9.戦闘
カスガの主が、謎の弾丸に撃ち落とされる少し前。
イオタとミウラはスワの海を東岸沿いに移動し、下のスワ大社を見下ろす山中にいた。
「ここからだとよく見渡せるでござるな。でかしたコジロウ殿」
「有り難き幸せ」
ここもコジロウの案内にござる。眼下の地を視察できる場所を選んでもらったでござる。
天気が悪いのに、スワの海の全貌どころか、スワ盆地の全貌が見渡せるでござる。対岸、スワの海から流れ出るテンリュウ川の流れまで見える。
『さすがニンジャ。地形の把握は完璧です。アイヤァーッ!』
また病気が出た。いつものことなので放っておいて、地形を頭に叩き込んでおく。
おそらく、これから万が一の事態が起きるのでござる。
しかし……
スワの主でござるが、最悪の結果となっておるやも知れぬ。いや、最悪の結果になったと見て動かねば、こっちの身が危ない。
「どいつもこいつも、神獣様の巫女がらみでござる。軟弱な者どもにござる」
『おや? どの口がそんなことを呟くのですかな? 可愛い巫女さんが自分の自由になるんですよ? イオタの旦那は拒否しますか? 例えば、イズモの巫女様が刃物を持ったまま、にっこりと胸元をおくつろぎ遊ばせれば?』
「刺されても仕方ないでござるな。大自然の摂理には逆らえないでござるからな!」
スワの主は正しい。神獣は正義!
……都合が悪くなったので話を変えよう。
「してミウラの主。場所は特定できたでござるかな?」
『魔獣の反応がビンビンしてます。丁度あの辺のスワの海の湖底――』
ミウラが前足で指す湖面から、水しぶきを上げて何かが打ち出されたでござる!?
――三ΦωΦ三―――
イナバ、ムサシ、ミノウの三柱がスワ湖の畔まで駆けつけたのは、謎の弾丸が発射されて60秒を切っていた。
撃ち落とされたカスガの主は見あたらない。湖にでも落ちたか?!
三柱は、湖岸に着くなり、申し合わせたように互いの距離を開けて展開した。
カスガの主を捜そうとはしない。魔獣の気配が大きすぎるからだ。
岸に近い湖面が、短いピッチで波立っている。
『恐ろしいまでの魔の気配だ』
喋ったのはムサシのヌシ。モグラ型なので視力は他の神獣より落ちるが、気配感知が他より優れている。
『出るぞ!』
ムサシのヌシの言葉に三柱が身構えた。
同心円を描いて波打つ湖面。その中心から、ヌップリと水球が顔を出した。
宙に浮いているが、水の柱で湖面と繋がっている。水の柱が水球を支えているようだ。
水球の中で、大きな黒狼が赤い眼を光らせ、牙を剥き、三柱を見据えていた。
『まさか!』
見た目に攻撃的な蛇型の神獣、ギフの主の腰が引けた。蛇のどこが腰かと問われれば辛いが。
『スワの主……まさか!』
残った三柱の中で唯一、スワの主の顔を知るイナバの主が、モゴモゴと口を動かし、小さい声で呟いた。
その呟きを拾えぬ耳の持ち主は、ここにはいない。皆、しっかりと声を拾った。
『スワの主が纏うのは、魔の気配!』
『水君とまで言われた神獣スワの主が? 魔の気配を?』
『何故、どうやって?』
水球の中の魔獣スワの主が口を開いた。口回りの水が揺れて絵柄が歪む。
水球表面よりボボボッと飛び出してくる弾丸。
『くッ!』
速い!
神獣達は避けるので手一杯。
着弾した弾丸は、硬い岩をも砕く。飛び散る水滴。水で出来た弾丸だ!
『おまけに、神通力が込められている。当たったら我らとて穴が開くぞ!』
全員が、二歩三歩と跳びはねるように下がった。
っと、イナバの主が前傾姿勢をとった。ダッシュ! ジグザグに走りながら水際ギリギリに近づく。水球の映像が歪む。また弾丸が連打された!
『なんの!』
水の弾丸はイナバの主の後ろ足ギリギリに着弾していく。イナバの主はおとりだ!
『隙有りッ! 「土筆ッ」!』
ムサシのヌシの前足付近の地面から、黒い槍が3本飛び出す。槍は、真っ直ぐな軌道を描き水球に直撃!
『フン!』
ドヤ顔のムサシのヌシ。
しかし――
『避けろ!』
ギフの主が叫ぶ! 条件反射で横っ飛びに飛ぶムサシのヌシ。
ムサシのヌシがいた地点が大きく抉られた。
『「土筆」が利いてないだと!?』
水球に突き刺さったままの黒い槍。命中したはずだが、槍の穂先がスワの主に届いていない。
よく目をこらせば、水球を構成する水が、高速で回転運動をしてるのが見えただろう。高速で回転する水の勢いが、直進方向からの物理攻撃を横に流している。土で出来た槍は、見る間に溶けて消えてしまった。
『ええーい連射!』
ムサシのヌシは、土で作った槍を連射する。
片っ端から水球に捕らわれ、水の力で溶かされ、流される。
『土と水の相性が悪いはずないのだが?』
『水の流れを止める土手も、水の勢いが過ぎれば決壊する』
『私の土が、スワの主の水に負けているのか?』
『まずはあの盾となる水球を取り払わねば!』
次々に解析と対応が口をついて出る。
『ならば!』
イナバが火を噴いた。火球だ!
水球表面に着弾。ジュッって音を立てて消えた。
『あああ、やはり水に火は相性が悪い!』
頭を抱えるイナバの主。
『……一応、毒も出すけどね。それ!』
ビシャーッと圧搾音を立て、ギフの主の口から、赤茶けた液体が飛び出し、水球に着弾。茶色い毒液は水球の表面をなぞり、湖面へ落ちる。
『あーだめだ! 私が毒を使うとスワの海が魚の住めない湖になる。さらにテンリュウ川の――』
『ギフの主! どうやら大詰めらしいぞ』
『スワの主が大詰めを仕掛けてくる』
スワの主を内包する水球の周辺で、太い三本の水竜巻が鎌首を持ち上げる。
『丁度三本か……』
『あっ! いつの間に!』
三柱の背後、左右を水の壁が塞ぐ。
『逃げ道を封じられた?』
袋の鼠!
スワの主の暗い力が増大する!
『来るぞ!』
『ダメ元で土の壁を――』
竜巻が発射された!
光が走る!
稲妻だ!
竜巻が逸れた!
『さっきのは痛かった』
背後からカスガの主の声が聞こえた。
『物事には相性があるのだ』
振り向くと、片方の羽を引きずったカスガの主が! あと、めっちゃ怒ってる!
『風と雲が雷をよぶ……丁度良い天気だ。水球ごと我の雷撃で蒸発するがよい!』
カスガの主が持つ、最大級の雷撃が放たれた。




