしは代官」
「……だから?」
「はっ! 代官は任務地で寝起きいたします。ところが、イオタ様はイマガワ館で寝起きします。つまり、会えるのは年に数度。しかも、タケマル様が元服されれば、もう会うことも……より少なく……頭領? あの、頭領?」
頭領は、脇腹を押さえて蹲っておられる。
「……くッ! 案ずるな。ただの神経性胃炎だ!」
棟梁が隙を見せたのはこれで二度目。人生二度目。
「と、とにかく考えよう! な! みんなで考えよう!」
俺はニンジャとして自他共に認める一流だ。それが代官なんて……。
……あれ? すごい出世じゃん!?




