11.炎上
『正義なんてないよ』
ヤマトの主が前足で猪肉の皿を引き寄せられておる。
『我らは正義だと自負しているが、もし、我らがミウラの主を殺したら、イオタは何をする?』
敵わぬとも、神獣様に一太刀浴びせるでござる。それには……
『いま、わたし達をどうすれば殺せるかと考えただろう? 正義の神獣を殺す。それは悪だ。だが、イオタにとってそれは正義。さて困ったことだ。正義が二つ出来た』
むー、それはそうでござるな……。
難しいのは苦手でござるが、なんだか考えてしまう。
『イオタは素直で宜しい』
よく分からんが、ヤマトの主に褒められたでござる。
「それほどでも?」
テヘヘでござる。
『そういう所ですよイオタさん』
なぜかミウラに呆れられた。
『ここは無視が一番。犯人達は騒ぎがないので逆に狼狽えるはず』
『されど、このままというには我らも据わりが悪い』
『悪戯をした子は叱らねばならぬ』
『されど、まあメシを先に食おう』
『そうしよう』
『処罰のお話は明日でいいや』
皆様、お食事に戻られた。
して――
今日は無視しておこうと決められた。
神獣様方も、ヒソヒソと何かを話し合われておられる。おそらく、来年の事についてでござろう。
盛んに某の名が出てきておるが、某を使った何かを考えておられるのでござろう。
よって、某も何事もなかったかのように過ごした。
下へ降りては水を飲んだり、所用を済ませたりして過ごした。
見るとはなしに神官の方々をみてみると、やはりこちらをうかがう様子。それも不安げな目で。
巫女頭殿の失態を気にしているのか、お食事会のことを気にかけておられるのか。これだけでは分からぬ。
してして、夜が来た。
明日は最終日。しらけてしまったので、会議は軽く流して、昼には解散と言うことになりそうでござる。
今宵も、神獣様方のおられる神殿で夜を過ごすことになった。昨夜と同じく、ミウラのモフモフに埋もれての一夜にござる。個人情報保護のため、四方に衝立を立てての睡眠でござる。
某、なぜか悶々としておる。
怒りの感情が残って体を温めておるのやもしれぬ。
大勢の神獣様の気に触れて、自然と興奮しておるのやもしれぬ。
神獣様も眠る丑三つ時にござる。
「ミウラ、起きておるか?」
ミウラにしか聞こえぬ小声でござる。
『どうしました? 眠れませんか?』
「シーッ! 声が大きい!」
口に指を当てて、ミウラを黙らせた。
そして……
コトリ!
「むっ!」
音が聞こえた? 後ろから?
そーっと振り返ると……衝立の上より、十三対の輝く目がこちらを向いておった。
『あ、イオタちゃん、気にせず続けて続けて!』
フシミの主にござる。
「わーッ!」
びっくりしたでござる! 心臓が口の方へ五寸ばかり動いたでござる!
『いやぁー! 恥ずかしぃ!』
「別にナニもしておらぬだろうが!」
『これからしようと思ってたのを見透かされて恥ずかしいッ!』
「そこになおれ。手打ちにしてくれる!」
裾がはだけるのもお構いなしに立ち上がった。
『『『おおー』』』
感嘆の声が漏れ……
「あだーッ!」
脹ら脛に走る痛みという感覚!
「足ッ、攣ったー!」
足の自由が無くなり、ゴロンと転がる。ぺろんとまくれる着物の裾。
『『『おおーッ』』』
見てないで神獣の神通力で何とかしてほしいでござる!
『イオタさん、アキレス腱伸ばして!』
大あわてにござる。
『まてまて! もう少し着物の裾をはだけて……白い太股ッ!』
『白い!』
『白い!』
ギンギン! ギュオングオン!
貞操、もとい、命の危機に心眼が自動で立ち上がってしもうた。
「神獣たる者、女の太股でギンギンするとは情けない。世間に知れたら神獣様の威厳も落ちよう。そうなるまえにたたっ斬ってくれる! 痛たたたた!」
太刀を手に取り起きあがろうとしたが、足の痛みで転がってしまった。
『変な声が聞こえてきたから、僕たち心配で覗いただけですぅ!』
『あれ? 何か焦げ臭くない?』
「誤魔化すな! あだだだだだ!」
ズキリとした痛みが鼻の中に? これ、煙でござるか?!
『ああーっ! 神殿の柱が燃えている! めっちゃ火の手が上がってるーッ!』
『下へ降りる階段が火の海だー!』
炎が四方から上がっておる。えらい勢いにござる!
火事でござる!
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