21.密談(内緒話とも言う)
本殿を中心に上下と四方、二十間『36メートルですね』の立ち入り禁止区域をもうけた。
夜になったら、篝火が赤々と焚かれた。
二十間離れた位置で、神官達が祈祷を上げ、神社の塀の外中で、凄腕のニンジャ達総出による警戒態勢を作りだした。
して、本殿で結界を念入りに作る。
薄暗い結界の中でミウラ、と膝とおでこを付き合わせての密談にござる。
「ミウラ、なんぞ思い当たったか?」
『はい。まず、神獣ですが、思ったより擦れております。神とは、ほど遠い性格をしておられる。そして、一番大事なことは、魔獣と戦うための存在であることを疑問に思わない。……これは、わたしも含めてでございます。イオタの旦那に言われて、はたと気付いた次第』
「某が、……なんだかんだ言って人であるから、疑問を持った、からでござるかな? 続けよ。なるべく手短に」
『はい。それらを踏まえてからの、わたしの印象ですが、……神獣は神が作った戦闘ロボット、絡繰りなのでは? と。だって、存在意義が単純すぎるじゃないですか』
「うーむ。戦闘力、武威以外はポンコツでござるからなぁ……」
特におっぱいに固執するところ。
『わたしが生まれる前の、前任者? その存在のあやふやさ。隣近所の神獣なのに興味なさ過ぎ。誕生と死が謎すぎます。その事に触れるとイセの主の態度が変わりました。きっと、彼はその事を理解してないでしょう』
「謎が増えてないか?」
『そして魔獣。嵐が来て足止め喰らっていたから、大惨事になりませんでした。これを運が良いとか神のお導きであるとかと考える方法もありますが、わたし達が足止めを喰らったので魔獣を出現させた。とも解釈できませんか?』
「……なるほど。……されど、疑えば何でも疑えるでござるよ」
『ほら、そこで、魔獣を操っていた男の存在ですよ。魔獣も誰かの手駒だったとしたら? ……まだまだ、情報が足りません。あー……でもって、神獣から聞き出すことも用心しないと』
「神獣様も信用できぬ、と申すか?」
『神と繋がってるのかもしれませんし、その事がトリガーとなって何かが起こるかも知れません。今日ここでの密談は、中間報告会のようなものです。判断するには部品が足りません。それと、この密談もあまり長いこと話さない方が良いように思います。わたしにも何かが憑いているやもしれずです』
……誰かに……魔獣や神獣の生死に関わる者の耳に入るやも、でござる。
「とならば、まずはここまでにしておこう。中で神事を執り行っている体にしておかねばならぬ」
『それが良いと思います。では神事とやらを一発』
「あ、これ、なに覆い被さって……みんなが見てる中で神事を執り行うつもりでござるか?!」
あくまで神事にござる。決して夫婦間のスケベな行いのことを指してはおらぬ。変に気を回してはいけないのでござる。
『大勢の神官が祈祷している、むっちゃ神聖な雰囲気。外に向けた厳重な警戒。真剣に、真面目に、心を込めた警備の中で行う神事……』
「……むっちゃ厳かでござるな!」
『では神に祈りましょう』
して――
「神への祈りは……この辺にしておこう」
お祈りでござるよ、お祈りをしていたのでござるよ。そこに勘違いする余地はござらぬよ!
ミウラと向かい合って、姿勢良く座り、いかにも厳かな神事を執り行っていたという体にして、いちにのさんで結界を解いた。
疲れたー、という体にして、ゆっくり立ち上がる。
それを目敏く見つけた宮司殿が、小走りで駆け寄ってきた。
「ご首尾は?」
「うむ、無事、恙なく執り行えた。これもひとえに、宮司殿を代表とするイガのニンジャ衆による協力の賜物。感謝いたす」
「ニン…ジャ……? 何のことか存じ上げませんが、お褒めの言葉、ありがとう御座います」
ど・こ・ま・で・も、シラを切る! これがニンジャでござるか?!
「ご苦労でござった。後はゆるりといたそう」
しててて――
翌朝にござる。
『台風一過。空は雲一つ無い日本晴れにございます』
「なにかご用命がございましたら、遠慮無く我らイガ忍……イガ者にご用命ください。命を惜しまずおつとめいたしましょうぞ!」
「今、イガ忍って言ったでござるな?」
「イ? イガ……ニィ、ニィン?」
発音しにくそうなとぼけ方は止めていただきたい。
朝ご飯をおよばれし、お昼の弁当とお土産をいただき、大勢に見送られイガのナバリを後にした。
ゆっくりと山を越え、お昼前には、ツの町を望む下り道に出たのでござる。
「景色も良いことでござるし、これでほぼ山歩きは無しでござるし、お弁当にいたそう」
この辺の山など、奥駈けに比べれば、可愛い可愛い!
『いいっすね。以後は町歩きになりますから、ゆっくりのんびりは出来ませんからね』
なかなか楽しい旅でござった。
『ネタまみれでしたが』
「異世界での旅を思い出すなぁ」
『アレもネタまみれでしたね』
「お弁当、要らぬようでござるな」
『いただきます!』
粟とかヒエが少ないおにぎりをいただいた。ついでに、お土産を開いてみた。
「なんでござるかな? この……茶色い平たいお煎餅みたいなの?」
肉厚で、手のひらに丁度納まる大きさ。焼き菓子でござるかな?
「甘いお煎餅かもしれぬ。どれ一口、ガリッ! 硬い!」
『イガ名物の堅焼きでは? それ、ニンジャの兵糧ですよ。水分を飛ばすだけ飛ばしてますから、あずきバー並の硬度を誇る非常食です』
非常時には投擲して人を殺せる菓子でござるな。さすがニンジャでござる。
『ですが、神獣様の歯にかかれば一撃です。どーれ、アム。ガリ! うっ! 神獣の歯すら立たぬとは!』
恐るべし。するってーと、あずきバーとやらも神獣の咬合力に勝てると?
『たしか……、刀の柄でたたき割って、口の中でふやかして食べるんだそうです』
ほほう。言われたとおりに砕いて小さな欠片を口に放り込む。むぐむぐ……むーん、微かに甘く香ばしいでござる。旨いと言うよりは珍しい?
「では休憩も終わったことでござるし、旅を続けよう」
『お家に帰るまでが旅行ですからね』
尻尾をゆらゆらさせながら、山道を下っていくネコ二匹でござった。




