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【外伝-2】 (ネコ耳サムライTS転生物語。ニホンは摩訶不思議な所でござるなー)スルガの国のミウラの主でござる  作者: モコ田モコ助
イズモ編

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10.処断

 用心に用心を重ね、昨夜は神殿で寝た。イズモの大社は、神殿の外に某の部屋を用意してくれていた。だが神獣様方が、そこで休む事を拒否なされたのだ。

 某も賛成でござる。で、簡単な夜具を体に掛け、ミウラにもたれて寝る事にした。


 夜中、催してきたので地上の憚りを使ったが、神獣様十四柱による護衛が付いた。

 小屋から出てきたら、全員耳をそばだたせていた。

『いえ、滝の流れる音を聞いていただけでございますよ』

『我らは曲者の接近を耳で警戒していただけでッ!』

 ……まあよい。聞かれて何かが減るものでなし。

『そう言うところでございます』


 して翌の昼。

 ご注文通りのご馳走を神殿に運んでもらっているところにござる。


 鹿が捕れなかったので、フシミの主は、第二希望の猪肉になった。

 念のため、某の目で、注文票と現物を付き合わせて確認いたした。予備を持ってきてくれていたが、ややこしくなるのでお持ち帰り願っておいた。

 運び込むのは力仕事なので、国造様にお任せでござる。


 某とミウラは、二階の踊り場に移動した。運び込まれている間に国造様から、経緯の説明を説明したいと説明しておられたので、説明を受けていた。

 国造様は真っ青な顔をしている。目の下にクマができておる。昨夜は一睡もしなかったのだろう。


「神獣の巫女イオタ様に危害を加えようとした関係者は、全て処置致しました」

 処された?

「具体的には?」

「ご希望でしたらご案内致します」

「結構にござる!」

 断じて断るッ!

 怖いから断る!

 なるべく絵面を考えないようにする。


「それでは我らの誠意が!」

「これはイズモのお家騒動。某には何ら関わり合いがござらぬ。では、某は神獣様方のお世話がございますので、これにて」

 早々に席を立つ。

「どうか、お許しを」

 某の態度が、怒っているように見えるのでござろうが、某には、ここで何かをしたり言ったりする余裕がござらぬ。勘違いされるなら、勘違いされたままにしておくのが良いと思う。


 ちょっと時間が欲しい。前前世、前世と、様々な経験を積み重ねておるが、このような経験をしたのは初めてにござる。

『でも、前前世では斬られて死んじゃったし、前世じゃ命がけの冒険をしたし。それでも何とかなってきましたから、今回も何とかなりますよ』

 ミウラが慰めてくれる。ありがたい。しかし、落ち着くための時間が欲しいのは事実。

 ……神獣様達がいなければ、ミウラとセッセのヨイヨイヨイ手遊びでもしたい気分だ。

 

 して、神殿にて。

『イオタよ。此度の事、重荷となっておろう』

 おっきな兎さん。イナバの主が鼻をひくひくと蠢かせている。

『されど、罪は全て我らにある。イオタが悩む事はない』

 優しさは伝わったでござる。だが。


「某は、人のせいにしなければ生きられぬ程、弱くはない。イナバの主が思っているより強いのでござるよ」


 そう。某は落ち込みはしたが、尾を引いたりはせぬ。前世の旅はもっと辛かった。

 信じた商人に裏切られた。独りよがりの老人に振り回された。悲しき少女との別れ。理不尽な王との戦い。

 そして、多くの人と交わった。

 未来を夢見る若い冒険者。死んで欲しいと心から願った剣士。到底叶わぬ敵とのなれ合い。命の誕生。

 そして、古里の興亡を掛け、つかみ取った、たった一つの機会。

 そんな冒険があったからこそ。悲しみと憎しみを知り、希望と平和を知った。

 ミウラという相棒がいなければ、挫けていた事でござろう。

 誰と生きるのか、誰と生きたのか。某にとって大事なことはそれでござる。

 いまの某は、悲しみの中にいるのではない。むしろ憎しみを覚えるほど前向きでござる。


 ちなみに、憎しみをぶつける相手は、イネ殿達ではない。


「そういう感じでござる!」

『まあ、イオタがそういうのならよいが……』

 イナバの主に、代表で飲み込んでいただいた。


 腰を下ろし、某用の膳に向かい、箸を手に取る。

 猪の肉は、酒で伸ばした味噌を付けて焼いておる。鳥肉は塩でござる。味噌汁は濃い色。アサリが入っておる。あとは青物と香の物。山盛りのご飯。ご馳走にござる

 色々思うことはあるが――

「これほどのご馳走はもう二度と目にすることが無いかも知れぬ」

 箸をとった。怒りと憎しみを食欲に変えて……。

 神獣様方々も注文通りの品々に……。


『おっと! これはこれは!』

 ヤマトの主が、前足の蹄をカツカツ鳴らされた。

 見ると、ミウラとお見合いをしておられた。


「如何致した?」

『いえね、猪肉が一つ足りなくて、魚の皿が一つ多いんですよ』

「なんだと!? そんなはずはない! 某の目で確認いたした!」

 大失態にござる! だがしかし、中二階の踊り場で、この目で確かに確認したでござるのに!

 神獣様方の目が、某に向けられた。少々気が立っておられるご様子。


「申し訳ござらぬ!」

 とりあえず土下座いたす。土下座さえしておけば、だいたいのことは許していただける。これでダメなら胸を見せる。絶対許してくれるだろう。


 当事者でるヤマトの主が、某の頭近くに鼻面を寄せられた。鼻息で分かる。

『いやイオタ。その方の失態ではない』

「それはどういう?」

『我らはイズモの者どもを疑っていたのだ。故にこっそりと観ておった。イオタが確認したあとで、国造と話をしていたいただろう? その間にすり替えられた。これはイオタを狙った悪意有る行為だ』

「ぬっ、うぅうー!」

 納まりかけていた怒りがフッフッとこみ上げてくる。しつこいでござる。懲りたり反省したりはせぬのか? 悪いことをしている自覚はないのか?

 

『我らは分かっている。食事の件で争う気はない。だが、イズモ衆はこのままにはしておけぬ』

「少しお時間をくだされ」

 断ってから大きく息を吸い込んだり吐いたりを続けた。心臓がばくばく言っておる。頭の中がグルグル回っておる。

「ふー……」

 どうにか、頭で考えられるほどには落ち着いた。


「どうせ、神官の誰か、何処かの家でござろう。されど、犯人を捜しても出てこぬでござりましょう。某に責任を押しつける事に全力を尽くすでございましょう」

『これで二回目ですね。あ、わたしが魚を引き受けましょう』

 ミウラが魚の皿をもっていった。


『今度は国造もイオタさん犯人説をとらざるを得ないでしょう。でないと自分の立場と命が危ない。イズモの神官全員がイオタさんの敵に回ります。誰か知りませんが、考えましたね』

「国造ともあろう者が……正義はござらぬのか? 神獣様を見ていて何も思わぬのか?」 

 情けないでござる。


『正義? 正義なんてないよ』

 神獣ヤマトの主のお言葉でござった。



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