11.顛末
次回でカイの国編、最終回です。
大怪獣スワの主が、小型の神獣様に。
そして、クリクリお目々が可愛い←イマココ
白灰色の毛なみ。ピンと立った耳。不安げに揺れる尻尾。
神獣様の中でも、ミウラの体躯は小型に分類される。ひとえに、数え年十七の若い神獣だからでござる。
スワの主もミウラと同じほど小さい。いや、大きいけれど!
『あ、あの……私、スワの主と言います。その、皆様は? 私と同じで神獣ですよね?』
怯え半分、期待半分の色を浮かべたクリクリ眼が神獣様方を見て、右往左往しておる。
声がな。子供でござる。
ミウラの声も子供っぽいというか、少年の役を務める女みたいな声でござるが、それでも大人っぽい声色でござる。
それに引き替え、スワの主の声はまるで声変わり前の子供にござる。高く、澄んでおる。
「なんともはや!」
何故こうなった? いや、聞かずとも理解できたが!
『愚かな。これまでの記憶を全て消したか』
フクロウ型の神獣様、カスガの主が哀れむような声を出された。
『これで良いのかもしれぬ』
イナバの主は肯定なされた。罪を犯した記憶がないのだ。処罰は出来ぬ。
ギフの主、ムサシの主、そしてミウラは声を出さない。哀れみの目、そして悲しい目。そんな目をして黙ってスワの主を見つめておられる。
それから……
某を含め皆様、初めてスワの主に会った風体で自己紹介をなされた。なぜ、ここに集っているのかは、聞かれなかったので答えてない。
『落ち着いたら、言い訳を考えておこう』
後に、イナバの主がため息混じりにそうおっしゃった。
『こうして、どんどん嘘つきになっていくのだな』
年寄りの宿命にござる。
『はい! なぜか最初からこの力が使えます! シナノとカイですね? うーん、あっ! 頭の中に地図が浮かんでくる! ここを守ればいいんですね!』
ニコニコ顔のスワの主でござる。やる気満々にござる。
『今日からスワの主は我らの仲間。困ったことがあれば何でも聞くが良い。教えてやろう。先ず手始めに……』
意外と面倒見の良いムサシの主が、スワの主にあれやこれやを教えておられる。
して、残された某達は、破壊を免れた下のスワ大社の一角を借りて、打ち合わせにござる。この時間をとるために、ムサシの主が教育係を名乗り出られたのだ。あなたの犠牲は忘れない。
『先ず聞きたいんだが。ミウラの主が使ったあの大技。あれは何だ? 充分、神獣を殺せるぞ』
イナバの主にござる。
『ミウラの主は風系の力を使う。雷が主武器だから我と同じ型の神獣だ。だから我には解る。あの技、雷の応用だろう?』
『あ、はい』
カスガの主が突っ込んでこられる。ミウラは元気がない。なぜかな? 特に隠すようなことではなかろうに?
カスガの主の解説? は続く。
『そもそも雷は、当たってから熱と衝撃を発生する性質を持っている。だが、あの技は撃ち出したときから熱と重さを持っていたと見た。どういう仕組みだ?』
『特に難しいことはございませんよ。空気の粒を雷の力を使って帯電させ、一方向の動きを与えただけです。雷が落ちた状態の空気の粒を撃ち出すんですから、最初から熱と質量を持ってます。あと、光に近い速度が出ますから、軽い空気といえど大質量化します。欠点は、射程距離が短く、有効射程範囲を越えると、一気に霧散して効果が無くなること。地磁気の影響を受けやすいこと。それと準備に時間が掛かることですかね?』
うむ! 解説をし出すと途端に元気が出てきた。ミウラあるあるにござる!
『でもって、2撃目の多弾頭弾は、空気に雷を微妙な匙加減で与えて、プラズマ……えーっと、雷によく似た状態にして、根性で撃ち込む技でございます。結構簡単ですんで、敵をタコ殴りにするとき、多用します』
うむ! 何を言ってるか全然でござる!
