《閑話》春政vsアビー
焚き火に当たりながら、おれはひよからもらった手紙を読んだ。女性らしい、細くて繊細な字だ。
そこに書いてあったのは、なぜか、おれだけが元の世界に帰る未来。
まるで自分は、もうこの世に居なくなることが分かっているような言い回しに、ひどく気分が悪くなった。
『職場の人たちには、大変お世話になったので、心配をかけたくないです。ただ、病気で復職できないとだけ伝えてもらえたらと思います』
そんなの、自分で伝えろよ。おれは退職代行じゃねぇんだぞ。
『友達はいないので、大丈夫ですが……あと一人だけ、本当のことを伝えて欲しい人がいます』
そこには、想像した通りの人の名前が書いてあった。育ての親には、あったこと全て、包み隠さず教えて欲しいという。
みんな、おれを都合よく考えすぎじゃない?
まぁ大悟さんからは、お金をもらってひよと会っていたけどさ。じゃないと、彼女と会い続ける意味が分からない。
高校の頃、彼女のことが好きだったのは本当だ。でも彼女は、大悟さんのことしか目に入ってなかった。
とっくに諦めた恋だったのに……身を引いた恋だったのに、こうまで関係を続けなければならないおれって可哀想じゃん。
それなのに、何だよ。こんな手紙よこされて、遺言みたいなこと言われてさ。
じゃあこれまで、おれが頑張ってきた意味ってなんなの?
大悟さん。おれ、ひよがこの世界にとどまらないように、心にもない告白をしたり、色々頑張ったんすよ。これ以上どうしたらいいですか……。
うなだれたおれに、護衛士館の子どもが話しかけてきた。
「どうしたの」
「しっしっ。子どもには関係ないから、あっちに行きなさい」
「子どもじゃない。恋だって知ってるわ」
その言葉に、あぁこの子は、護衛士館に唯一いた女の子か……と気づいた。
「ふぅん。誰なのさ」
「ラッセルよ」
「えっ、あのひょろっとした子?まぁじで、意外だねぇ」
確かアビーといったその女の子は、おれの隣に座ってきた。
待って、この流れで恋愛トーク始まるの?今はおれのメンタルがきちぃんだけど……まぁ、気分転換に聞いてあげるか。
「ラッセルは……あぁ見えて、すごく賢いの。それなのにぽやぽやしていて、誰にも嫌なことを言わない。わたしと大違いよ」
「おれは、思ったことをすぐ言ってくれる子のほうが助かるけどね。相手のために、自分の気持ちを押し殺すなんて、馬鹿らしいと思ってる」
「わたしも同感よ。なんの利益もない……気を遣って本音が言えないなんて、滑稽だわ。
他人のためだなんて、それこそ、見返りを求めて恥ずかしいと思っていた。
自分が欲しいものは全部、自分で掴みにいかなければ手に入らない」
おぉ、しっかり考えてる子なんだな……と、おれは感心した。ここまで勝ち気じゃないと、この世界で、この職業で女の子は生きていけないんだろうな。
「それなのに……いつも花を摘んできてくれるラッセルも、マンカラカラハを作ってくれたひよも、同じ……太陽みたいに見えたの……」
「え?ひよ、マンカラカラハ作ったの?うわーなつかしー!!」
「あなたもやったことあるの?」
「あるよー、こういうやつだろ?」
おれはそこら辺に落ちている枝を拾って、地面にたくさんの丸を書き、マンカラカラハの盤を描いた。
アビーは「そうそう、これこれ!」と目を輝かせた。
「久しぶりにやろうぜ。石ころ集めてさ。あの二人、いつ帰ってくるか分かんねーし」
するとアビーは、小さい体でちょこまかと動き、小石を集めた。
「ほれほれ、そこにもあるぞ」とか言ってたら「あんたも集めなさいよ!!」と怒られた。
30歳間近にもなって、なんでおれは、こんな異世界の洞窟で小石を集めてるわけ?
麻布台のオシャレなカフェで、女の子をくどいてる人生プランが台無しだよね。
まぁ、これもモラトリアムだと思えばいいのかな。なかなか体験できるわけではないし、人生楽しまないと損だよね。
ひとつの丸に4個ずつ、それを丸6個分の小石を集めて、遊ぶ準備をすると、おれは「お先にどうぞ」と余裕のある笑みを浮かべた。
アビーは真剣な目をして、地面に両手をつきながら何かを考え、自分のエリアの小石をとった。
右回りで、石を捨てる場所にちょうどに置いたアビーは、ルール通りにもう一度石を動かした。
こういうのはね、最初は別にどこでもいいのよ。
要は、自分のエリアの石を早くなくならせればいい訳だから。
ひとつの穴に石を溜めすぎないようにして、おれはどんどんアビーのエリアに石を送った。
彼女はよく考えているようで、だんだん、石捨て場の近くの丸に石が溜まっていっている。
「あんまり溜めすぎると、自分に戻ってくるよ?」
「知ってるわ」
最後の最後、おれの石がなくなりそうになったら放出する予定なんだろうけど。その作戦、子供はやりがちなんだよなぁ。
このゲームは、いかに先の見通しを立てられるかが肝心だ。丸の中の石が、何個あるか数えるなんて野暮なことはしない。
すべてはタイミングだ。石を動かすタイミングを間違えれば負けるし、それを制することができれば勝つ。
案の定、だんだんおれのエリアの石がなくなってきて焦った彼女は、溜まりに溜まった穴の石を放出した。
ぐるっと1周、自分のエリアに石が戻ってきている。
おれは、いつでも反撃できるように石を貯めながら、遠い方、遠い方から石を動かし、徐々に自分のエリアの石をなくしていった。
最後の最後で、アビーが動かす石を間違えてくれて、俺の方が先に上がった。
アビーは負けてムスッとしながらも、また石を並べ直しながら言った。
「あなた、ラッセルみたいなことするわね……」
「あらそう。ラッセルには勝てたことあんの?」
「ないわ」
「じゃあ、勝ち方教えてあげようか?」
「いい。やりながら身につけるわ」
暇そうな護衛士や、王宮の近衛士たちが、おれたちの周りに集まってきた。
「こんな遊び、知ってるか?」「いや、初めて見たけど面白そうだな」と話しているのをよそに、おれたちは、第2ラウンドに突入した。




