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【外伝-2】 (ネコ耳サムライTS転生物語。ニホンは摩訶不思議な所でござるなー)スルガの国のミウラの主でござる  作者: モコ田モコ助
イズモ編

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1.リバーシー

 ミカワ方面は、魔獣の急な動きに合わせて、ちょっかいを掛けただけらしいので、すぐに落ち着いた。

 ナントカという小さな勢力が、魔獣のスルガの国侵入に合わせて、突っ込んできただけらしい。クシマ殿の部隊と激突したナントカという勢力が、数を減らしただけでござった。


 一方、カイの国方面はそれなりの戦力が投入されていたようで、それなりに激戦だったという。

 独立先鋒部隊『補給部隊からの独立です』だったツモトのオヤジ殿。さぞや武功を立てていなさる事でございましょう。しらんけど。


 して――

 某とミウラは碁盤を前に、陣地取り遊戯に没頭しておる。

 ミウラの左耳がピクリと動いた。遠くで音を拾ったのでござろう。ネコ化したとは言え、まだ某には聞こえぬ距離だ。


『6の7』

 指定された位置に黒石を置く。

 ぬぅ! 横と斜めに白を七つ取られたにござる!

 イオタさんの危機にござる!


「むうぅ!」

 白の石を持った手を大上段に構える。超攻撃型の構えにござる。

 ミウラの左耳がピリッと動く。

 遅れて、某の右耳が向きを変える。


『都落ちしてイマガワ家で厄介になってるお公家さんですよ。御屋形の奥さんはナカミカドの大納言の娘ですしおすし』

 ミウラの部屋は、三方に壁がないので、人は入り放題。風は吹き抜け放題にござる。


「忍ばせたのですが、気づかれてしまったでおじゃるか?」

 ほう、ウグイスですか? 的な軽い口調。セナ様程のお年を召したお方の声色。

 右手に顔を向けると、烏帽子に狩衣姿の老人が立っていた。綺麗な灰色の狩衣でござる。服装だけで高貴な方と見た。それにミウラの部屋へ案内無しに入ってこようとするのも、やんごとなき高位のお方の証明にござる。


 ちなみに、白塗りはしておられぬ。眉も自然のままでござる。見たかったのに!

『イオタの旦那は権力者に弱いですからね。むしろ権力者推し?』

 そう言うミウラは、先生とか呼ばれて権威を持つ者に対し、妙に歯向かう癖がある。

 とりま、ミウラが排除に動かないのだから、悪い人物ではないようだ。


 もといして――

 やんごとなきお方に礼をするため、向きを変えざま、「おっと手が滑った」盤面に腕を振るう。『そうはさせません』ミウラの前足が某の手を弾いた。こやつ、できる様になった!


「おほほほ。対局中、申し訳ございませぬ」

 当たり前のように座られる。その様がまた美しい。笏を持っておられたら完璧にござる。

 絶対に高位のお方にござる。失礼すると首が飛ぶ系の高位のお方にござる。某、正式に向き直って頭を下げた。

 でもって、出来る某は、今座っている位置を譲った。上座に相当するのだ。


「あー、よいよい。碁を続けておくれ」

「はっ……某、神獣ミウラの主の巫女を務めますイオタと申す者。あの失礼ですが……」

「なんじゃ?」

 知って言ってるのか、とぼけておられるのか?

「何とお呼びすればよろしいのでしょうか?」

『誰だテメェ、って聞けば良いんですよ』

 名前を直接聞くのは失礼なのでござるよ。


「おほほほ! そうさのう……」

 さわりと風が東から抜けていく。

「……東風とでも呼んでくだされ」

 匿名希望でござるか?

『おそらく、下向しているのが貴族的に恥なのでしょうね』

 これが有名な下向でござるか? この時代この世界まだ力を残しておられるお公家様にお会いできた上、お話しできるとは! 人間、一度は転生するものでござる!