『う、む、なるほどなるほど。大変参考になった。ま、まあ、儂はこのままで良いかな? ほら、風の技は雷だけじゃないし。竜巻も使い勝手が良いし!』
うむ! カスガの主も理解を諦めたご様子にござる! 神獣が理解できないことを人の身が理解できるはずないでござろう。安心いたした。
『そんなことよりも!』
おおミウラ、あんまり聞いて欲しくないのか、話題を変えたでござるよ。
『スワの主の、あの黒いの! 魔獣の気配がしてましたけど、何ですかアレ?』
「それ、某も気になるところにござる」
水の防具を貫いたからでもあろうが、魔獣だったからミウラの技が通じたともいえようが……はて?
『それが解らぬ』
カスガの主が目を閉じられた。小首をかしげられた。フクロウのお姿で。カワイイでござる。
『私も解らん。聞いたこともない』
『同じだ。初めて見る』
ムサシのヌシもギフの主も知らぬか。
「ミウラ……の主、心当たりはござらぬか?」
『え?』
なんだ? 聞いておらなかったのか? ほんの直前まで解説しておったであろうに!
「スワの主の、あの魔獣みたいな! 何故でござろうというお話をしておる!」
『え? ああ、そうですね! 悪墜ちしたヒーローですかね? 或いは力の暗黒面か?』
「絵物語を参考にしておる顔でござる」
『え? 解りました?』
付き合いが長いからのう。前前世のトクサツとかヌかす黄表紙でござろう。結局ミウラも心当たり無いのか。もうお手上げにござる。
『諸先輩方が知らないんだし、一番の……下から二番目の若年者に聞いても、返ってくるのは冗談だけですよ!』
それもそうでござる。
『これ以上は相談しても何も出てこぬな』
蜷局を巻いたギフの主でござる。
『スワの主は要観察処分だ』
イナバの主が、毛並みを整えながらそのように仰せになる。
『ああ、スワの主は要観察としよう。我が、おもに面倒を見ることにするか』
羽を広げられるカスガの主にござる。上空から観察も出来よう……羽の怪我はもう治ったようにござる。神獣すげぇ。
『では解散にしますか。早く帰らないと! 縄張り内で魔獣が出てこないか心配です』
ミウラがシメの音頭をとった。
スワの主。悲しみと苦しみから、お逃げになられたか……
して――
コジロウ殿と合流でござる。
ミウラが熱線をぶっ放した山の斜面で待っておった。ここで待つように言いつけておいたのでござるよ。
「如何でございましたか?」
これでござる。コジロウ殿はフウマのニンジャ。今は某らに従っておるが、その本性はフウマの里にあり。例えここで口封じの約束をしても、コジロウ殿は上司に報告をあげるでござろうし、イセ氏にも報告が行くことでござろう。それがニンジャにござる。
それと、スワ大社の宮司様にも報告をあげねば。
いちいち説明しておっては面倒くさい。嘘も交えねばならぬ。齟齬が生じれば面倒だ。
上のスワ大社へ戻り、纏めて説明会にござる。
あらためて上下スワ大社の関係者とコジロウ殿に集まってもらった。
「全て終わったからお話しいたすが……」
もったい付けて、ぐるりと皆の顔を見ていく。
「スワの海にものすごく強力な魔獣が居着いておったのだ。知れたら大騒動になる故、内緒にしておったが、スワの主一柱ではどうにもならんと、恥を忍んで応援要請があったのでござるよ。これ、スワに着くまで某にも伝えてくれなかったのでござるよ。それならそうと言ってもらえれば、余計なことせずとも済んだのに」
どうせ報告が行くなら、「正しいとされる」報告を持ち帰ってもらおう。
「そこで、ミウラの主を含め、近在の神獣様が、行動予定を調節の上、五柱も集まられてスワの主と共に魔獣退治にござる。ま、蓋を開けてみれば、過剰戦力による袋だたきでござった。退治できた故、安心めされよ」
「はあ……」
年をとると嘘が上手くなる。
