45,ペンダント
洞窟の中をずんずん進んでいくと、アウルフォウルの宝石よりも、もっと輝いている場所にたどり着いた。
ここが、マスルが言ってた、スライムの巣窟……?
「うわっ、なんだこれ!!」
ハーシーたちと一緒に前を歩いていた先輩が、なにかを避けるように足を上げた。
地面には、うにょうにょとうごめく透明の物体が、たくさんこびりついていた。
「顔に飛びつかれないように気をつけろ!
鼻と口を塞がれたら、窒息するぞ!」
ハーシーの言葉に、わたしは手で顔を覆いながら、足元にいるスライムをよけるように歩いた。
とにかく、親玉をやっつけないことには、みんな帰れない……そして、誰かが命に関わる怪我をした時、わたしは治す役目を担ってここに来ている。
でも、さっきのバリアがあれば……怪我をする前に防ぐことだって、できるかもしれない。
それなら、わたしはみんなと離れないように、一生懸命ついていかないといけない。
「ひよ、下がれ!!」
その言葉に、わたしは足を止めた。
ハーシーの奥に、洞窟の壁スレスレくらいの大きさがあるスライムが現れた。
それはきらきらと眩しくて、すぐには直視できなかった。
なんとか目を細めて見ると、スライムの体の中に、何か光を発しているものがあるみたいだ。
「あれは……ひよのペンダントじゃないか?」
先輩の言葉に、わたしは「えっ?」と声を漏らした。
「あの、四つ葉のクローバーの……ほら、両親の形見だったんだろう?」
先輩が指さした方向を見て、目をこらすと、たしかにペンダントのようなものが浮いていた。
それは見覚えのある……たしかに、わたしが落としてなくしたペンダントだ!!
「な、なんであれが、こんなところに……!?」
「山でスライムが吸収したんだろう。聖女のペンダントの力で、あそこまで大きくなったんだな」
ハーシーは剣を抜き、スライムに立ち向かっていった。それにつづいて、護衛士さんや近衛士のみなさんも、大きなスライムに剣を振り下ろし、切り刻んでいった。
「だめだ、すぐに再生する……!」
「そうだ、火をおこせ!!スライムは火に弱い!!」
「ばかいえ、こんな洞窟の奥で火をたいたら、みんな煙にまかれて死ぬだろうが!!」
「誰か、火の魔法を使えるやつはいないのか!!」
火の魔法……そんなの、聖典に書いてあったか記憶にない。夜通し読んで、色んな魔法を頭に入れたのに……いざと言う時は出てこない、このポンコツ頭!!
なんでか分からないけど、わたしが落としたペンダントのせいで、こうなっている。
それなら、ちゃんとわたしが、責任もって倒さなきゃ……!
『口だけ達者でなやつを、大勢見てきた。もう、うんざりなんだ』
出会った頃の、ハーシーの声が蘇ってきた。
わたしは、何もできない自分を奮い立たせるように、顔を両手でバチンと叩いてから、動き始めた。
「おい、こっちに来るな!!」
ハーシーの制止もきかず、わたしはスライムの体にむかっていった。
「さっきのバリアを、自分の体にはるわ。
そうしたら、中に入り込んで、ペンダントを取れるかもしれない!」
わたしがスライムに触ろうとした瞬間、その透明な体は嫌そうに逃げて、四方八方に広がった。
その瞬間、波のように、スライムが私の体に覆いかぶさってきた。捕まってしまう……そう思った瞬間、わたしを助けようと、先輩とハーシーが中に入ってきた。
わたしたちは、三人一緒に、スライムの中に取り込まれてしまった。
「……!!」
「……!!」
外にいる人達の声が聞こえない。
水中にいるように、視界がぼやけて、身動きがとれなくなってしまった。
でも、まだ窒息はしてない……なんとかバリアを張るのが間に合ったようで、体にまとわりつかれるのは阻止できている。
ハーシーは、わたしと先輩を離しながらも、しっかり先輩の肩も抱いてくれていた。
「ありがとう……おれも守ってくれるの……?
どうしようおれ、ハーシーのこと好きになっちゃう……」
「そうしたら、三角関係ですね」
ハーシーは、その会話を無視して言った。
「……ひよ、おれをここ(バリア)から出してくれ」
「え、何言ってるの……?」
「ここからなら、天井に押しつけて、スライムのコアを潰せる」
「だめよ、その前に窒息させられたら……!」
わたしは、絶対に離すもんかと、ハーシーの上着をギュッと握りしめた。
「あのさ、いっこ、きみにたちに言えてなかったことがあるんだけど……」
その時、先輩が口を開いた。
「なに?」
「おれ、ひよの代わりに、フローラ様の日記とか読んでる時……魔法が使えちゃったんだよね」
「えっ……!?」
「それでさ、たぶん、火が出る魔法が使えると思うんだよね」
そう言いながら、先輩はわたしたちから手を離すと、その手上に炎を現した。
彼は「ほら、出たでしょ?」と肩をすくめた。
「……なんで、先輩も魔法が……」
「うーん、分からないけど………この炎で、スライムの体を焼けばいい感じ?」
「あぁ。だが、広い範囲だと逃げさせてしまう。あそこの核に向かって、集中して火を放てるか」
「まぁ、やってみようか」
そんな軽い感じなのに、先輩はしっかりとハーシーに確認しながら、照準を合わせて火を放った。
すると、みるみるスライムの体が蒸発していて、中の空洞が広がっていった。
次の瞬間、ハーシーがバリアを突き破って上に跳ねると、薄くなったスライムの体に、剣を突き刺した。
そこは、ペンダントのすぐ隣……確実にスライムの核を潰したことで、巨大なスライムはあとかたもなく、蒸発するように消えていった。
「すごい……さすがハーシー様!!」
アビーの声が聞こえるようになった。
地面に降り立ったハーシーに、わたしも起き上がって駆け寄った。
「怪我は……?」
「ない。ひよと、ハルマサのおかげだ」
彼の穏やかな顔に、わたしはほっと息をついた。
「やべ……おれ、ヒロインになった気分」
わたしは先輩の言葉に吹き出した。
これで帰れる……なくしていたペンダントも見つかったし、無事にスライムも倒せた。
「ハーシー、ありがとう……わたしのために……」
そう言って、彼に手を差し出したとき。
彼は持っているペンダントを渡すまいと、手を引っ込めてしまった。
「……?」
わたしだけじゃない。彼の挙動に、その場にいる誰もが不可解を示した。
「ハーシー……?」
彼は、わたしのペンダントを隠すように持ちながら、まるで子どものように駄々をこねた。
「……これは、返さない。おれが、取り返したから……」
その言葉に、先輩が苦笑いして言った。
「いや、それ、ひよのだぜ?
今までの流れで、それは分かってるよな?」
「分かってる……でも、返さない」
あまりの幼い行動に、わたしたちはあんぐりした顔でお互いの顔を見合わせた。
わたしは、ただ、ハーシーが何がしたいのか分からず、困惑して彼を見ていた。




