22.アツタ神社再び
「本題に入る前に、某から一つ言いたいことがござる」
『なんでしょう? わたし何かいけないことしましたっけ?』
「そうではない。某、この旅で思うことが出来た」
『何でございましょうや?』
「以前、さわりだけを少々話したことがある。人が思う神獣と、本物の神獣とに差がござる。神獣の生活を誤解しておる神社が大勢ある」
『例えば、自身が敬う神獣様の好物が解らないとか? わたしは猪肉に味噌を付けて焼いたのが好きなのに、出てくる料理は精進料理ばっか。神獣は生き物を殺さぬので菜食主義だと勝手に解釈されていた事とか?』
「まさにその通り! 神社ごとに、解釈を違え、また、それを神獣は、なあなぁで済ませておられる。お心が広すぎるのか、面倒くさいのか、言葉が通じぬ故の悲劇にござる。今はまだ良い。されど、某もいなくなり時代が下がるにつれ、この差が大きくなりはしないか? 各地ごとに独自色が強まり、意味もない妙ちきりんな儀式に取って代わっていかぬか? それが心配でござる」
『ほほう、イオタの旦那、なんぞ思い立つことがございましたか? 何でも言ってください。わたしもお供いたしますよ!』
「うむ、ミウラの言や良し!」
よい子でござる。
「大きな神社大社を巡り、全国を旅して回るわけには行かぬ。しかし、なんとかして、各神獣様の好き嫌い、痒いところなど、お気持ちをお聞きして、担当する神官や組織に伝え、書物に残したい。バックリとしておるが、その様なことをしたいのでござる」
『ほほう、目標ですか? ですが、旦那らしくありませんね?』
「ひょっとしたら、神の手が某に伸びておるのやも知れぬ。であるが、もしそうだとしたら、それこそ某とミウラがこの世に遣わされた意味であるやも知れぬ。タキちゃんという存在も、某の尻を後押ししておるのやも知れぬ。知らんけど」
『ふーむ。良いように使われている感がして気に入りませんが、イオタさんと一緒に仕事をするなら、それも又、楽し、でございます。それに、なんにでも付き合いますって言いましたしね!』
何だかんだいって、ミウラは付き合いが良いのでござる。
「ミウラはよい子でござる。とはいえ、今すぐに行動することもあるまい。のんびりゆったりと構え、いずれ時が来たら動こうではないか」
『ははぁ……やる気があったようにお見受けいたしましたが、すぐに行動するつもりはないのですね。ネコですしね。神様も人選を誤ったようで』
「神の指令より、某らの生活が優先にござる。過労死するくらいなら、仕事をさぼってとんづらでござる。なにせ、逃げることには定評がござる」
『イオタの旦那の得意技でございますからね。36計逃げるにしかずを地で行く方ですからなー』
「……と言うことで、この旅は有意義でござったというお話しでござる。如何か、ギフの主?」
某とミウラの視線がギフの主に向いた。
『いや、その、如何か? と、言われても答えに困るなぁ』
ギフの主は蜷局を巻いた頂点で小首をかしげられた。その仕草、可愛いと思うておられるのでござろう。
某の目から見れば、ウンコの上に乗った首でござる。
『イオタ、今なにか失礼なことを考えなかったか?』
「いえ、ちょっとアシムラなんとか殿のことを連想してしまっただけでござる。なぜか蜷局を見ると思い出すのでござる」
『ああ、それはすまない』
スルリと蜷局を解かれた。何とか誤魔化せたようだ。初めてアシムラが役に立ったでござる。
話は前後するが、アツタ神社まで帰ってきた。
神社には、「 ギフの主、ミウラの主、ミウラの主の巫女イオタ様、来訪でおなじみのアツタ神社 」 と墨痕鮮やかに書き上げられた、大きな看板が上がっておった。
ミウラが、前もってヤタガラスをギフの主に飛ばしておいたので、ここアツタ神社で再び相まみえた、という次第でござる。これが叙述とりっくでござる。
『わたしの知ってる叙述トリックと、ちょっと違いますね』
「勉強し直せ、ミウラ」
『ははー!』
なんか、ギフの主の目が冷たいでござる。
『話を戻して申し訳ないが、イオタがやろうとしていることは、神獣として助かる仕事だ。確かに、今はまだいい。だが、年月が経ち、誤解が誤解を生んで大きくなってしまっては取り返しがつかなくなるだろう。アシムラ家という悪い例もあることだしな。わたしは良いと思う』
ギフの主から許諾をもらったでござる。これでミウラを入れて二票。あと、イセの主とヤマトの主も、おっぱいに絡めれば賛成票を入れてくれるでござるから、四票。決定でござる。
『そこはかとなく不正の匂いが致します』
「銭は絡まぬし、女を抱かせるわけでもない。清廉潔白でござるよ」
『ははぁー、西暦二千年代の政治家にイオタさんの爪の垢でも煎じて飲ませたいところですね』
『ミウラの主、イオタ。おまら、いつもこうなのか?』
なんか、ギフの主の目が冷たいでござる。
「何を仰せでござるか! まるで某がふざけているように聞こえるでござるよ!」
『わたしらふざけてませんよ。これがわたしらの真剣な会話です! いつもの』
『……よく分かった。私が間違っていたようだ。許せ。で、話を変えるがアツタでゆっくりしていかないか?』
ギフの主の親切は、誠にありがたいのでござるが……。
「ここしばらく連続でミウラの主の縄張りにて、頻繁に魔獣が出現しておる。長いこと縄張から離れてしまったのが原因かと思うのでござる」
『神獣はそこにいるだけで魔獣の抑止力になるようです。隙が見つかってしまうと、すぐに突っ込んでくる。まるで何処かのヤが付く組織のような濃い性格が嫌らしいわ!』
……それも、何らかの関係があるように思うのでござるが……今は言わぬ方が良かろう。神獣は文鎮とか。一旦、頭から外しておこう。
「明日、早朝にここを発つ。その前に、少し調べたいことがござる。宮司殿に話を聞きたいのだが、かまわぬかな?」
「ははっ! 何なりと!」
『あれ? 宮司さん、そこにいたの?』
「はっはっはっ! ミウラもおかしな事を言う。最初からおられたではないか?」
『叙述トリックでございますか?』
そんなところでござる。
して――
宮司様と、重役の方々とを前にして、密談でござる。いや、密談ではないが……。
「イオタ様、どの様なお話でございましょうや?」
「神様のことで教えを頂きたい。じつは某、巫女になって日が浅く、神事のことに疎いのでござる。本来の予定では、イズモ大社にて、巫女様方よりお教えを願うはずでござったが、あの様なことになり、修行を中断せざるを得なかった。これから忙しくなること請負にござる」
困ったなーって、顔をして腕を組む。
「そこで、即席でござるが、この場にて、アツタの神官の方に、疑問なところを質問をさせていただこうというというわけにござる!」
「なるほど! 我らでよろしければ! これに勝る誉れはございませぬ。何でもお聞き下され!」
お喜びになっておられる。神獣の巫女に教えを授けることで、神社に箔が付くからでござるかな。
「では、先ず、最初の神様から、ニニギ様までのお名前を……」
「そこからですか?」
そこが今回の案件で、大事になるのでござる!




