【閑話】合流
魔族討伐の任務に行った、護衛士マスルからの連絡が途絶えた。
おれは数名の護衛士を連れて、魔族討伐の地へと向かった。
このたびの任務は王宮からの依頼で、兵士たちと一緒にいるはずだから、連絡が途切れることはないと思っていた。
今朝、王宮から早馬がきて、そのことを伝えられた。急な出動となり、連れてこれたのは若手の護衛士ばかりだった。
その中には、まだ見習いの女子、アビーもいる。
現場を経験させるつもりだったが、今回の任務は、過酷なものかもしれない。
行く手を阻むように、激しい雷雨があって、おれたちは近くの洞窟へと向かった。
「……ハーシー様、誰かいる」
アビーの高い声に、おれはハッとした。
洞窟の入口に、数名の男が立っている。
あの格好は……王宮の近衛士だ。
彼らがいるということは、洞窟の中にいるのは、クラウス王だろうか?
だとしたら話は早い。クラとおれなら、魔法と武術の相性がいい。雨が上がってから一緒に討伐に向かえば、事態の沈静化ができるだろう。
おれたちが洞窟に近づくと、彼らは敵意むき出しで、剣の柄に手をかけた。
「名を名乗れ!でないと、盗賊とみなして斬る!」
なにをそんなに動揺しているのか。兵士の落ち着きのなさは、大将の鏡だ。
ここには、クラウスはいないのか……?
雨が当たらないところまで入って、おれは外套を脱いだ。
「王宮からの通達で、魔族討伐に向かったうちの護衛士と、連絡が取れなくなった。
お前たちも、応援に向かっている途中か?」
おれの顔を見た瞬間、近衛士たちは大げさに体の力を脱いた。その後ろから、思ってもみなかった人物が現れた。
「なんだ、ハーシーかよ……なんでそんな盗賊みたいな格好をしてるんだ」
「雨が降ってるんだから、外套くらい被るだろ。どこぞのおぼっちゃんたちは、用意が悪かったんだな」
頭までびしょ濡れになっている近衛士たちを見て、おれは呆れてため息をついた。
そんなことを話しているうちに、優秀なアビーは、消えそうになっている焚き火を見て着火剤を入れ、回復させていた。
びしょ濡れになっている近衛士が「ありがとう!」と泣きそうな顔でお礼を言っている。
近衛士と護衛士は、まさに飼い犬と野良犬の関係だ。
王宮直属の兵士と、金さえあれば誰にでも雇われるゴロツキの兵士。
国民の印象はそんなものだが、実際にお互いの仲も悪く、力を合わせて仕事をすることは滅多にない。ぬくぬくと育てられた貴族のおぼっちゃんたちとは、まず話が合わないと思っている。
「ハルマサ、お前が近衛士を統率してるのか?」
「いや?リバルっていう隊長がいるんだけど、ひよを追いかけて中に入ったっきり、2人とも帰ってこないんだよ」
その名前を聞いて反応したのは、おれだけではなかった。
「フィオがいるの……?」
アビーが聞くと、ハルマサは「いるよ?いるけどさ……」と含みのある調子で言った。
「もうなんか、疲れちゃったよね。
人の話、全然聞かないし。守ろうと思ってるのに、すぐそばを離れるし。
こっちのこと、全然信用してないんだろうね。
ひとりで暗闇に突っ走っていって、その行動が彼女の人生そのものだよね」
「この奥に入ったのか?」
「そうだよ。盗賊が来たと思った瞬間、ひとりで行ってしまったんだよ。きっとおれたちのことを考えてのことだとは思うけど……それでも、自分勝手すぎるよね。
あーあ、もう心配するのも面倒くさいや。
ひよに会ったら、おれは激おこプンプン丸だって伝えといてくれる?」
のんきに焚き火にあたるハルマサは、もうひよを呼びに行くつもりもないらしい。
この暗闇の中を、ひとりで……何を考えているんだ。
穴があって落ちたり、中から魔物が出てくることもあるかもしれない。パニックになった隊商と、まったく同じ行動をしている。
お前が、こんなところで命を落とすなら……おれが身を引いた理由がわからない。
大人しく、ハルマサに守られていたほうが安心だった。
おれは岩肌に触れると、アウルフォウルの気配を感じて、家系能力を発動した。
その瞬間、洞窟の中に青い光が広がって、奥の方まで見渡せるようになった。
近衛士も、護衛士も、みんな声を合わせて「おぉーー!!」と感嘆している。
「……いない」
「あーあ、穴にでも落ちたんじゃね?
あーめんどくさい。おれは暇つぶしにもらったお手紙読んどくから、みんな助けに行ってあげてよ」
「行くのは、おれだけでいい。
全員待機。現状を把握してから、必要があったら呼ぶ」
おれの指示に、護衛士だけでなく、なぜか近衛士たちも素直にうなずいた。
自分の頭で考えて行動できないお坊ちゃんたちの集まり。
そして強情を張っているハルマサを置いて、おれは洞窟の奥に走った。




