1.ヒクマ城攻略戦
カイの国編スタートです!
キョウより戻ってすぐのことにござる。
三月も終わらぬうちに、御屋形様自ら出陣の事態となった。
サガミはイセ家の軍勢カイの国に侵攻。それと呼応してイマガワ軍が共同でカイの国へ侵攻を開始した。これを好機と捉えてか、シナノのムラカミ家やその他なんじゃかんじゃの家がこの戦に介入してきた。
イセ家の殿様が「もー無理!」と、堪忍袋の緒を五・六本まとめて切ってしまったらしく、本気でカイへ侵攻したのだ。イマガワも、カイの国よりの略奪目的の侵入に業を煮やして煮詰めておったところにござった。
その話、のった! とばかりに、名だたる将をカイへと送った。
それを「なぜか」隙と思ったのでござろう。イマガワ家の宿敵シバ氏に身を寄せていたオオコウチなる武将がイマガワのヒクマ城を攻撃。これを占拠した。
『ちなみに、ヒクマ城は、我々の正史ですと、家康公の手で浜松城へと拡張整備されることになります。何にしろ、ミカワ方面の最前線基地であり、タケダの後ろを突くための重要な拠点でございますから』
オオコウチ氏が如何なる人物かは不幸にも知り得ぬが、果たして、大イマガワ帝国に歯向かってただで済むのでござろうか? タケダとの戦いに何らかのケリがつけば、イセの軍勢も加わった攻略が始まると思わなかったのでござろうか? 或いは、武士の本懐的な、何らかの意味があったのでござろうか?
なんにしろ、オオコウチ氏の火事場泥棒的な働きに、日頃温厚な御屋形様もさすがに激怒。
カイ戦線より少しずつ引き抜き、部隊を再編し、物量(兵糧)に物を言わせてヒクマ城へ襲いかかった。
『イマガワの戦線が拡大しすぎです。それに何か嫌な予感がします。旦那、短期決戦を仕掛けましょう。金山の金堀衆を引き抜いて、城の水の手を抜いて枯らしましょう』
神獣の勘は当たる。当たるから神獣の勘である。
とはいえ、勝手に動かすことも出来ず、ダメ元でツモトのオヤジに相談してみた。
「金堀衆だろ? 知ってるよ。俺、あそこの統領に金貸してんだ。でもただじゃ動かないぜ、俺がなッ!」
スゲー悪い顔で笑っておる。
「第一、危ないじゃないの! ヒクマ城っつったら堅城で有名だよ。兵糧さえ用意しときゃ一年でも二年でももつぜ」
「それは残念にござる。御屋形様は面子で出られた。これを落とさねば御屋形様の面子に係わる。苦戦は必死。そこへ颯爽と金堀衆を引き連れてスケベながらオヤジ殿参上。あっという間に城の井戸を枯らし、落城。おのれ、あそこで金堀衆を使うとはどこの天才軍師だ!? オオコウチ氏は自害して城を明け渡し。オヤジ殿は軍功一番!」
「む、むむむむむー! 心が揺れる! けどさ、けどさ、勝手に金堀衆を動かしたりしたら、お咎めがあるぜ。下手すりゃセプクだぜ!」
くっ! 我に返りやがったか。しかたない。この手だけは使いたくなかった。
「ならば、ただでとは言わぬ。ごそごそ……」
すかぁと状の裳に手を入れ、……ごそごそ。
「はい、これ。前金でござる」
お金でござるよ。布物ではござらぬよ。
「しかと心得た。直ちに手配して駆けつけよう! クムクム! すぐに駆けつけようではないか!」
なぜかお金をクムクムしてから懐へ入れおった。
「ご褒美を独占するため、これはオヤジ殿一人の発案で勝手にしでかしたことにするのでござるよ!」
「心得たぁー! とぅ!」
一回転して部屋を飛び出し、ドドドドと床の上なのに土煙を立てて走り去っていった。
しばらくして、オヤジ殿が率いる金堀衆がヒクマ状へ到着。またたく間に作業を終え、もう間もなく城が落ちる様相でござる。
『正史はどうなってんのかな? もう神獣がいる時点でだいぶずれてると思うんだけど』
「この辺の時代は全くでござる。最後に帳尻が合えばいいんじゃない?」
『歴史の修正力に期待しましょう』
「がんばれ! 歴史!」
して――
『あらららら! そのヒクマ城周辺で魔獣の反応です!』
「丁度良い。見学かたがた、処理しに行こう」
『ガッテンで!』
と言うわけで、某とミウラは虹の輪を潜った。
「ふん!」
ズンバラリン!
