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異世界召喚〜わたしを召喚したのはだれ!?〜  作者: RUNA
第3章 聖女としての役目
33/51

33,幼なじみ

 ハーシーは、わたしを抱き上げたまま、足早に王宮を出ようとした。

 けれど外から、強い雨音が聞こえてくる。


 ロビーに来ると、たくさんの馬車を引く御者のひとたちが、屋根の下に避難しに来ていた。


 こんな状況では……誰もこの大雨の中で、馬車を動かしたくないだろう。


「雷雲もある……今は、出ない方がいい」


 頭上の空を覆うように、暗雲がたちこめている。

 護衛士の一人、ガタイがよく一番背が高いマスルさんの言葉に、ハーシーはため息をついた。


「……くそ。こんな時に限って……」

「雨が小降りになるまで待とう。さすがにこの中に出ていったら、すぐにびしょ濡れになっちゃうよ」


 また護衛士の一人、まだあどけなさが残るが実は同い年くらいの、アパトさんが言った。


「だが……また何か、仕掛けてくるかもしれない。まさかハルマサが、あいつに召喚されただなんて……」


 ハーシーは、わたしを支える手にぎゅっと力を入れた。


「……絶対、渡さない……死んでもあいつの嫁になんかさせない……!」


 彼は、わたしの耳元でささやくように言った。

 その言葉で、よけいに涙腺がゆるんだ。


 今はもう、泣きじゃくりすぎて上手く喋れないし……こういうのは、勢いで言うものじゃないとは分かっているけど。


 わたし、本気でハーシーのお嫁さんになりたい……好きすぎる。どこが好きってもう、全部が好き。


 彼がたとえ、元々男性が好きだったとしても……大切にしてくれてる今だって、変わりない事実だ。


 それに……よく考えたら、今までそんな素振りは一度もなかった。

 男性が好きなら、もう少し距離感近いと思うけど……他の護衛士さんたちと近すぎることも、恋仲になるような雰囲気も、一切なかった。


 家族として一緒に暮らしながらも、上司と部下として、みんな適度な距離感を保っていた。

 王様とも、親しい感じではあったけど……話している雰囲気は、もともと友人であったかのようだった。


 元の世界での、平均的な身長体重をしているわたしを、ずっと降ろさずに抱き上げている……こんなに強くなるまで、今まで、どれほど頑張ってきたか知れないのに。


 なんで、あんなふうに言われなくちゃならないの……面と向かって、どうして人が傷つくことを言えるの。

 あんなことを言われていたら……心がやさぐれてしまうのも当然だ。


 わたしは、ハーシーをぎゅっと強い力で抱きしめた。


「……お願いだから、泣きやんでくれ」

「無理です……あと5時間くらい泣きます……」


 ハーシーは、私の頭を優しく撫でてくれた。


「この世界に来て……ひよには、辛い思いばかりさせてるな……」

「ハーシー……お取り込み中のところ、悪いんだけど」


 アパトさんが、控えめに声をかけてくれて、ハーシーは体の向きを変えた。

 わたしもちょっとだけ、顔を上げた。

 

