44.ミサンガ
ハーシー達と合流できて、不審者の正体もわかって、やっと安心だと思ったのに。
わたしって、気が短い女だなぁ。
ハーシーがちょっと、ほかの女の人のことを褒めただけで、モヤモヤして、不機嫌アピールしちゃうなんて。
普段なら笑ってやりすごせるのに……どうしてか最近、気持ちの切り替えが上手くできない。
「こうであってほしい」という思いが強ければ強いほど、自分がしんどい思いをすることは分かっているのに。
ハーシーが、他の強い女の人に拘束されたという話を聞いて……嫉妬心に火がついてしまった。
こんな醜い感情、さらけ出したくなんかないのに……なんか、想像するだけで嫌だ。
……でもリバティ家に、くるくるの巻き毛の若い女の人なんていたかな……。
焚き火の前に二人で座っていると、アビーがおずおずと話しかけてきた。
「あの……これ、もし会えたら、あげようと思って……」
彼女が、戦闘服の懐から出したのは、紐のようなものだった。
「これって……」
「あたし、不器用だから。こんなものしか作れないけど……」
それはミサンガのように、細い糸を織り込んで作られたブレスレットだった。
「わぁ、すごい……!これ、アビーが作ってくれたの?」
「う、うん」
「わたしのために?」
「まぁ、マンカラカラハのお礼っていうか……」
恥ずかしがってそっぽ向くアビーに、わたしは「手首に結んでくれる?」と声をかけた。
「片手じゃ、うまく結べなくて。絶対とれないくらい、きつく結んでね」
するとアビーは、素直にわたしの手に、ミサンガを結んでくれた。白い糸に混じって、赤や黄色など、明るい色が織り込まれていて、なんとも女の子らしい。
「……お日様を、イメージしたの。
フィオは、太陽みたいな人だから……」
その言葉に、わたしははっと顔を上げた。
なんでこんなに、優しい顔をして……わたしを見てくれるんだろう。出会った頃の、警戒心丸出しの彼女からは想像できなかった。
「そんな……わたしなんて、ただのど陰キャのアニオタだし……」
「ハーシー様がね。初めて、わたしたち見習い護衛士にも、心を開いてくれたの」
アビーの話に、わたしは静かに耳を傾けた。
「今までハーシー様は、人に絶対、弱みを見せない人だったわ。
前の護衛士団長のジギス伯爵は、ずっと護衛士館から出ない人だった。
でもハーシー様は、もともと護衛士だったこともあるけれど、貴族になってからも見習いの訓練に参加するし、現場にも行くし、団長としての仕事もこなして……働きすぎなのに、一切弱音を吐かなかったわ」
わたしはその話を聞いて、うわぁ、社畜だ……と思った。
「今までも、仕事一筋だったんだね……」
「うん。見習いの頃からずっと館で育って、誰よりも仕事を頑張ってるハーシー様が、わたしたちの誇りなの。
でもこの間……初めて、ハーシー様が泣くところを見たわ。みんなで一緒に泣いたとき……初めて家族って感じがしたの」
わたしは、心の中で思った。子供たちの前で泣いたことなかったんだ……わたしの前では、よく泣くくせに。
「どうして泣いてたの?」
「フィオが……もう、護衛士舘に帰ってこないと思ったから」
その言葉に反射するように、一筋の涙が溢れ出した。
あれ?わたし……辛いとか、寂しいって思う前に泣いちゃった……こんなに涙もろかったっけ……。
「ハーシー様がね、フィオにたくさん意地悪を言ってしまったって、泣いてたの。
あと、団長の仕事も、しんどかったって……ずっと逃げたかったんだって初めて聞いて、なんかわたし、頑張らないとと思ったの」
静かに流れる涙を拭きながら、わたしは「なにを頑張るの?」と尋ねた。
「わたしは、護衛士館で1番つよい護衛士になる。そうしていつか、団長をハーシー様から引き継ぐわ」
「そう……無理しないでね、アビー。
あなたは女の子だから、体を1番大切にしてね」
思わずアビーを抱きしめると、彼女も抱きしめ返してくれた。
後ろで先輩の「百合が爆誕してて草」という声が聞こえたけど、無視をした。
その近くから、わたしたちを見ていたハーシーが、話が終わるのを待っていたかのように口を開いた。
「これ以上、雨が止むのを待っていても時間の無駄だ。洞窟の奥に進もう」
彼の言葉に、近衛士たちは顔を強ばらせた。
「だが、あの男は3日も迷ったのだろう……?」
「マスルが歩いてきた足跡を辿れば、巣窟までは苦労せず行けるだろう」
「せ、聖女様……いかがされますか?」
そうだった。いま、近衛士たちの主人はわたしなんだ。
わたしが行くといえば、この人達は着いてこないといけないし、行かないと言えば、ずっと一緒にここにいることになる。
わたしを守ることを仕事として、命じられているから……。
「……分かった。洞窟の奥へ進みましょう」
そう言うと、近衛士たちはみんな胸をなでおろした。わたしも正直、ハーシー達が来てくれたことへの安心感が半端ない。
また護衛士さんたちが、テキパキと火の後始末をしてくれるのを棒立ちで見つめ、わたしたちはハーシーの後をついていくように歩いた。
アビーの手をぎゅっと握りながら、わたしはつぶやくように言った。
「これが終わったら……護衛士館に帰れるといいな」
ハーシーの隣を歩く春政
「え、何……なんでそんな暗い顔してんの?」
ハーシー
「おれも、手を繋ぎたい……」
春政
「……おれと繋ぐ?」
ハーシー
「断る」




