31,聖女お披露目の儀式
控え室のドアをノックされ、わたしたちは立ち上がった。ついにきた……聖女お披露目の儀式の時間だ。
わたしはハーシーの腕に手を添え、護衛士さんたちに周りを囲まれながら、召使いさんの案内に従って進んだ。
もうすでに、たくさんの貴族が集まっているそうだけど、王宮はしんと静まり返っていた。
ハーシーはマントを脱いで、白いタキシードだけになった。わたしも白いドレスで……なにこれ、結婚式みたい……。
聖堂の扉が開かれた。
その瞬間、聖堂の両側に向き合うようにして立つ、たくさんの人々に驚いた。これがみんな、貴族の人たち……?
金髪や茶髪、私と同じ黒髪など、色んな髪の人がいて、瞳の色もそれぞれだけど、みんな西洋の顔をしている。
でもやっぱり、ハーシーほどのイケメンはなかなかいないみたいだ。
「護衛士の方々は、こちらでお待ちください」
召使いの人の言う通り、護衛士さんたちは入口の外で停まり、入ってこなかった。
わたしは、厳かな空気に圧倒された。
高い天井。正面の窓にはめられた、大きなステンドグラス。その前には、女神様のような像が置かれている。
あの像が、この世界の信仰対象なのだろうか……。
ステンドグラスから差し込む光に照らされて、きらきらと輝いて見える。
その石像のたもとに、王様と、一人の女性が立っている。
あの方が、きっと王妃様……ハーシーのように綺麗な金髪で、遠目からでも分かるほど、大きな瞳でこちらを見つめている。
「……ひよ、お辞儀だ」
ハーシーのささやき声に、わたしははっとした。
そういえば、控え室で練習したんだった。
ええと、まずドレスの両端をつまんで……。
右足をななめ後ろに下げて、背中を曲げないように腰をおろす。
わたしのお辞儀と合わせて、ハーシーも隣で、胸に手を当てて頭を下げていた。
「聖女フィオ。ジギス伯爵子息、こちらへ」
王様からのお呼びがかかり、わたしたちは元に戻って、前に歩みはじめた。
両側から、すごい視線を感じる……わたしは誰とも目を合わせないように、ひたすらにステンドグラスだけを見つめていた。
ハーシーが止まった場所で、わたしも止まった。
「はじめまして。わたしはアウル国王クラウスです。
聖女、フィオ。あなたは、ジギス伯爵家子息、ハーシーに召喚され、このアウル国にやってきた。
それで間違いありませんね?」
「はい、間違いありません」
とりあえず、王様に何を聞かれても「はい」と答えれば大丈夫と言われている。
すると今度は、王妃様が口を開いた。
「わたしはアウル国王妃、アレクサンドルです。
ハーシー・ジギス。
あなたは召喚の魔法を使い、見事、聖女フィオを召喚することに成功した。間違いありませんね?」
「はい、間違いありません」
ハーシーは、低く落ち着いた声で答えた。
すると、シスターのような黒い服を被った女性が、王妃様に近づいた。シスターが持つお盆の上には、一冊の本が置かれていた。
王妃様はそれを手に取り、わたしに目を向けた。
「……これは、今は女神となったフローラ様が聖女だった時代、後世の聖女のために書き記したものです。これを読んで、国のためにその力を使うことを、誓ってくださいますか?」
「……はい。微々たる力ではございますが、尽力いたします」
用意された言葉ではなかったけれど、王妃様は満足そうに微笑んでくれた。
そして近づいてきた彼女は、本を差し出してくれた。
うわぁ……近くで見ると、めちゃくちゃ美人だ。
波打つ金髪に、妖精の住む湖のような、青く澄んだ瞳。大きなその目は可愛らしい印象を受けるけれど、どこか王妃様たる威厳を感じる。
隣に立つ王様も、女性と言われても違和感ないほど、中性的な顔立ちで整っていて……絵になるなあ。
みんなから、わたしはどう見えているんだろう。
こう見えても25だけど……年より幼く見られている気がする。
わたしは、王妃様からその本を受け取った瞬間、彼女に耳打ちをされた。
「……お兄様を、よろしくね」
「……えっ?」
びっくりして顔を上げると、彼女は何も言わずに微笑んだ。そして後ろに下がり、また王様の横に並んだ。
「これにて、聖女お披露目の儀式を終了する。
このあと、歓迎のパーティを行う。
楽しんでいってくれ」
「……お辞儀するぞ」
ハーシーのささやきにまた助けられ、わたしは入った時とおなじお辞儀をした。
わたしたちが後ろを振り向き、聖堂を出ていこうとしたところで「お待ちください」という声がした。
すると、貴族の列の中から、一人の中年男性が前にあゆみ出てきた。
「実は……わたしも、召喚に成功いたしました」
その人はまた、ハーシーのように背が高くて、金髪碧眼……歳はとっているけど、端正な顔立ちだった。
「この場をお借りして、ご紹介させていただいてもよろしいでしょうか」
「……あぁ」
王様の許しを得て、彼は後ろから、1人の青年を前に押し出した。その人は……。
「せ、先輩……!」
明るい茶髪、もじゃもじゃのくるくるパーマに、日本人にしては大きな目鼻立ち。黙ってたらまぁイケメンだけど……。
「理方春政です。
27歳、趣味はピアノ。冬はスノボに行き、夏はフットサルで日焼けをします。
昔は剣道を嗜んでいたので、剣技の腕には自信があります」
「そうか……よく分からなかったが、よろしく」
うん、いかにも、喋ると残念なあの先輩だ。
荘厳な雰囲気がぶち壊しな上に、王様の塩対応に、わたしは吹き出しそうになって笑いをこらえた。
「わたしが召喚したのは、このとおり伝説の聖女ではなかったので……お恥ずかしながら、ご紹介に留めておきます。
お時間ありがとうございました」
中年の男性が頭を下げると、ハーシーは何事も無かったかのように、腕を引いて前に進んだ。
すると、男性や先輩が手を叩き始めた。それに合わせて、貴族たちも手を叩いた。
たくさんの拍手に包み込まれても、なんだか体の緊張は抜けなかった。
また真ん中の青い絨毯を歩き、わたしたちは聖堂をあとにした。