最後のナリソコナイが沈んだ。
『光雷砲!』
ミウラから幾条もの雷が伸び、四匹全ての魔獣に突き刺さった。
魔獣は悲鳴を上げることも叶わず、黒こげになって転がった。
『ちょっと多かったけど、イオタの旦那が一カ所に集めてくれましたんで、フェイント入れて二撃でお終いでしたね』
「ふむ、だんだん要領が分かってきたな」
一昨年(十四の時)考えた、格好いい納刀法三番で鞘に収める。
油断しない限り、敵が多すぎない限り、圧倒できるようになってきたでござる。
試しに魔獣の隙をついて斬りかかったが、傷一つ負わせることができなかった。モノによる攻撃が通らぬようでござる。
『ここからだとヒクマ城が近いですね。どうです、魔獣討伐の報告を兼ねて、陣中見舞いにしゃれ込みませんか?』
「……うーむ……」
『どうしました? いつもならわたしが話すより先に御屋形様へ報告へ行きたがるのに?』
うーむ。でござる。気が立ってるだろうし、雲の上のお方々ばかりなので気が引けるのでござるが、弱気を理由に判断してロクな試しにあったことがござらぬ。
しかし、気分的な理由で取りやめた場合、高確率で悔やむことになる。
「よし、陣中見舞いに寄って帰ろう」
というわけで、のこのことヒクマ城へやってきた。
城にイマガワの旗指物が沢山立っていた。遠目も分かる数でござる。
『はやくも落ちたようですね』
「ツモトのオヤジは有能でござったか。悔しいでござる!」
して――
歓迎されたでござる。
城の一番奥の一番良い部屋で、御屋形様始め、オカベ様始め、側近の方々、数名だけのお祝いの席にござる。
ご機嫌な御屋形様。ニコニコ顔でござる。神獣であるミウラまでもが部屋に上がってきたからだろう。
「落としたばかりで、まだ片付いていないのでな。みな忙しいのだ。寂しい迎えで申し訳なく思うぞ」
杯を手になされておいでだ。大量の飲酒はお体に障るでござるよ。……清酒を造ったの、某でござるが……。
「この度は――」
一通り、戦勝のご挨拶を済ませ、少し気になるところをお聞きした。
「……そう言えば、ツモトのオヤジ殿も、なにやら、喜び勇んで出陣いたしましたが、討ち死にしてませぬか?」
討ち死に希望でござる。
「うーむ、あの者は、私に断りもなく勝手に金堀衆を使いおった罪で死罪!」
「おお、ようやっと!」
悪は滅びたでござるか!
「……のところ、イオタの親族と言うこともあり罪一等を減じ……」
「某へのお気遣いは一切不要にお願いいたします!」
親戚だっつっても、遠い遠い過去に枝分かれしたので、ほぼ無縁仏にござる!
「……で、あと、金堀衆を使ったことで戦いが早く済んだので、第三者的に見ると戦功第一なので、もうちょっと罪を減らして、地下牢に留め置くこと十日で許すことにした」
「ああーっ!」
残念でござる! 今一歩のところを!
「ツモトは気に入らんしむしろ嫌いなのだが、ここぞと言うところで働きおるし、死地からも容易に生還してきおる。あれは……。むうぅ、少々酒が過ぎたようだ。厠へ行ってくる」
御屋形様が立たれて……どたーん!
「御屋形様ぁー!」
倒れられたでござる! それも、全く受け身をとらぬ痛い倒れ方。危ない倒れ方にござる!
同室の方々が御屋形様に取り付いた!
『動かしちゃだめだ! 卒中かも!』




