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異世界召喚〜わたしを召喚したのはだれ!?〜  作者: RUNA
第3章 聖女としての役目
36/51

36,女の子の日

 朝から、なんとなく感じていた気だるさ。

 ここのところ、浮き沈みしがちなメンタル。


 あぁ……きちゃった。女の子の日が。

 なんとかまだ少量だったから、ドレスには影響してなくて良かった。


 わたしは、今初めて話しかける人に「あの……生理になったんですけど……」と言わなくてはいけなくて、すごく恥ずかしかったけど、言わずにはおけない。


「まぁまぁ、お顔が真っ青じゃありませんか。大丈夫ですよ、このメイド長にお任せくださいね」


そう言ったのは、リバティ公爵家のメイド長らしい。くるくるの巻き毛で、わたしの胸あたりまでしか身長がない、小さいおばあちゃんだ。


メイド長は、ささっと着替えなどを準備してくれているあいだ、ひっきりなしに話しかけてくれた。


「あなたが急に現れたんで、侵入者かと思ってビックリしましたけれども、おぼっちゃんのお客さまなら安心しましたよ。

あらま、あなた、お顔が真っ青じゃありませんか」


このおばあちゃん、何度も私の顔を見て、同じことを言ってくる……でも、悪い人じゃなさそうだ。

わたしは必死に笑いを堪えながら、メイド長の言うとおりにした。



 用を済まし、廊下に出ると……案の定、先輩が待ち構えていた。


「確保〜」


 彼は、そう言ってわたしの手を掴んできた。


「あの……捕まるのは仕方ないんですけど……」

「うん?」

「女の子の日になっちゃって……ちょっと、気分悪くなってきて……」


 そう言った瞬間、彼は真面目な顔をして「ほんとだ、顔が青いね」と心配してくれた。


 頭の血が下がっているのだろう。抵抗する気力もなく、わたしは手を引かれ、ベッドの上に寝かされた。


 メイド長が、小さな体で毛布を持ってきてくれて、私のお腹にかけてくれた。


「あたたかいお飲み物は?」

「……飲みたいです」

「かしこまりました。あらまぁ、お顔が真っ青」


 わたしは先輩に、「あの人、さっきから同じこと言ってる……」と囁くと、彼も笑いを堪えながら「可愛いおばあちゃんだよね」と言った。


横になると、お腹のズキズキと倦怠感がすごい。

 聖女お披露目の式典で、今まで気を張りすぎていたのかな……まったく意識してなかったけど、だいぶ疲労が溜まっていたみたいだ。


「温かい飲み物でございます」

「飲める?」


 わたしは半身を起こし、メイド長が持つお盆から、コップを受け取った。

 それは、香りの良い紅茶だった。ひとくち飲むと、甘さが口に広がって癒された。


「……おいしい……」

「えぇえぇ。こちらは、公爵様もお気に入りの紅茶でございますのよ」

「公爵……公爵って、あの……?」

「そう。君が大癇癪を起こした相手だよ。近くで聞いていたけど、君がキレた姿をなかなか見ることがないから、面白かったよ」

「……」


 わたしは、紅茶を全部飲みきった。

 頭がぼーっとしてきた。疲れているのかな……いまにも眠ってしまいそうだ。


「……ほんとに、ハーシーと恋人になったの?」


 先輩が、優しい手つきで、頭を撫でてきた。

 

 思えばずっと、高校の時から気にかけてくれていて、大事にしてくれていたなぁ……だからつい甘えて、試験勉強のノートを写させてもらったり、傘を忘れた日に入れてもらったりしていた。


「きみが、ずっと大悟さんのこと、好きだって言ってたから……叶わない恋は諦めて、振り向いてもらえるまで、待っていたのに……」


 手をぎゅっと握られた。その手の温もりに、つい口を滑らせてしまった。


「……恋人にはなってないよ。ごめんね、嘘ついて……」

「……そう、よかった」


 わたし、無意識に……彼の心をもてあそんでしまっていたのかな。


 色んな人と付き合っては、すぐに別れ……あの不可解な行動は、わたしへの気持ちを、必死に殺そうとしていたのかな。


「一緒に帰ろう……別に、おれと付き合わなくてもいいよ。きみが安全なところで、幸せに生きてくれていたら……先輩後輩のままでも、充分なんだ」


 先輩の言葉に、わたしは心を打たれた。


 少し前のハーシーを思い出した。冷たくされていた時はしんどかった……でもそれが、彼なりのアピールだったのかな。


 元の世界に戻る方法を知っていて、あえて言わないってわざわざ言うのは、意地悪だった。

 それでパニックになったわたしに、剣をもたせて……よけいパニックにさせた。


 彼への気持ちは……本当に愛だったのかな。

 可哀想。そういう気持ちがあったことは、たしかに否定できない。


「わたし、ハーシーへの気持ちが、まだ正直わからない……でも、こんな状態で、先輩の気持ちに応えることもできなくて……」

「うん、いいよ。分かってる。

 顔が好みなんだろう?」


 真理をつくように、先輩は薄笑いをして言った。


「きみの推し、金髪碧眼ばかりだったもんね」

「……はい」

「推しは、遠くから眺めるのがいちばんじゃない?」


 そう言って、彼はポケットから、あるものを取り出した。わたしは、この世界にあってはならないはずのものに、心底びっくりした。


「スマホ……!!」


「これで、彼を撮っておきなよ。

 そうしたら、向こうに帰ってからもずっと眺められるだろ?おれ、そういうの別に止めないからさ……束縛もしないし。

 この世界にいる間は、彼のところにいるといいよ。でも、満月の夜に、ここから帰れたら……きみはもう、この世界に戻ってきちゃいけない」


「どうして……?」


 わたしが尋ねると、彼は、わたしの頬を撫でるように触ってきた。


「聖女に選ばれた君が、ずっとここにいたら……石像になってしまうらしい。

 あの部屋にあった、美しい石像のように」



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