1.イオタ家領地騒動
領地経営編、スタートです。
よろしくお願いします。
『復活ッ!』
なにやら朝っぱらからミウラがうるさい。
『ミウラ復活ッ! ミウラ復活ッ! 復活ッ!』
「なんぞ辛いことがあったのか? オッパイでも揉む?」
『揉ませていただきます。あー、落ち着くー!』
言うなり肉球でモミモミされた。落ち着いたのならそれでよし。
オッパイは百薬の長と昔から言われておるからな。
『落ち込んでおりましたが、いっぱい食べていっぱい寝て、いっぱい寝たら、あら不思議。元気になりました。それはそれ、あれはこれです。どうにもならんことをあれやこれや考えたってどうにもなりませんから、今を楽しみましょう!』
いっぱいと言われても、スワより帰ってから一日しか経っておらんが? 本人が良いというなら良いのでござろう。さすがネコにござる。
『おっ! さっそく魔獣の気配! イズ半島の先っちょあたりでございますな。いっちょやったりますかー!』
単純なヤツめ。
して――
イズ半島の魔獣はあっという間に血祭りに上げられた。
『一昨日きやがれ、ボケェー!』
元気になってよかったよかった。辺りは黒こげになっておるが……。
『力が有り余ってッ!』
「あ、これ! 昼間からナニを!」
前足を逆関節に仕留め、床に押さえつけ、首の後ろを掴み上げる。こうするとミウラは動けなくなるのだ。
してて――
「大変でござる! 一大事にござる!」
あわわわあわわ!
『落ち着いてくださいイオタの旦那。さあ、ご自分のオッパイを揉んで』
「もみもみ……ふー」
どうにか口がきけるまでに落ち着けたでござる。やはり百薬の長!
『で、一体どうしたんですか? 血相変えて。旦那のバックには全国的暴力組織神獣会が付いてますよ。たぶん、日本征服だって出来ます!』
「先ほど、セナ様にお呼ばれしてきたところであるが、なんと! 某が領地を賜ることとなった!」
『ほう! そりゃ目出度い。武士の本懐にございますな! イマガワ館も上手いこと考えましたなー!』
「二ヶ村を頂いた。某は良き領主になる。領主! 何と心地よい響き!」
『村をたった2つも! へぇー安上がり……いや何でも!』
領主でござる! もはや城を頂いたのも同じ! 領主にござる! とうとうイオタ家は領土持ちとなった!
『仮に二ヶ村で四百石のアガリとして戦時動員数は、たった10人から12人も! お喜びのところ、水を差すようで申し訳ございませんが、なんぞ条件でも付けられてませんか?』
「うむ! 本来、神獣がらみの者に武家が褒美を与えるのは良くないことでござる。そこで、イオタ家宛で褒美をくだされることになった。されど、現イオタ家嫡男タケマルは六歳。元服にはほど遠い。よって、タケマルが元服し、領地を継ぐまで、某の一時預かりとなった。とりあえず、領主の名は某になったのでござる! やほい!」
『考えましたなぁ、イマガワ館! セナ殿暗躍の匂いがプンプンします。で、だれか配下に付けて頂けましたか?』
「いや、人事はイオタ家に任された。イマガワ館は手も口も出さぬ故、自由に致せ。とのことでござる。悪い意味ではござらぬが、イマガワ館が口出ししてこぬ領地経営にござる! イオタ家を信用しておられる証拠!」
あれやこれやと上から口出しされ、人事も奪われ、結局、領主とは名ばかり、年貢は上の懐に入る、という場合が多いのでござるよ、この時代。
『で、イオタの旦那はわたしに付きっぱなしになるのが仕事ですよね? タケマル君は若年者。幼いウメマル君を抱えたお母上は論外。ではだれが領地経営をするのでしょうね? 言うまでもありませんが、現地に常駐する人を置かねばなりません。常駐領主か代官ですね?』
「えーと……」
そこでハタと気付いた。
我がイオタ家は、男子の層が無敵なまでに薄い。
亡き父に兄弟はおらず(仲良く討ち死に)、爺様婆様はとうにお亡くなりでござる。母方にも都合の良い男子がおらず。イマガワ領内でイオタ家を名乗る者は某ら家族四人だけ。親戚がおらぬ。
……超遠い親戚がおるにはおるが、ツモト家でござる。アレに協力を求めると、瞬時に横領され、若い村娘は犯される。火を見るより明らかにござる。
『イマガワ館は、イオタの旦那が泣きついてくることを想定しておられるご様子。頼めば有能な人を恩着せがましく紹介してくれますよ』
「それはありえ無いッ!」
『なんで?』
「御屋形様に泣きつくなど言語道断! イオタ家、頼りなし! と見なされ、領地お召し上げにござる!」
試されておる! イオタ家は試されておる!
