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異世界召喚〜わたしを召喚したのはだれ!?〜  作者: RUNA
第3章 聖女としての役目
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【閑話2】聖女の真実

 年老いたメイドの暴露に、おれは呆然とした。

 聞いてもないことを、ベラベラと喋ってくれる……だが、彼女が嘘をついているとも思えなかった。


「新しい聖女が……身代わり……?」


「えぇ。公爵様は、そう言われていましたよ。

 だから、その聖女様をさらいにきた者には、絶対に居場所を教えないようにと、釘を刺されております」


「あの、メイド長……その方がまさしく、攫いに来た方なのでは……!」


 おろおろとするだけの、若いメイド達。口の軽いメイド長。この公爵家は大丈夫かと、頭を抱えたくなる……よく今まで、強盗に襲われず無事でいられたな。


「ぼっちゃま、せっかく来られたんですから、お母様の石像に花でも添えていかれてください。

 公爵様は、毎日欠かさず添えられているんですよ」


「……おれの母は……本当に、おれをかばって……石像になったのか?」


「えぇ、えぇ。傷を治しすぎると、聖女様は石になってしまうみたいですねぇ。

 1歳でつかまり立ちをしたかと思ったら、あっという間に動けるようになって。

 2、3歳の頃のあなたは、本当にヤンチャでしたよ……公爵様が怒っても、たしなめても、屋敷中を動き回り、わたしたちメイドも追いつけないくらいで。

 傷ばかり作られていたのを、奥様が隠れて治されていたんですね。公爵様が止めても、奥様は聞かずに、それはそれは毎日夫婦喧嘩で……」


 メイド長は、喋りながら流れるようにお茶を汲み、おれの近くのテーブルに置いてきた。


「お茶をしている時間はない……早く、聖女のもとへ案内しろ」


 若いメイドにそう言うと、老婆はぴたりと話すのを止めた。


「……公爵様に、言われているんですよ。新しい聖女様には、誰にも近づけないようにと」


 老婆が、まっすぐにおれを視界にとらえた。その瞬間、危機を察しておれは指笛を吹こうとした。


 しかし魔法で、その動きを止められて、おれは手足を拘束された。

 なるほど……今までのは演技だったのか。

 熟練の魔法使いだからこそ、公爵はこの老婆をメイド長にしているのだろう。


「さて……どこまで話したでしょうか。

 そうそう、わたしはね、あなたの乳母だったのですよ。1歳でつかまり立ちをされて、3歳の頃は本当にヤンチャで……」


 演技……だったんだよな……?


