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異世界召喚〜わたしを召喚したのはだれ!?〜  作者: RUNA
第3章 聖女としての役目
30/51

30,王宮への馬車

 ついに、わたしを召喚したのは、ハーシーだということが分かった。


 でも、同じタイミングでこの世界に来た先輩は……一体誰に召喚されたんだろう。




 わたしとハーシーが恋人になったと知って、怒ってどこかへ行ってしまった……。

 先輩は……なにがしたいんだろう。



「今日のお披露目会……荒れるかもしれないな」


 馬車の窓の外をぼうっと眺めていたわたしは、はっと物思いから冷めて、彼の顔を見た。


「……お披露目会って、何をするんでしょうか」


「貴族たちとの顔合わせだろう。その後、聖女としての役目を言い渡される。

 今後は、聖女としての力をつけていきながら、依頼された仕事があれば、していく形になるだろう」


 手元にある聖典を見下ろし、不安になった。わたしはまだ、ここに書かれていることの100分の1の能力も使えていない……聖女としての力が、安定していないのだと思う。


 聖女としての役目があるなら……ちゃんと人の役に立てるように、修行していかないといけない。


  黙り込んだわたしの手を、彼は優しく取って微笑んでくれた。


「大丈夫だ。おれが必ず、ひよのそばで守るよ」

「あ、ありがとう……」


 今までの彼からは考えられないほど、優しい……でも、甘えちゃいけない。ちゃんと話し合わないといけないことは、まだたくさんあるから。


「あの……いったん、元の世界に帰る話ですけど」


 その話をすると、やはりハーシーの顔が曇った。


「戻ってきてくれるんだろう……?」


「はい、それが叶うなら……。でも、わたしが元の世界に戻る方法は……本当に、ハーシーを殺すことしかないんですか?」


 ストレートにそう言うと、彼は吹き出して笑った。


 わたしが「だってそう言ってたじゃないですか……!」って怒ると、彼は「ごめん」と謝った。


「ひよが、元の世界に帰れるとしたら……あの日……召喚されてきた日と同じ、満月の夜だ」


「満月の夜……」


「あぁ。それはちょうど、この世界に来た日からひと月……召喚契約をとけば、元の世界に帰れると思う」


「その契約を、解いてしまったら……次はもうないんでしょうか……」


「分からない……何かクラウス王なら、知恵を貸してくれるかもしれない」


 わたしは、ハーシーの手をぎゅっと握った。


「わたしだって……ハーシーと離れ離れになりたいわけじゃないんです……。

 でも先輩の言う通り、このまま元の世界のことを放ったらかしで、この世界に居続けるのも……」


 うなだれたわたしの顔を、ハーシーは片手を使って、くいっと持ち上げてきた。


「もし、また戻ってこれたら……その時は不安なく、ここに笑顔でいられるんだろ?」


 その言葉に、わたしはうなずいた。

 ハーシーは、しばらく何かを考えて、沈黙していた。その後、静かに口を開いた。


「……じゃあ、君の思う通りにするといい。

 おれは信じて……ひよの帰りを待つよ」


 わたしから目線を外し、どこか虚ろな目の彼を見て、わたしは悟った。

 ああ、無理をしているんだろうな……心にない、優しい言葉が欲しいんじゃないのに。


 ぬかるんで、ぬかるんで。なかなか奥に辿り着けない。でもそこにはきっと、綺麗な湖が広がっている。

 もっと、彼の心の奥に触れたいな……。


「わたしね……嬉しかったんです……。

 護衛士の皆さんが、ハーシーに『おめでとう』って言ってくれてるのを見て……こんなわたしでも、いるのを喜んでくれる人たちがいて……幸せだなぁって思ったんです。

 だから、戻って来れないのは……本当に嫌で……」


 じわっと、涙が溢れてきた。

 するとハーシーが、さっとポケットからハンカチを出した。


「……そんなに泣いたら、メイクがとれる」


 ぽんぽんと、なるべくメイクがとれないように、彼は涙を拭ってくれた。


「……あの。いつから、わたしのこと、好きになったんですか?」