 ロビーに出てきた人を見て、御者のひとたちが一斉に(ひざまず)いた。

 王様と王妃様が、まっすぐにこちらに歩いてくる。


「雨がすごいな」


 王様が、ハーシーの横に並んだ。他の護衛士さんたちも跪いているけど、ハーシーは立ったまま、わたしを離さない。


「……ひよは、護衛士館に連れて帰る」

「あぁ。そう言うと思ってたよ」


 王様は、わたしを見て静かに話し始めた。


「わたしは……若い頃、髪を伸ばしていてね。周りに女性だと偽り、護衛士館にいたんだ」


 わたしは顔を上げて、彼の話を聞いた。


「王族と知られる訳にはいかなかったから……肌を見せたら、王族の紋様がこの身に入っているから。

 決して風呂も、寝所も、ほかの護衛士とは一緒にしないように徹底していた」


「そうなんですね……」


 確かに、王様のこの綺麗な顔立ちなら、女性と言われても信じれるほどだ。

 今より若くて線が細くて、髪が長ければ、さらに疑われもしないだろう。


「……みんなには、心底気を遣わせていたと思う。

 そんな風に生きていたから……アレクサンドルの護衛に抜擢されてしまったし」


「そうなのよ。わたし昔は、男嫌いだったの。でも彼のことは、女性だと信じて疑わなかったのよ」


 王妃様も話に入ってきた。するとハーシーは、嫌悪(けんお)することなく「いつの間にかお前たちが恋仲になった時でさえ、女性同士か……と思ってたよ」と、まるで友人に話すように笑った。


 お父さんとはあんな感じだけど、王妃様とは普通に話せるんだ。良かった……兄妹の仲が悪くなくて。


「やがてわたしが王位を継ぐことになり、性別を明かすことになった。

 それと同時に、アレクサンドルと結婚して……だがその頃から、ハーシーの存在も、世に注目されるようになったんだ」


「そうしたら、女性だと思って優しくクラウスに接していた、ハーシーの態度が誤解されて……同性愛者なのではという噂が独り歩きしてしまったの。

 でもね、近しい人ほど、ちゃんとハーシーのこと、分かっているのよ」


 王妃様の言葉に、護衛士さんたちもうなずいた。

 わたしは、もう泣いてないよ、というふうにハーシーに目配せした。

 すると彼は、ゆっくりと足がつくように降ろしてくれた。


「良かったです……本当のことを知れて。

 わざわざ教えてくださって、ありがとうございます」


 王様と王妃様に、深々とお辞儀した。

 あの話をどこかで聞いていて、心配して、こうして追いかけてきてくれたんだろう。


 なんて温かい夫婦なんだろう……この2人の雰囲気、好きだな。

 恋仲になって結婚したと聞いたから、政略結婚ではなくて、恋愛結婚というのも推せる。



 王妃様が、わたしの手をとって言った。


「今日はこのあと、フィオを歓迎するパーティをする予定だったのだけど……どうする?」

「……ごめんなさい、……もう、顔もぐしょぐしょなので……今日はご辞退させていただきます……」


 わたしは、泣きすぎて腫れた目を隠すようにうつむいた。

 すると王妃様が、両手でわたしの顔を優しく包み込んだ。


「公爵にも、ほかの貴族にも、雨がやんだらもう帰ってもらうわ。だから、わたしたちだけでもパーティしない?

 美味しいご馳走がいっぱいあるのよ」

「ごちそう……」


 その瞬間、お腹がぐぅっと音を立てて鳴った。

 わたしは顔を真っ赤にした。すると、近くで吹き出す声が聞こえた。


 笑っているのは、ハーシーだ。

 彼は小刻みに肩を震わせて……私の失態がそんなにおかしかったのか、ツボってしまっているようだった。


 すると王妃様が、ぱぁっと生き生きした顔で言った。


「出たわね、ハーシーの笑い上戸!!」

「こうなったらこいつ、しばらく笑い続けるぞ」


 王様と王妃様が、イタズラな顔をして、ハーシーの顔をのぞきこんだり、くすぐったりとちょっかいをかけ始めた。


「やめっ……お前ら……!」


 笑いが止まらないハーシーは、顔を隠したままわたしの後ろに隠れた。

 すると左右から、面白がってハーシーをつつこうとする二人……耳を真っ赤にして、完全におもちゃにされてるハーシーが可愛い。


 ハーシーが笑い上戸だって、今まで知らなかった。

 わたしの知らない彼の一面が、まだまだきっと、いっぱいあるんだろうな。


 そんな、幼なじみのじゃれ合いを、わたしは幸せな気持ちで見つめていた。



満点評価入れてくださった方々、この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

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