『被害妄想って言葉、知ってます? ま、いっか。その問題は、これから一緒に考えましょう。今すぐというわけではないでしょうから。それより、今すぐ伝えねばならない方がおられるのでは?』
え? 伝える人?
「はっ! 母上とタケマルにござる!」
直ちに許可を頂いて実家へと走ったのでござる!
して――
城下のイオタ家にござる!
「母上ーッ!」
尻尾をゆらしながら、どかどかと家の中へ入っていく。
「おやおや、どうしたのですかいきなり。武士は慌てること相成りませんよ」
「母上! 良き知らせにござる! 皆を集めてくだされ!」
してて――
全員集合にござる。
母上、タケマル、ウメマル、デンスケ、タエ、そして初顔の下働きの者数名。
「それで、どうしたのですかマツや?」
「うむ、これを……」
懐より、書状を取り出す。
「御屋形様の書状にござる。控えなされよ!」
「へへーっ!」
皆さん、書状に頭を下げられる。
「イオタ家に、御屋形様より領地を賜った!」
「ええー!」
「なんとぉー!」
驚きにござる! ちょっと前の某と同じでござる。見ていて気持ちよいのでござる!
「マタノ荘でござる。マタノウエ村とマタノシタ村の二ヶ村でござる。賜ったのはイオタ家嫡男タケマル。されど、タケマルは若輩者に付き、元服するまで某が預かることとなった。タケマル元服と同時に、イオタ家当主タケマルが引き継ぐこととなっておる。よかったな、タケマル!」
「ありがとうございます、あねうえ!」
タケマルは正式な礼儀作法で礼を述べた。母上の躾が良いのだ。
「うむうむ、礼は御屋形様に伝えておくぞ。タケマルはご領主様ぞ!」
「うわーい! あねうえー! ありがとー!」
うむうむ。タケマルは可愛い!
「ありがたいことです。ありがたい……ありがとう、マツ……」
母上、泣かないでくだされ……
「喜ばしい席にござる。祝いの席でござる故、清酒を持ってきた。皆に振る舞おう!」
一升樽を手みやげに持ってきたのでござるよ。中身はミウラ謹製、澄み酒こと、清酒にござる。
「ありがたやありがたや!」
「デンスケは酒の方がありがたや、でござるな?」
「違いありません!」
うわははは、と盛り上がる家中でござる。
で、初顔の下男にも……見た顔でござる。
「おぬし、コジロウ殿!」
「はい。いつぞや以来、お久しぶり……というほど空けておりませんが」
この者はフウマの凄腕忍び、コジロウ殿でござる。
「知らぬ間に入り込んでおったか!?」
さすがニンジャ。すごいでござる! 男の子心をくすぐるでござる!
「へへへ、巫女様、この家が巫女様の柔らかい脇腹で……いえ、性的な意味ではございませんので、変な目で見るのはおやめ下さい。ちょっと、やめて! 真面目な話をしておりますので!」
性的な意味ではないとすれば……おお、ここが某の弱点でござったか! 忍びに教えてもらってでござる! やはりこやつ、出来る男にござる!
「とはいえ、イオタ家の……実質巫女様の下で働くのですから、何なりとご用命を。わたしは優秀ですよ」
売り込むことを忘れておらぬ! さりとて、コジロウ殿が優秀なのは某もミウラも知っておる。それに、部下の情報収集力ときたら……。ピコンとひらめいた。
「何なりとな? それでは、コジロウ殿に命じよう。イオタ家領地の代官を命じる。ただちに領地へ赴任せよ」
「……バカですか?」




