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【外伝-2】 (ネコ耳サムライTS転生物語。ニホンは摩訶不思議な所でござるなー)スルガの国のミウラの主でござる  作者: モコ田モコ助
キョウ編

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12.イナリの大社(おおやしろ)


 日が西へ沈もうとしている。


 一の峰の社は、闇に沈む前の黒い赤に包まれておった。

 されど、社の中は青く明るい。フシミの主が火の玉を出してくれたお蔭にござる。青白い火は、人や神獣様の顔を青白く照らし、いきなり出会ったら心の蔵に来るものがござる。できれば自然光でお願いしたい。


 して、晩ゴハンにござる。

 フシミの主とミウラの主は川魚を焼いたもの。某は、割と豪華な膳でござる。ウマウマでござる!


『稲荷の山を流れる清流で取れた魚だ。山女魚かな? そんじょそこいらの川魚より旨いはずだ』

『あ、ほんと! 焼き加減がちょうどいいや。香ばしくってウマウマです』


 カカカカッと急いで掻き込んだ。宮司様のお話では、麓の社務所にムロマチの侍が押しかけているとの事。日が暮れるまでに登ってこなかったから、上手い具合に退けたのだと思う。


『夜の山は本気で道が見えませんから進軍は無理です。夜になったら、わたし達の勝ちです。ウマウマ』

『侍共には夜襲という常套手段があるぞ。夜の闇が訪れたといって油断は禁物だ』

 フシミの主が言うと、なんだかそんな気がしてきた。


『実は、この社には秘密の部屋があるのだ。今夜はそこで寝ないか? たとえ侍共がやってきても、この暗さだ。往生するぞ!』

 青白い光の中で狐の顔がニヤリと笑う。むっちゃ怖いでござる。


『面白そうですね。その話、乗った!』

「某もお二方と寝たいでござる」

『え?』

『え?』

「そういう意味ではなく!』


 して――

 夜の所用を済ませ、秘密の部屋に籠もって寝ころがる。


 三月は春とはいえ、夜は気温が下がる。ましてや山の中。


「さっむぅー! ミウラ、もっとひっつけ!」

『これ以上どうくっつけと? ネコ液体説が学会の主流とはいえ、これ以上密着させる面積がありませんよ』

「ならば、フシミの主。もっとこっちへ」

『断る。寒いなら着込め。嫌なら毛皮を生やせ』

 断ってきおった。


「ミウラ、押せ」

『ガッテン承知の助! オラァ!』

 ずずっと滑りながらの横移動。

『お、おい!』

 たちまちフシミの主にくっついた。


「ほぉー、温かいでござる。これで眠れる」

 モフモフを両脇に抱え込んで寝転がるので大変温かい。

『しかたないなぁ』

 フシミの主、なんだかんだで離れようとしない。

 お休みなさいでござる。


 して、草木も眠る丑三つ時(予想)。

 目が醒めた。


『ほほう、イオタの耳ではまだ聞き取れぬ遠くのはず。気配で察したか。なかなかやるな』

 フシミの主の評価が高いでござる。たしかに気配を察した。チクチクとした気配にござる。

 すぐに物音が聞こえだす。さすがに金属のふれあう音ではない。足音と呼吸音にござる。


『数は5人ですね。闇に紛れ、イナリ大社の警護を突破したのでしょうか?』

『たった5人で何をしようと?』

「何とかなると思うたのでござろう。頭の悪い者は僅かな可能性を見つけると、もう成功したも同然と思うものにござる」


 足音を忍ばせた男共が、社を囲った。たった五人で。しかも手に松明をもって。

 ドカンと蹴破る音。社になだれ込む足音。仕事が粗いでござるよ。物音で目が醒めように。

 人なら、まず立ち上がり、ついで武器を手に取り、武器を抜き、構える、という動作をせねば迎撃も攻撃も出来ぬ。されど神獣様は武器を持たぬ。寝転んだままでも炎や雷で攻撃できる。


 しかし、残念ながら、狼藉者どもが踏み込んだ社の床には誰も寝転がってない。


「いないぞ!」

「そんなばかな!」

「まさか、すでにここを後にされたか?」

 狼狽えてキョロキョロとあたりを見回す男共。愚かなり。


 天井の板を丁寧に外し、刀を手にしてから、よっこらしょ、と男共の中へ飛び降りる。

 素早く刀を振るい、男共の意識を刈り取る。あっという間にござる。


「安心せよ。峰打ちにござる」

『峰打ちったって、鉄棒で後頭部とか喉をブッ叩いたんですから、……痛そう……』

 ミウラが天井から飛び降りた。着地しても音がしない。


『イオタは容赦ないな』

 フシミの主も、飛び降りられた。着地時に、音がする。この差はなんだ? 種族の違いか?