「……め、メイド長……次の指示をください……!」


 おれを取り巻いて、おろおろしているメイドたちの声に、彼女はキリッと仕事人の顔になった。


「あなたたち、なにをぼーっとしてるの!曲者を拘束して、牢屋にぶちこみなさい!」

「……あんたたちも大変だな」


 おれの言葉に、メイドたちは苦笑いをしながら、おれを連行した。

 どうやら、この屋敷には、魔法を使える者は少ないらしい。あのメイド長の他に使えるのは、公爵くらいだろう。


 歩きながら、公爵家の屋敷の構造、部屋の数、召使いの数、すべてを観察した。


 目隠しもせず、おれを連れて歩いて……しかも、なぜかみんな、擦り寄ってくるように距離が近い。

 おれは、彼女たちに耳打ちするように言った。


「……聖女のいる部屋を、教えてくれたら……おれの屋敷にいる男前を紹介しよう。若くて、体も頑丈だ」

「……みなさん、ちょっとだけ寄り道しましょう!!」

「ちょっと……ちょっとだけですからね……前を通るだけですから……!!」


 彼女たちは目を輝かせて、ルートを変えた。


 ごめん。ディヴィスは男前だけど、歳いってるし、マスルはちょっと頭が弱い。

 唯一頭のキレるアパトはもう想い人がいるみたいだし、あとはむさ苦しいのばっかりだが、許してくれ。


 ある部屋を通った瞬間、扉が開いた。

 中から出てきたのは、ハルマサだった。彼と目が合った瞬間、心に火がついた。


 おれは魔法の縄を力技で引きちぎり、彼の喉元に向かって手を伸ばした。


 彼は危険を察して、その手を払い除けたが、おれの体当たりは防げなかった。

 ハルマサを扉ごと押し倒し、部屋の中に入ると、ベッドに横たわるひよの姿があった。


「ひよ……!!」


 駆けつけようとしたが、ハルマサがおれの胴体に足を絡みつけた。

 必死に行かすまいとする彼に、引き剥がそうとするおれは、脅すためにその顔を殴る仕草をとった。


「……殴れよ!どんなに殴られても、ひよは絶対に渡さない!!」


 その言葉に、おれは手を止めた。


「……ひよが、お前を選ぶって言うんなら……この国に残らせるくらいなら、刺し違えてもおれは、お前を殺してやる……!!」


 震える声で、ハルマサは言った。やがて涙が溢れ出てきて、彼が本気なのだと分かった。


「……この国にいたら……ひよは、石像になるのか?」


 静かな声で問うと、彼も静かに答えた。


「そうだ……聖女には、人の傷を治す力があるんだろう?

 だがその力も、万能じゃない……治すごとに、体への負担は残っていく。

 そうして、力を使い果たした時……お前の母親のように、石像になって、一生この国の守り神として、崇められることになる。

 聖女とは、そうやって受け継がれる存在なのだと聞いた」


 そんな話は、今まで聞いたこともない。けれど確かに……ひよは2度ほど、おれの傷を自分の体にうつして、治してくれた。

 そうして、うつすたびに……その身に傷を残している。


 もし、これからの人生を共にするなら……おれが怪我をするたびに、ひよはその傷を直そうとするだろう。


「……リバティ公爵は、ひよを身代わりにして、お前の母親を元の人間に戻そうとしている。

 お願いだ、その前に……ひよを、元の世界に戻してくれ」


 ハルマサは、おれの胸ぐらを掴んで、懇願するように泣いた。おれはそれを振り払うように起き上がると、彼の手を引いて起こした。


「……元の世界に帰れば、ひよは石像にならないのか」


「……たぶん。そもそも、おれたちの世界には聖女も、魔法もない。ひよだって、ただの普通の女の子だったんだ。

 辛い思いをしてきた子だから……彼女の人生が、そんなことで終わって欲しくない。

 例え、おれのものにはならなくても……幸せに笑ってくれていれば、それでいいんだ」


 その言葉で、本当にハルマサが、ひよのことを想っているのを感じた。

 分からないものだ……普段は、そんなふうに見えなかったのに。彼女に対して、こんなにも深い愛情を抱いていたのか。


「……完敗だ」


 おれは、薄ら笑を浮かべて言った。


「何も考えなく、ただそばに居て欲しいと思った……おれなんか、お前に適うはずもない 」


 おれは立ち上がったが、ひよの元へは近づかなかった。


「……満月の夜、契約を解除する日まで、ひよを守れるか」


 その言葉に、ハルマサはぽかんとおれを見上げていた。


「守れるかと聞いているんだ!!」


 おれの怒鳴り声に、ハルマサは「あ、あぁ……!!」と声を絞り出した。


「……公爵は、すぐにひよを石像にしようとは思っていない。聖女の力を借りて、フローラ様を元に戻せる方法を、色々試してみたいと言っていた」


「分かった。もし無理にでも、公爵がひよを石像にしようとしたら、この笛を吹け。

 この笛を鳴らしたら、おれたち護衛士は、どんなに遠くにいても聞こえるようになっている」


 おれは首に下げていた笛を、ハルマサに渡した。

 それは、任務で命が危なくなった時、ほかの護衛士に危機を知らせる笛だ。


「……どうして……身を引くんだ?

 お前、ひよに好かれてるだろ……」


 その虚しい問いを無視して、おれはもうひよの顔を見ずに、部屋を出た。

 メイドたちは唖然として、声も上げずおれの姿を見送った。



「……あれ? フィオちゃんは?」


 アパトのもとに戻ったおれは、怪訝な顔をしている彼にこう答えた。


「……ひよは、おれの元にいるべきじゃない」


「……え? フィオちゃんがそう言ったの?