「スワの主の暴走でござるが、あれはスワの主であってスワの主でない。いわば影。本体ではないので力の調整が上手くいかなかったらしい。アラミタマという言葉をご存じか? ご存じない? 某も初耳にござる。いずれにせよ、スワの主は最善の方法をとっておられた。それは信じられよ! 某、もっと詳しくお聞きしたのでござるが、難しいお言葉ばかりで、人の身である某では理解に及ばなかっら。ふぉぉおす、だの、だぁくさいど、などという言葉を知っておられるか? コジロウ殿!」
「いえ、全然!」
コジロウ殿が手をブンブンと左右に振った。
「これは神獣様がお使いになる聖言でござる。聖言を魂の汚れの酷い者が聞いたりすると、心の蔵が破裂する場合もあるから気をつけられよ。麩羅妻、とか、美伊井務、とか」
「それ以上、仰せにならないで!」
コジロウ殿が耳を塞いでイヤイヤするように首を横に振られた。心が汚れていると自分でも認識されておられるのでござろう。
「某にまで内緒にしておられた原因は、スワの主の独断への対処から、でござろうな。……スワの主のことを悪く報告すると、神獣による報復があるやもしれん。フウマの里など一発でこの世から蒸発するやもしれぬ。余計なことかもしれぬが、言葉にお気をつけ下され」
「は、はぁ……されど、拙者が知る内容は、イオタ様よりのお言葉のみでございます」
真実を知りようもないから、魔獣戦争物で落ちがつくでござろう。あとはどの様に探ろうと、真実は浮かんでこぬ。……某らも、真の真実は掴んでおらぬからのう。
「宮司様。これにて解決にござれば、これより心安らかに神獣様にお仕え下され」
スワ大社の宮司様なら、何かに気付いてくれよう。ゆっくりと頭を下げられた。
……それに、宮司様とは事前に内緒話もしておる……
して、一息入れてから――
「ミウラの主と某は、一足先にイマガワ館へ帰る。コジロウ殿、ご苦労であった。お仲間の方にも、イオタが感謝しておったとお伝え下され。旅は楽しかった。また機会が有れば、名乗り出てくだされ」
「有り難きお言葉ッ!」
コジロウ殿が頭を下げられた。
「宮司様もお達者で」
「……なにもおかまいできませんで、……申し訳ございませぬ」
某は大きく頷いた。
コジロウ殿に気取られるわけにはいかぬからな。それが宮司様最大のお礼と受け取ろう。
してて――
イマガワ館にて、事の次第をご報告差し上げたところにござる。内容は、コジロウ殿や宮司様に申し上げたことと同じ。
「それはご苦労であった」
と、ねぎらいの言葉を頂いた。
「されど、水に住む小さき無数の魔獣の始末は目処が立っておりませぬ。神獣様によれば、気の遠くなる年月が必要となるが、完全退治は可能とのこと。……要は一朝一夕では退治できぬと言うことにござる。カイの国、スワの国の人々は、あと何代かは我慢してもらわねばなりませぬ」
ミウラが教えてくれた、いちおうの、付け焼き刃的な防衛策を御屋形様に報告しておく。
これで某のお役目はお終い。後のことは知らぬ。政ごとは任せる。
……結局、スワの主の黒いの。あれ、なになのか、解らなかった……
しててて――
ミウラにござる。
一戦が終わってから元気がない。口数が少ない。梅干か味噌が腐るかもしれぬ。
とはいうものの、心当たりがある。
「ミウラ」
ミウラが壁に向かって座っておった。項垂れて。猫背で。猫背は元々でござった。
「死別、を考えておったのかな?」
『イオタの旦那……』
顔だけ某の方へ向けおった。何とも情けない顔をしておる。
「おいで、ミウラ」
某が両手を広げて、ミウラに向き合った。
『旦那ぁーッ!』
がしぃーっと某の胸に飛び込みおった。某を抱きかかえる、ではなく、某に抱きかかえられるように。
『お願い、お願い!』
「うむうむ」
何がお願いか……死ぬな、か……一緒に、か……。
『お願い、お願い!』
「うむうむ」
ミウラは泣いておった。
今日だけ、ミウラは女の子でござった。




