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異世界召喚〜わたしを召喚したのはだれ!?〜  作者: RUNA
第3章 聖女としての役目
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【閑話1】救出

 ひよが石像に触れた瞬間。

 それは、まばたきの間に起きた出来事だった。


 彼女の姿が消えて、おれは呆然とした。

 ほのかに、魔法の力を感じる……どこかに転移されてしまったのか!?


「……ひよは、どこに行った!!」


 おれは、アレクサンドルに向かって言った。

 彼女も驚いたような顔をしていたが、自分よりは冷静だった。


「……石像に、罠が仕掛けられてたのね」

「罠!?」

「えぇ……おそらく、お父様よ」


 それを聞いて、心がしんと冷えた。

 助けに行かなければ。おれは踵を返して、聖堂を出た。


 おれは急いで、外に待機していた護衛士仲間たちと合流した。


「帰るぞ」


「え? フィオちゃんは?」


 アパトの言葉に、おれは何事も無かったように言った。


「……聖女として、王宮でやるべきことがあるらしい。おれたちは、いったん護衛士館に帰る」


「そうか、よかった!早く帰って、あのご飯食べたかったんだよ」


 嬉しそうにマスルが、馬車に積まれた手土産を見て言った。だけどアパトは、まだ納得していないようだった。


 彼は昔から、勘が鋭い……おれたちに何かがあったことを、きっと察知しているけれど、何も言わずにいてくれた。


 護衛士館へは、馬車に乗るより、走って帰った方が早い。馬車は、命懸けで手土産を守ってくれそうなマスルに任せて、おれは走り出した。


「……なんでそんなに、急いでるのか知らないけどさ」


 アパトが隣を併走しながら言った。


「なにかあるんだったら、ちゃんと頼ってよ。おれたち、家族なんだからさ」


 その言葉に、おれはうなずくことしかできなかった。



 でもあそこへは、おれ一人で行かなければならない。

 おれのことを嫌っている、あの父の元へ。


 なるべくなら会いたくない。

 会うたびに嫌味を言ってくるし、そのたびに罪を犯しそうになる。


 人として、未来の護衛士を育てる者として、踏み外してはいけない道を、踏み外してしまう……人を守るための剣を、武器に変えてしまう。


 そんなこと、本望ではないとわかっているのに……あの男の前では足がすくみ、何も言い返せなくなる。


 本心は、きっと違うんじゃないか。次には、優しい言葉をかけてくれるんじゃないか。

 そんな期待は叶わず、今日に至る。


 誰も、あの男にたてつく者などいなかった。

 公爵家を敵に回したらどうなるか……それは王家でさえ、緊張が走るところだ。


 それでも、ひよは言ってくれた。

 彼女が、その損益の外側にいる人間だとしても。


 おれが言いたくても、言葉にならなかった想いを、すべてぶつけてくれた。



 出会ってすぐ、彼女はラッセルが、重たい水を運んでいることを気にしていた。

 確かに、体力のないラッセルにはきつい作業だ。でも慣れれば、いつかは体力がつくものだと思っていた。


 だが、ひよに言われて、いっこうにラッセルの体力は、護衛士見習いの仕事に追いついていないのだと気がついた。

 人にはそれぞれ、向き不向きがある。


 子供たちの輪に入ろうとせず、ずっと花いじりをしているラッセルを見て、怠け者だと罵る者もいたが……。


 ひよが作った台車を、ラッセルはおれのところにも、嬉しそうに見せにきてくれた。「みんなみたいに力は無いけど、ぼく、これで頑張れます」と笑った。

 あんなこと、今までなかった。



 厨房で、子供たちが嘘をついたときも。

 嘘をつくということはどういうことか、冷静に諭していた。


 子供たちが大人になった時、どういう人になって欲しいか……おれが言えないことまで、ひよは言葉にしてくれた。


 子供たちの気持ちに寄り添える、優しい人だから……辛い思いをしている人を、見過ごせない人だから、好きになった。


 自分の子供時代にも、ひよのような人がいてほしかった。

 そうしていつの間にか、おれのことも見て欲しいと思うようになり……元の世界に帰りたがっている彼女に、気持ちをさらけ出してしまった。


 今日帰ったら、いっぱい頭を撫でて、独り占めして、2人きりの時間を過ごして……。


 頭の中で、ガラガラと音を立てるように、その予定が崩れていく。

 おれとひよを引き離したこと、絶対に許さない。



 護衛士館に着くと、おれは式典用のタキシードを脱いだ。そうしてすぐに、戦闘服に身を包んだ。


 こちらの方が落ち着く。貴族という身分より、おれは裏で暗躍するほうが似合ってる。