「神獣様ぁー! イオタ様ぁー!」

 遠くに声が聞こえる。あの声は宮司様にござる。


「賊がそちらへまいりましたぞー! お気をつけ下されー!」

 段々近づいてくる。足音も多数。沢山の松明も見えてきた。

「終わりにござるな」


 して――

 フシミ大社所属の武装集団により、丁寧に縛り上げられた賊が五人。


『二人ばかり、どうやっても意識が戻りませんが、息をしているからセーフでございます』

 

 してて――

「この者共は、ホソカワ家の者でございました」

「ほほー。ではアシカガ公方様が手の者でござるな!」

「いえ、現公方様に対抗している派のホソカワ家にございます。昼に来たのはアシカガ公方様を推すホソカワ家。夜の部はもう一方のホソカワ家にございます。一から詳しくお話しいたしましょう。そもそも事の起こりは応仁の頃――」」

「ややこしいから、もう結構でござる」


『他にも有力なホソカワ家が幾つかございますし、公方の地位を継げる有資格アシカガ家も3つ4つありますからね』

「ジャンケンかアミダ籤で決めれば良かろうに!」

『籤で決まった将軍もおられますよ』

「……ならば良い……」

 将軍職も大概にされよ。


『か弱い女子であるイオタさんを拉致しようとした現公方の敵方に襲われ、それを神獣様が撃退したと。結果的に現公方の味方をしたことになりますね?』

『それはそれで良いのではないか? せっかく落ち着いておる公方の座だ。だれが公方でもかまわぬ。安定してる方が良いに決まってる』

「なるほど。某らは、この件について言質を取らせぬ要注意しておこう。相手が勝手に判断してくれるわ。某らは知らぬ存ぜぬを貫こう」


 結局、この者達は何をしたかったのでござろうか? 某を誘拐しても、神獣が本気出せばイチコロでござろうに。


 経緯を纏めると、昼間、某らの後を追って走ったのは、現公方様を推しているホソカワ家だった。

 日の明るい内にイナリ大社の武闘派連中と押し合いへし合いしていたのも現公方様押しのホソカワ家の侍達であった。

 日が暮れて睨み合いをしている、その隙をついて、もう一方のホソカワ家が夜のイナリ山を裏から登ったという。それが、こいつら。


 荒縄でがんじがらめに縛られ、芋虫状態になった狼藉者でござるが、イナリ大社の荒くれ共がニコニコ顔で、エッホエッホと担いで降りていったでござる。

 任せたでござるよ。

 

 しててて――

 なんやかんやあって、朝が来た。晴れにござる。

 今日でお別れにござる。


 お綺麗な着物を着た宮司様方が、見送りに来てくれた。

 見晴らしの良い四ツ辻まで出てきた。某が頼んだのでござる。もう一度ここからキョウの都を望みたいと。

 ここから見える景色は格別にござる。


「十万貫を積まれても、この景色は売れぬな。キョウの町並みが元に戻れば、百万貫積まれても譲れぬ。ここで一句。美しき、ああ美しき、美しき!」


『……そんなにここからの景色が綺麗か?』

「某はここを所有するフシミの主が羨ましいでござる」

『そうか、羨ましいか……』

 フシミの主が、某と並んだ。並んでキョウの町を眺める。


「綺麗……」

 何度でも言う。綺麗な景色にござる。


『フッ……』

 フシミの主が俯き加減に息を吐かれた。それはまるで笑っているかのよう。


『私は、こんなにも綺麗な景色を長いこと見ずにいた』

「もったいないでござるな」

『ああ、もったいなかった。……もったいなかった』

 フシミの主は、くるりと回れ右して岩場から降りられた。


『気持が軽くなったよ。ありがとうイオタ。元気でな、イオタ。と、ついでにミウラの主』

 そう言ってフシミの主は元来た道、一の峰の社の方へ歩いていかれた。やがてそのお姿は木々に紛れ見えなくなった。


「また、お会いしましょうぞ」

 もう見えなくなった後ろ姿へ向かい、腰を曲げ、頭を下げる。宮司様達も某にならって頭を下げておられる。


「ではミウラの主。某らも帰ろう」

『へい!』

 四ツ辻の岩場の上に立つミウラ。その背に跨った。


「イオタ様、これ、少ないですがお土産でございます」

 小ぎれいに包装された包みを渡された。

「おお、これは嬉しい! 急いで走り回っていたので、母上や弟たちのお土産を買い忘れていたのでござる。ありがたく受け取らせていただく。感謝いたす」

 おみやげに軽く傅き、小脇に抱えた。気分は玉手箱を小脇に抱えて亀に跨る浦島太郎にござる。


「イオタ様にもご家族がおられましたか……」

「母上は強いお方でござる。某の仕事を応援してくれている」

 母上も、弟たちも、元気でござるよ。


「では、宮司様、皆様、ご迷惑をお掛けした。またいずれかの機会が有れば、遊びに来させてもらう」

「我ら一同、首を長くしてお待ち申し上げております。……フシミの主様のこと、真ありがとう御座いました!」

 深く、深くお辞儀をされた。


 そして、某とミウラは虹の輪を潜った。

 

次回で「キョウ編」最終回となります。


まだまだ話は続きますよー。

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