 つい、こんな質問が口から飛び出してしまった。なんか、SNSでエゴサしてしまったみたいで……恥ずかしさを感じる。


「……団長室を、掃除してくれたとき」


 彼は、静かに語り始めた。


「机の裏や、細かい窓枠まで掃除してくれていただろう。ふだん見えないから、別にしなくてもいいのに……。

 見えないところでも、きっちりしてるんだなと思って……さぞ、元いた世界の職場では、重宝されたんだろう。

 仕事をする上で、人が見えないところでもちゃんとしてる人は、一番信用できる人だと思っている」


 ハーシーが、こんな風に思っていただなんて……こんなに上手に、言葉で伝えてくれるなんて。

 わたしはしばらく、びっくりして固まっていた。


「えっと……なにか、気に触ったか……?」


「いえ……嬉しいです……ちゃんと見えもらえてたんだと思うと、嬉しすぎて……どんな顔をしていいか……嬉しいを通り越して、もはやぴえんです」


「ピエン……?」


 はっ、いけない。ハーシーに現代語を教えて、キャラ崩壊させてしまうところだった。


「わ、わたしも……!

 ハーシーは仕事に対してものすごく真面目で、周りの護衛士さを大事にしてて、見習いの子たちからも慕われてて……そういうところが、とても好印象でした」


「……そうか」


 穏やかに微笑むハーシー。

 それを見て、愛しさが爆発しそうだった。

 今なら自費で、花火を2000発打ち上げたいくらいだ。(借金しないといけなくなるけど)


 わたしは、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。馬車の外には、四方八方に護衛士さんたちがいて、王宮までの道のりを護衛してくれている。


 みんなが仕事をしている中、自分たちだけイチャつくなんて……みんないい気はしないだろう。


 それなのに、目をつむった瞬間……ハーシーの顔が、わたしの顔の間近にきている。


「ちょっ……な、何してるんですか!?」

「……だめ?」

「い、今は……馬車の外から、見えるかもしれないのでだめです……!!」

「じゃあ、こうしよう」


 ハーシーは、薄いコートの裾をまくりあげて、わたしの頭にかぶせた。


 確かに、見られはしないけど……何をしているのか、不審に思われないかな……。


 断る隙もなく、ハーシーの手がくいっと顎をつまんできた。わたしが目をつぶると、彼の吐息を肌で感じるくらい、顔を寄せられて……。


「あのー……お二人さん。

 もう、王宮に着きましたけど……」


 外から声をかけられて、わたしはとっさにコートを振り払い、「はいっ、すみません!!」と叫び、外に飛び出した。



 その瞬間、護衛士さんたちに周りを囲まれて「急に飛び出さないでください……」とたしなめられた。


「もう少し、ゆっくり走ってくれて良かったんだが」

「バカ言えよ……どんだけ時間稼いでやったと思ってんだ。感謝しろよ」


 後ろでハーシーと護衛士さんが話しているのを聞きながら、わたしは真っ赤な顔を鎮めようと、また深呼吸をした。



 ひとりの兵士が、わたしたちに近づいてきた。


「聖女フィオ様。ジギス伯爵家ハーシー様。お待ちしておりました。これより、控え室へご案内いたします」

「他の貴族たちは?」

「あとで参ります。鉢合わないよう、時間をわけておりますので」


 ハーシーは、どこかほっとしたような顔をした。わたしも良かったと思った。きっと他の貴族のご令嬢がたくさんいたら、彼が取り囲まれて大変だったろう。


 彼はわたしの横に来て、腕を差し出してきた。


「つかんでくれ」

「……はい」


 すると、後ろから「ヒューヒュー」「熱いねお二人さん」と、小声で冷やかされた。

 ハーシーは後ろに「うるさい」と答えた。



 心が暖かい……この世界に来て初めて、すごくいま安心している。

 みんながいれば、大丈夫……きっと今日を乗り越えられる。


 わたしは安直に、そんな風に思ってしまっていた。


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