 仕事でもなんでもない。命じられて戦うわけじゃない……自分の意思で、ひよを取り戻しに行くんだ。

 そう思うと、心に活気が湧いてくる。


 外から、子供たちの声が聞こえてきた。

 馬車が戻ってきて、王宮の食事が食べられることに喜んでいるんだろう。

 その食卓に、ひよもいられるように……みんなが喜んでいる姿を、彼女にも見せられるように、必ず連れ戻す。


「……やっぱり、フィオちゃんは攫われたんだね?」


 団長室に入ってきたアパトが、おれの姿を見て言った。


「あぁ……おれ一人で助けに行く」


「どうして、こういう時頼ってくれないかな……」


「これは仕事じゃない。それにお前も、明日には仕事が入ってるだろ」


「……ハーシーの大事な人は、おれたちにとっても大事な人なんだよ」


 その言葉に、おれは足を止めた。

 ずっと、心配してくれていた。同じように親に捨てられ、ここで育てられて護衛士になるしかなかった彼も、心がやさぐれでもおかしくないのに。


 兄弟のように育ち、共に護衛士として働いてくれる彼らがあってこそ、おれはここまで生きてこられた。


 その場所を守るのが、おれの生きる意味だと……思わなければいけなかったのに、思えなかった。いつも逃げたかった。こんな人生、早く終わればいいと思っていた。


 一つだけ灯った、心の灯り。

 ひよがいて、愛し愛されて、一緒にこの場所を守っていけたら……それが叶うなら、おれはなんでもしよう。


「……リバティ公爵家に行く。ついてきてくれるか」


「うん、いいよ」


 おれの胸あたりまでしかない、小柄な体格のアパト。彼は嬉しそうな表情をして、こぶしでおれの胸を突いてきた。



 リバティ公爵家に着くと、あっという間に夕方の鐘が鳴った。

 おれたちは、近くの木に登り、遠巻きに公爵家を観察した。


「……広いね。これじゃ、探すのも大変だ

 どうする?左右でわかれて探す?」


「いや、お前はここで待機してくれ。何かあったら指笛を吹くから、応援に来てくれ。

 もし、おれが帰らなかったら……その時は、お前が伯爵家を継ぐといい」


「えっ、やだよー。

 おれハーシーみたいに仕事人間じゃないからさ。団長とかムリムリ。

 それより、エミリアちゃんをデートに誘えるかで頭がいっぱいなんだよね」


 アパトは、冗談交じりでそう言った。そういえば、あの衣装屋のエミリアと仲良かったな……片思いだったのか。


「そうか。うまくいくといいな」


「ハーシーもね。ぜったい、フィオちゃんを離さないんだよ。じゃないと君、一生結婚しなさそうだから」


 その言葉に、苦笑いした。

 木を伝い、おれは公爵家の敷地に降り立った。


 使用人の入口から、堂々と中に入ったおれは、若いメイドに声を上げられそうになって、彼女の首に短剣を突き立てた。


「聖女の居場所を教えろ。騒げば、この屋敷が血の海になる」


 俺の脅しに青ざめ、メイドたちは震えて、誰も動けずにいた。

 だが一人、年老いたメイドが、前にあゆみ出てきた。


「……あなた、ハーシーおぼっちゃまですか……?」


「気持ち悪い敬称をつけるな。聞いたことだけ話せ」


 耳が遠いのだろうか。彼女はおれの言葉など意に介さず、そのまま話し続けた。


「まぁ……ご立派に成長なさいましたね。わたくし、あなたの乳母をしていたんですよ。

 まあまあ、昔の公爵様にそっくりで……本当に男前でいらっしゃいますね。

 あの時の赤ちゃんが……まあまあ、ご立派に成長なされて……わたくし、あなたの乳母をしていたんですよ」


「あの、メイド長は……話が二巡も三巡もするので、わたくしがご案内します……」


 人質にとられているメイドが、どこか諦めたような声でそう言った。おれは、メイドたちに敵意がないことを悟って、短剣を引いた。


「ぼけているのに……なんでおれのことが分かった……?」


「昔のことはね、よく覚えていますよ。最近のことは、すぐ忘れてしまいますけどね、ホホホ。

 奥様が、石像になってしまわれなかったら、今頃あなたは、公爵家をお継ぎになっていたでしょうに……」


「め、メイド長、それは言わない決まりなのでは……!」


 おれは、老婆の肩を掴んで言った。


「それは……おれの母親の話か?」


「えぇ、えぇ……あなた様の命を守るために、奥様は聖女としての力を使い果たし、石像になってしまったのですよ」


「め、メイド長……!そんなにサラッと言っていいでんすか……!?」


 おろおろしているメイドたちをよそに、その老婆はにこにこして、固まっているおれの手を握った。


「……でも、良かったですね。新しい聖女様がいらっしゃって。身代わりになってくださる方がいれば、きっと奥様は解放されますよ」



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