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異世界召喚〜わたしを召喚したのはだれ!?〜  作者: RUNA
第3章 聖女としての役目
39/51

37,取引

 いつの間にか眠ってしまったらしい。

 目が覚めると、すでに窓の外は日が落ちていた。


 先輩と話してて……そうだ。大事な話をしていたのに、とてつもなく眠たくなって……途中で寝てしまった。


 わたしは重たい体を起こして、廊下に出た。

 頭と下腹部が痛い……吐き気もする。


 そういえば、元の世界ではずっと婦人科でもらった薬を飲んでいたのに、それが止まってしまったから……久しぶりに、重たい生理が来てしまった。


 夜は、召使いの人たちも休んでいるらしい。廊下には誰もおらず、わたしは暗闇の中、壁を伝った。


 体が重いと、心まで重くなる。

 先輩と話していた内容を思い出しながら、明かりを求めて歩いた。


 今日は晴れていたはずなのに、外が真っ暗だ。

 窓から空を見上げると、月明かりはなく、無数の星々が光っているだけだった。


 もしかして……ちょうど朔日なのかな。

 月がちょうど、地球の影に隠れて見えない日。これから月が満ちる、はじまりの日。


 わたしの、今置かれている状況とは、相反する。



 どうして……わたしの恋愛は上手くいかないんだろう。


 人を好きになっても、諦めなければいけないことばかり。

 この世界に居続ければ……わたしはやがて、石像になるらしい。


 ハーシーのお母さんのように、人の傷をたくさん治してしまうと、だんだんと体が石化していく。

 その原因は分かっていないけれど、石像になった聖女は、次の聖女が現れれば、解放されるらしい。


 わたしが石像になれば、ハーシーのお母さん、フローラ様は元に戻る。

 けれどリバティ公爵も、それを望んでいるわけではないらしい。


 なんとか、新しい聖女が石像にならず、フローラ様を元に戻せるような方法を探してくれている。でもそう簡単に見つかるわけじゃない。


 だから公爵は、わたしが早く力を使い果たしてしまわないように、攫おうとしたのだという。


 そして、聖女が石像に変わってしまうのは……召喚者が、聖女をこの世界に留めてしまうからだという。


 フローラ様も、リバティ公爵に召喚された聖女だった。

 彼女は召喚者であるリバティ公爵と結ばれ、2人の子を成し、育てている途中で……その力を使い果たし、石像になってしまった。


 この国では、聖女が召喚されること自体が珍しく、フローラ様の前に石像だった聖女は、いつの時代の人なのか分からないまま、人間に戻ってすぐ息を引き取ったらしい。


 だから文献にも残っていないし、どうして石像になってしまうのか、その原因の究明も難しい。


 ただ、一つだけ確かなのは……聖女が存在している間は、この国の人達が、魔法を使えるようになるということ。


 それは石像になっても変わらず、魔法の力の根源として崇め奉られるのだという。


『聖女の存在は、魔法の力の源……。

 それがなくなれば、だれも魔力を使うことはできなくなり、この国のバランスは崩れる。

 この国を守っている王の結界が破れて、外にいる怪物や魔物が、わんさか襲ってくることになるしい』


 先輩は、公爵から聞いたのだというその話を、真剣に語ってくれた。



 わたしが帰ってしまっても、フローラ様の石像がある限り、魔法はなくならない。


 けれど、フローラ様を召喚したリバティ公爵が亡くなってしまったら……いつかまた聖女がこの国に召喚されて、石像になった時、解放されたフローラ様はすぐに息を引き取る。


 家族と会えないまま……これまで生きてきた想いを、何も残せないまま。



 もし今、わたしが石像になれば……フローラ様は目を覚ますだろう。そうすれば、リバティ公爵も、ハーシーを許せる日が来るかもしれない。


 物心ついた時から、自分のことを孤児だと思っていたハーシーも……本当の家族のもとに戻れるかもしれない。


 わたしが元の世界に帰るより、そのほうが、ハーシーを幸せにしてあげられる。


 それが、わたしなりにできる、精一杯の愛し方だと思う。


 どうせ帰って、またこの世界に戻ってこれたとしても、石像になってしまうと分かれば、ハーシーはもう召喚してくれないだろう。


 それなら……あと半月。

 この世界にいる間に、石像になろう。


 ……もう、恋を諦めるのはやめた。

 たとえ、一緒には生きられなくても……ハーシーにずっと見つめてもらえるなら、石像になるのも悪くない。


 そう思えるほどに……わたしは、ハーシーのことを好きになってしまっている。


「……体が冷えますよ」


 物思いにふけっていたわたしに、暗闇から誰かが声をかけてきた。

 わたしが振り返ると、物陰に隠れるように、リバティ公爵が立っていた。


「……なんで隠れてるんですか?」


「わたしは……あなたに嫌われてしまったので、もう会わない方がいいかと」


 そういえば、この屋敷に来てから彼が姿を見せることはなかった。公爵家なのに……わたしがあんなに怒ったから、気を遣って出てこれなかったのかな。


 案外気にしいなところ、ハーシーにそっくり。

 冷たい態度と裏腹に、実はメンタルが弱そうなところも。


「……公爵様。取引しませんか?」


 わたしは、冷静な声で言った。


「……取引?」


「はい。公爵様は、フローラ様に、もう一度会いたいんですよね」


 わたしの問いに、彼は固唾を飲んだ。


「に、人間に戻す方法が……!?」


「はい、分かりました。夢で見たんです……フローラ様が傷を治した以上に、聖女であるわたしが善い行いをすれば、フローラ様を人間に戻すことができると」


 その言葉に、彼は膝から崩れ落ちた。


「そ、それは……本当ですか……?」


「はい」


 長所と短所は、紙一重という。

 自分を守るために、25年間生きてきて培った言葉の巧みさを、武器にしてしまうなんて。


 真っ赤な大嘘つきでも、こういう時は、騙せてしまうんだ……。

 それでも、彼にとっては好都合に違いない。


「そ、それで、取引とは……」


「もし、フローラ様を人間に戻すことができたら……ハーシーを、元の家族に戻してあげてください」


 その言葉に、リバティ公爵は目を見開いた。


「だが……ハーシーが、それは望まないだろう」


「彼が望んでいなくても……家族として、ちゃんと大事にしてあげてください。

 それが、この取引の条件です」


「わ、分かった……できることなら、何でもしよう。あなたの望むようにしてくれ」


 リバティ公爵は両手を握り、わたしを懇願するような目で見て言った。

 たとえハッタリでも……今のわたしは最高に、聖女らしくできているのではないかと思った。



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