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【外伝-2】 (ネコ耳サムライTS転生物語。ニホンは摩訶不思議な所でござるなー)スルガの国のミウラの主でござる  作者: モコ田モコ助
イズモ編

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13.イマガワ館のフシミの主 

 夕方帰る予定が、前倒しでお昼前に帰宅。この時代、予定変更があったら先触れを出すが、跳躍能力を持つミウラであれば、先触れより先に帰ってきてしまう。だから、いきなりになる。


 某とミウラ、そしてフシミの主がイマガワ館の広大な中庭に出現したとき、そこでは蹴鞠大会が開かれおった。主催は東風様ね。


 イマガワ館の方々は初めて目にするであろう狐型の神獣様。そりゃ驚くわ。某も、紹介してから、御屋形様及び重鎮の方々と顔合わせをいたそうと、うっすら考えておったのだが、台無しにござる。


 さらに間の悪いことに、蹴り上げた鞠が落下中に出現したのでござる。

 さらに間の悪いことに、鞠がフシミの主の頭に当たって弾んだのでござる。

 鞠が庭を転々と撥ねて、転がっていき、停止するまで、誰一人として動かなかった。

 片足を上げた者は片足を上げたまま。手を上げた者は上げたまま。笑っておる者は笑顔を顔に貼り付けたまま固まっておられた。俗に言う、ダルマさんが転んだ状態。


 唯一動いていたのは、フシミの主。

 頭に当たった鞠が転々と転がる行方を、黄色い色をした冷たい目で追っておられた。


「えー、コホン! ただ今帰参いたしました」

 誰も動かぬ。


「えー、……ご紹介いたします。ヒエイの神獣様、フシミの主にございます」

『只今ご紹介にあずかりました、フシミの主です。って言っても、こいつらには聞こえぬか』

 その挨拶のしかた、流行っておるのかな? 


「三貴神獣様のお一柱、フシミの主!?」

「「「ははぁーッ!」」」

 全員、その場で土下座にござる。部屋に上に上がっていた者も、走って庭に降り、土下座にござる。

 え? フシミの主って? 三貴神獣って?


『フシミの主と、イナバの主と、イセの主をまとめて三貴神獣って呼ぶんです。言わば神獣界の三枚看板(スリートツプ)

 そういうことは早く言って欲しかったなー……。


「こ、此度のこと、誠に申し訳なく存じ奉りまする!」

 東風様でござる。どうやら、鞠を蹴り上げた犯人は東風様だった模様。

『その詫び、受け入れよう』

「……と、フシミの主はおっしゃっておられます」

「有り難き幸せッ!」


 

 して――

 ミウラの部屋で――

 筆をとっとるわけだが――


 後ろから、作文と添削担当でミウラとフシミの主がうるさい。

 庭には、御屋形様、東風様始め、イマガワ館に詰めていた重鎮の方々がお座りしておられる。

 緊張して筆が震える。書き直すこと三回。ようやく書き上がった。


 墨を乾かし、綺麗に折りたたみ、包装し、封を施し、油紙を何枚も使い厳重に巻いた。

 フシミの主が口にくわえて運搬するのでござる。よだれ対策にござる。


 でもって、改めてフシミの主を紹介して、なんやかんやで儀式が済んだ。

 フシミの主は、手紙を咥えて虹の輪を潜られた。都の位置を覚えるため、ミウラも付いていった。

「ふー、これで一件落着にござる。肩の荷が降りたでござる」

 肩トントンする。しばらくお休みが欲しいところにござる。

「イオタ殿!」

「はい?」

 振り向くと、御屋形様、及び東風様始め、御重臣の方々が話を聞きたそうな目で某を見ておられた。


 して――

 かくかくしかじか。

「なんと!」

 一同を代表して、セナ様が驚き役を買って出られた。仰け反っておられる。

 広間に招かれ、御屋形様に対し奉り、余すことなくご報告申し上げたところにござる。


「神獣様に手を掛けるとは!」「信じられぬ行い!」「愚かな!」などと、声が上がった。

 普通の人の反応がこれにござる。むしろ、イマガワの者は独りよがりで有名な武闘派にござる。その者ですら、この反応にござる。いかにイズモが異常で独りよがりであったか分かるというもの。

 凶行に及ぶ者は、渦中にいると判断の幅が狭くなるのでござろうな。


「ふーむ……」

 御屋形様が唸られた。顎に手を置いておられる。

「大納言様――」

「麿は東風ということになっておじゃる」

「東風様」

 やはり雲上のお方でござった! 役職名は記憶から消し去ろう!