「ははっ! それでは東風様。なんぞ御用でしょうか? 呼んで頂ければ参上致しましたのに」

 普通、高貴なお方は目的の場所へ歩いて行かない。目的を歩いて来させるのだ。

「イマガワ家の神獣様へお参りに参ったのでおじゃるよ。こちらから出向かなくて何としましょうぞ。さて!」

 大変美しい仕草で、ズズイと膝行り寄られた。扇子を顎先に当て、碁盤をおのぞきになる。

 盤面は、中央の八かける八の升目が太い線で区切られ、縦横に番号が振られておる。ミウラは手がでかくて小さい石を掴みにくいので、番号を言って某がそこへ打つという決まりでござる。

 石を置くのも線上ではなく、升目の中でござる。

 

「ほうほう……ほう?」

 そして小首を傾げられた。

「黒が優勢という事は解ったでおじゃる。すまぬが、どうすればこのような局面になるのか、説明をしてくれるかのう?」

『このおじゃる丸、わたしに参拝する前に碁盤を覗きましたよ。破壊公家様でございますなぁ』

 権威嫌いのミウラが、東風様に興味を抱いたようでござる。


「ははっ、しからば!」

 元の位置へ座り直し、脇に置いていた扇子を手に取った。

「相手の石を挟めば取れまする」

「それは知っておじゃる。碁は麿も得意でおじゃる」

『ふふーん! 異世界あるあるでございますよ。転生を繰り返すこと2回。いよいよこのシーンが!』

 ミウラはご機嫌でござる。理由は知らぬが、どうせ下らないことでござろう。ミウラは下らないことが好きなネコでござる。


「本格的に碁を打ちますと、相当な時を費やします」

「ふむ、一時(とき)や二時、あっという間でおじゃるな」

「ミウラの主は、どんなに興味のある遊びでも、飽きてしまって半刻以上続きません。囲碁の腕前は相当なものなのでござるが、途中で飽きて、早く終わろうとしてわざと負ける悪癖がござる――」

 元々の性格なのか、ネコの性格なのか。ミウラは飽きっぽい。熱中しだしたら終わらぬ時もあるが、だいたいはすぐ飽きてゴロンと寝てしまう。

「――よって、すぐに終わるよう、囲碁の決まり事を少々変更いたした。名付けて白黒碁」

「ほほう、どの様に?」

「しからば、説明のため、いちから――」

 素早く、盤上の石を払い落としたでござる。

『あっ! 酷い!』

 ミウラが毛を逆立てて抗議するも、すでに遅し。覆水盆に返らずでござる!

「やんごとなきお方に説明するために必要な犠牲でござる。某も、後半の逆転劇を棒に振ったのでござるから、お相子でござる。これで三勝十二敗一引き分けにござる!」


 パチパチと白黒の石を盤に四つ並べる。

「ではご説明いたす。基本、縦横そして斜め。相手の石を挟むと自分の色の石に置き換えるのでござる」

 決まり事を実際の勝負をしながら説明いたした。

「……と、このようにして打つ場所が無くなってしまうか、盤上を全て埋め尽くしたら終了。あとは囲碁と同じく石の多い者が勝ちでござる」

「ほほう、イオタ殿が三勝十三敗一分け、でおじゃるかな?」

「今のは説明でござるから、勝負は関係ござらぬ!」

『わたしの十三勝三敗一分けですね』

 違う違う違うのだ! これは説明だと何度言えば納得してくれる!

 ……今から思えば、某が勝ったのは最初の三連勝のみ。ひょっとして、某を引き込むための接待勝負でござったかな?


「面白そうでおじゃる。麻呂も、一局お願いいたしましょうか」

 珍しい者好きのお公家様でござる。恐れ知らずの珍しい者好きでござる。

「ふふふ、喜んで。三回勝負と参りましょうぞ。ではいざ!」

 どれ、いっちょう揉んでやるか!

「いざ! でおじゃる」


 三回勝負を致した。

 かろうじて二勝一敗。

 あっぶねぇー。最後の一局はボロ負けしたでござる。

『これは、相当囲碁をやりこんでおられるお方。あっという間にリバーシーをマスターなされました!』


「おほほほほ! おもしろいのう。最後の逆転劇がなんとも言えぬ爽快感。これは癖になるでおじゃる」

 扇子を少しばかり開いて、口元を隠し、お上品にお笑いになる。絵になるでござる!

『悔しいけど絵になりますね。生粋のお公家様とは、ここまで高い戦闘力を持っているのか!?』

 ミウラが一目置いたでござる。


「ミウラの主も、白黒碁をされるとか。文化という面で、かなり洗練されているご様子でおじゃりますなぁ」

 口元を隠した東風様。その目が、半円状になった。笑っておられるのでござるかな?

『ああ、せっかく評価が高まったのに、今ので降下いたしました。この後の展開が予想されます』

「嫌なら、お引き取り願おうか?」

 ミウラにしか聞こえぬようこそりと呟いた。

『ですが、面白そうなので、もうちょっとお相手いたしましょう』

 それはよいが、某を巻き込まないでいただきたい。

 

 つづく。





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