 ねぇまさか、身を引いてきただなんて言わないよね?」


「この世界にいたら……ひよは聖女の力を使うほどに、石像になってしまうんだ」


 アパトには、包み隠さずすべて説明した。優しい彼は、涙を流しながら、最後までおれの話を聞いていた。


「……帰ろう」


 彼の髪をぐしゃぐしゃに撫でて、おれはアパトを立ち上がらせた。


 もう、日が沈んでいた。

 その薄明を頼りに、おれたちは森の中に身を投じ、帰路についた。



 護衛士館に戻ると、その門の前で、子供たちが座って待っていた。


「……何をしている?もう暗いぞ」


 おれとアパトが中に入ると、子供たちが駆け寄ってきた。


「フィオは!?フィオは、どこにいるんですか!?」


「……ひよは、聖女の仕事をするために、王宮にとどまることになった。

 だからもう、帰っては来ない」


 その言葉に、一番に声を上げたのはラッセルだった。


「そんなっ……も、もう、会えないんですか……?」


「あぁ……」


「違うよ、ラッセル。

 会えないんじゃない……会わないんだ。

 彼女はここにいると、聖女の力を使いすぎて、石像になってしまうから」


 アパトの言葉に、おれは驚いて彼の顔を見た。彼は泣き腫らした目で、おれを真っ直ぐに見て言った。


「フィオちゃん、言ってたじゃん。

 嘘をついてたら、信用されない大人になるって。大人が子供に正直じゃなくて、どうするんだよ」


 確かに……ひよは、そう言っていた。

 膝を折って、子供たちに真剣に話す彼を、おれは止められなかった。


「いい?これはみんなことを、家族と思って打ち明けるからね」


 子供たちは、真剣にアパトの話を聞いていた。

 こういう話を、子供たちに進んでするやつじゃなかったのに……ひよに感化されたんだろうか。


 子供たちの「石像ってなに?」「ひよはどこから来たの?」という質問攻めにも、丁寧に答えている。


 突然、ずっと黙っていたアビーが、泣き始めた。それも尋常じゃなく、大きな声を上げて泣き崩れた。


 それにつられるように、子どもたちがいっせいに泣き始めた。

 どうして……1週間ほどしかいなかったのに、子供たちの心に、こんなにひよの存在が住み着いていたのか。


 もともと、別れや辛い境遇を体験して、ここに来た子ども達だ。共感する力がこんなにあることを、初めて知った。


「……ハーシー様は、悲しくないんですか」


 ラッセルが、顔を上げずに言った。

 おれはもはや、悲しいという感覚が遠い。心が麻痺しているのかもしれない。


「……朝は、あんなに……2人で並んで、幸せそうだったのに……」


 その言葉に、ぽろりと涙が溢れ出した。

 子供たちの前で、今まで泣いたことなどなかったのに……ラッセルの言葉が、無理やりおれの心を引き戻そうとしている。


「ぼくたち、みんなで話してました……ハーシー様が、ぼくらのお父さんなら、フィオさんが、お母さんになってくれたらいいのにって……」


 お父さん……子供たちはおれを、そんなふうに思ってくれていたのか。

 おれは、力なく地面に座り込んだ。


「……おれはずっと、ここから逃げ出したいと思っていた。

 団長に抜擢されて、したくもない仕事を無理やりして、お前たちや仲間の生活を守って……ずっと損をしていると思っていた。

 ひよに、アビーのことを、ちゃんと考えてくださいと言われた。アビーは、ただ1人の女の子だから……彼女の言っていることは、正論だった……それなのに、真っ直ぐ聞き入れられなかった。

 余所者が、首を突っ込むなと言ってしまった。みんなのために、たくさん尽くしてくれたのに……他にもたくさん、彼女に意地悪なことを言った……」


 うつむいて、ぼろぼろと涙を流すおれを、ラッセルが細い腕で抱きしめてきた。


「満月の日に、また会えるんですよね……?

 その時、たくさんのお花を持って、ひよにありがとうって伝えましょう」


「ん……」


 その言葉に、おれはうなずいた。

 すると子供たちが、次々とおれの周りにやって来て、抱きしめてきた。


 当たりが真っ暗になり、心配して外に出てきた護衛士たちは何があったのかと、おれたちの姿を見まじまじと見つめていた。



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