「東風様。御所のご判断は、如何相成りますでしょうや?」

「イズモの国を潰すことは出来ぬ。まずは国造の首をすげ替えるか?……そうなる前に、イズモがどのような詫びを入れてくるかでおじゃろうな! 麿が口にするには些か憚られる詫びでおじゃろう……」

 おそらく、確定的に、国造様は責任とってセプク。ニヤついていた神官は、セプクの前に国造様自らの手で成敗。失敗すれば内乱内訌。遠く離れたスルガの地まで、血の匂いが漂ってきそうでござる。


「後は、主上がどう判断を下されるか。イオタ殿がしたためた書の中身次第でおじゃろうの。イオタ殿、どの様に書かれた?」

「はい。……口止めされておりますので、中身を述べるわけには参りませぬ。申し訳ございません」

 頭を深く下げておく。

「それでは判断できぬのう……」

 お困りのご様子。

「では、申し上げられる範囲で宜しければ」

「それでよい。申せ」

 御屋形様の命にござる。ってか、ここまでは話しておくようにとフシミの主からも言われておるのでござる。情報操作だとミウラは言っておった。

「では――」


 事の次第を時系列で箇条書きに並べた事。

 某は、イズモ家内部の権力闘争に巻き込まれた被害者であると、神獣が判断した事。

 神獣様方はお怒りになっておれられるのではなく、呆れられておられる事。

 文の最後に、某の名と所属と役職を印し、全てフシミの主のお言葉をまんま書いたとも印しておいた事。

 後は神獣様の要望と見解。これが口に出来ぬ部分なのだ。

 これだけ言っておけば、分かる人には処分が分かるのであろう。


「ふーむ。畏れ多くも、神獣様の情けが滲んでおじゃる。関係者を一斉に処したあとは、国造の縁者を座に座らせて決着を見るでおじゃろうな。神獣様をお迎えするしきたりを継ぐ必要がおじゃるからのう」

「それについてでござるが、イナバの主様のお口より、次は場所を変えようと提案がございました。イセとクマノの候補が挙がり、結局クマノがよいと決まりました」

 イナバの主は地元開催に拘ってないと一言添えておく。


「なるほど。うん、クマノでおじゃるか。妥当でおじゃるな。イオタ殿、もしや、イズモでの開催は?」

「はい。某も気になってたのですが、はっきりとしたお声が上がっておりません」

「これは厳しい!」

 そうなのでござるよ。イズモ開催は未来永劫、無いかもしれない。となると、某が知る後年の出雲大社が無くなってしまう可能性がござる。無くなるとちと寂しい。某が係わっておるとなると、心もちくりと痛む。


「イズモの大社は神話の時代より続く名勝。出来ますれば、某、イズモでの再開催を望むものでございます」

「ふむ……」

 東風様が唸られた。手にした扇子をパチリパチリと開け閉めしておられる。

「一度、都へ戻った方がよいようでおじゃるな」

 御所の情報を仕入れることと、こちらが持つ情報を知らしめること。これが東風様の上京する目的でござろう。


 東風様は御屋形様のお顔に視線を合わせられていた。

「東風様。ご足労をお掛けします」

 御屋形様のお言葉にござる。

 東風様が都へ戻られる事に決まった。


「して、イオタ殿。そちは如何いたす?」

 うわー……一緒に来いと言われておるようでござる。

 っと、そこへ、ミウラが戻ってきた。救世主登場にござる!


 庭に現れたミウラは、足の汚れを拭くことなく、トタトタと広間へ上がってきた。某の後ろに腰を下ろし、前足を揃え、顎を乗せた。

『どうされました? 顔色が悪いですよ』

「うむ。いま東風様に、ご一緒に都へ行こうと誘われたのでござるよ」

 さあ、ミウラ。機転を利かせるときが来た!

『それは悪手ですね。でしたら、ゴニョゴニョ……』

「こほん。ミウラの主が仰せになるには……、先ほど、フシミの主様から、キョウへご招待を頂いたそうにございます。年が明け、暖かみを増した時期を選んで、遊びに来いと」

「そうでおじゃるか。ならば今回は事情を知る麿だけでキョウへ上がろう」

「申し訳ございません」

 一応頭を下げておく。

 いやいやよいよい、とおっしゃって下された。


 頭を下げていると、ミウラに襟首を咥えられた。ヒョイと持ち上げられる。

「こ、これ! おいたはいかん!」

『なかなか終わりませんから、わたしが誘っているんです。イオタの旦那、自分では大丈夫と思っているでしょうが、顔色が悪いですよ。早く休まれた方が良い』

 そうでござるか? イズモでは精神的な傷を沢山負った。おまけに夕べは寝ていない。たしかに、体が重い。

「しかと承りました」

 なんらかの命令がミウラから下りた風にして、黙礼した。

「皆様方、申し訳ござらぬ。ミウラの主が某に何やら用事があるとのことにござる。主命故、これにて失礼仕る。なんぞ打ち合わせすることがござれば、こちらから出向きます。では失礼いたします」

 うむ、お役目ご苦労。等との声を背中にして、ミウラの後を付いて部屋へと下がる。

 

 部屋に付くなり、バタンバタンと雨戸が降りてきた。結界に包まれる。

『とりあえず、一眠りしてください。ゴハンは寝てからにしましょう』

「であるな。そうさせもらおう」

 ゴロリと横になった。途端、意識が薄れてしまった。


 この時は、まさかイズモの一件がずっと後を引きずるなど、思いもしなかったのでござる……。

 

 

 一方、残された方々は――


 ミウラとイオタに付いている付き人から、報告が入った。

「天の岩戸が降りてございます」

 天の岩戸とは、結界入りの雨戸のこと。イマガワ館の隠語である。

「帰ってきて早々、疲れていように、ミウラの主に付き合わされるとは。少々可哀想ですな」

「ミウラの主は精力家にござる。イオタ殿には犠牲になってもらうしかあるまい。未だ若いのに」

 なかでヤッテると思われている。


「もはや御伽話と化していた神獣の巫女様が現れた。それだけで、このような騒ぎが起こるとは。思いもよりませんでしたわい。なあ、オカベ殿」

 セナが、額に手を当てた。熱でも計っているのだろう。

「神獣の巫女様が現れる。それはこれまで神獣様関連の役職に就いていた者の地位が下がる、あるいは、お役ご免となる。そういうことですな」

「キョウでも一波乱起こりそうな予感がするでおじゃる」

 東風は扇子を開いたり閉じたりしている。

「神獣の巫女を擁するイマガワは、有利に事を運べるのでおじゃろうが、逆に言えば、裏切られると大惨事になるでおじゃる。手綱は握っておじゃろうな?」

「それは大丈夫かと」

 セナは自信たっぷりに答えた。

「イオタ殿はイマガワ家の忠臣であること間違いなし。さらに、家族を人質に取っているようなもの。まず、裏切る様な事はないでございましょう」

 そこかしこで安堵の声が聞こえてくる。

「では、麿は旅の支度をしよう。明日、もう一度イオタ殿に面会を求める。それからすぐ出立するでおじゃる」

 御屋形様が大きく頷かれた。

「セナ! 大納言様の護衛と旅のお供の手配をいたせ!」

「ははぁ!」

 セナは、丁寧に頭を下げた。


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