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異世界召喚〜わたしを召喚したのはだれ!?〜  作者: RUNA
第3章 聖女としての役目
29/51

29.聖女お披露目の朝

 まだ日が昇りはじめたばかりの朝。

 わたしたちは身支度を整えて、すぐそばの護衛士館へ向かい、護衛士さんたちと合流した。


 今日ハーシーは、護衛士団長としてではなく、ジギス伯爵家子息として、王宮に行くらしい。


 仕立ててもらった真っ白な正装に身を包み、金髪が朝日にきらきらと照らされて、眩いばかりだ。



 わたしも真っ白なAラインドレスに身を包み、メリッサさんが髪をまとめて、メイクもしてくれた。


 ハーシーがわたしの手を引いて、優しくエスコートしてくれる。そんなわたしたちの姿を、まじまじと護衛士さんに見られていて、恥ずかしい。


 全員が集まるまでの間、デイヴィスがわたしたちのところに来て話しかけに来た。


「……夜の闇の中、喧嘩するのはやめてくれ」


 あ、バレてる……ということは、その後のあれやこれやも、見られてたのかな……。


「すまない……」

「見張りのやつが、止めに入ろうか迷ったそうだ。痴話喧嘩するなら、家に入ってからにしろ」


 わたしは恥ずかしさでうつむいていたけど、勇気をだして顔を上げた。


「あの……昨日は変なことを言って怪我をさせてしまい、すみませんでした」


 すると、デイヴィスは気まずそうな顔をした。


「あぁ……別に」


「デイヴィスさんに結婚してますかと尋ねたのは、デイヴィスさんが、わたしを育ててくれた養父にとてもよく似ているからなんです。

 だから、他意はなくて……不躾な質問をして、すみませんでした」


「……そうか」


「もう当分会ってないので、勝手に懐かしい気持ちになってしまって……」


 その瞬間、ハーシーがぐいっとわたしの腕を引っ張ってきた。

 体を引き寄せ、肩を抱いて、自分のものだと見せつけるようにして、ハーシーは声を張った。


「今日のお披露目が終われば、本格的にひよを、我が家へ迎える。

 聖女として……おれの恋人として、今日1日、ひよを一緒に守り抜いて欲しい」


 護衛士さんたちに、どよめきが走った。

 アパトさんやマスルさんが、パァっと顔を明るくして、小さく拍手してくれている。

 すると、遅れて出てきた先輩が、護衛士さんたちを割って前にでてきた。


「えっ……恋人……?だれと、誰が……?」

「えっと……ハーシーと、わたしが……?」


 その言葉に、彼は目を見開いた。


「は……?嘘だろ……」


「ね、嘘みたいですよね。

 っていうかわたし、まだちゃんとお返事してないんですけど……」


「どうして?昨日の夜は、あんなに……」


「ちょちょ、何言おうとしてるんですか!!」


 わたしがハーシーの口を塞ぐと、彼はふっとやわらかく微笑んだ。どこかで「おいおい、見せつけんなよ……」という声が聞こえた。


「あの、団長……ひとつ質問、よろしいですか」


 手を挙げたのは、アパトだった。


「なんだ」

「団長は以前、フィオの召喚者を探せと命じられましたが……もうそれは、見つかったのでしょうか?」

「あぁ……ひよを召喚したのは、おれだ」


 その言葉に、わたしはバッと顔を上げた。


 やっと……やっと言ってくれた……。

 わたしは、今までずっと嘘をついていたくせに、しれっとしているハーシーの顔を見て、全身の力が抜けるような感覚を覚えた。


「そうじゃないかって、ずっと思ってたけど……よかった、ハーシーで……」


 その言葉に、彼も嬉しそうに微笑んでくれた。


「ごめん……今日まで言えなくて。

 ずっと嘘をついていたのは……お前を警戒していたからだよ。ハルマサ」


 ハーシーは、呆然とわたしたちを見ている先輩をにらんだ。


「ひよは、確かにおれが召喚した……でもお前は違う。

 あの場にお前はいなかったし、おれに、2人も召喚できる魔力なんてあるはずがない。

 お前は……一体、誰に召喚されてやってきたんだ」


 その言葉を流すように、彼は小さく笑い始めた。


「ははっ……ずっとそばで、見守ってきたのに……こんなポッと出のイケメンに、心を奪われるのか……」


「先輩……ハーシーの質問に、答えてくれますか?」


 わたしが声をかけると、彼はわたしを見て言った。


「召喚された者は、誰に召喚されたか分からない。きみもそうだったろ?

 おれも、誰が自分を召喚したのか、分からないんだよ」


 穏やかに説明するその声に、わたしはなぜか恐怖を覚えた。

 ハーシーの腕に、とっさにしがみつくと、彼はぎゅっとわたしの手を握ってくれた。


「それは、本当のことか?」

「本当だよ。っていうか、えっ……恋人になったって、きみ、元の世界には帰らないの……?

 仕事も、家も、放ったらかしで……もう一生ここで過ごすのか?」


 そう尋ねられて、わたしは口をきゅっと引き結んだ。ずっと考えていたこと……言えなかったことを、ここで言おう。


「元の世界には……いったん帰りたいと思ってます。

 仕事も辞めて、部屋も解約して……ちゃんと全部整えてから、また戻ってこれるのか、今日王様に聞いてみようと思ってます」


 ハーシーが、ぎゅっと握る手に力を入れた。

 彼は、戻って欲しくないんだろう……きっと傷ついた顔をしているであろう彼を、今は見上げることができなかった。


「……戻ってこれる保障なんか、どこにもないぜ?」

「それなら、一生ここにいます。あっちにいても、わたしは一人ぼっちだったから……」

「おれがいても?」

「先輩……色んな女の子と、たくさん付き合ってましたよね?そもそも高校の時、色んな女の子に声かけてたし……ちょっとないですねぇ……」


 わたしは苦笑いしながら、今まで言いにくかったことをズバッと言った。


 別に、彼がだれと付き合うかなんてどうでも良かったけど、彼女がいて食事に誘われるのは、ちょっと気が引ける面もあった。


 いちいち「いま、彼女いますか?」「いるなら飲みにはいけません」って確認して、断ってたけど……彼は「ただの先輩後輩じゃん!」と軽く受け流していた。

 そういう軽さが、ちょっと本命にはなりにくいところだったと思う。



 先輩は、笑みを消した。

 いつも明るくて、どんなことがあっても笑ってる彼が……真顔になっているところを、初めて見た。


「……どんな気持ちで……たと思ってたんだよ……」


 彼の呟いた言葉が聞き取れなくて、わたしが聞き返そうとした。

 その瞬間、彼は腰にある長剣を引き抜いた。


「団長……!」

「いい」


 護衛士さんたちは、わたしたちを守ろうとしてくれていた。でもハーシーが断って、わたしの前に飛び出した。


 その瞬間、先輩が剣を持っている腕めがけて、ハーシーが何かを投げた。手に棘のようなものが刺さり、先輩は痛がりながらも、そのままハーシーに向かってきていた。


「ハーシー!!」


 わたしは、他の護衛士さんたちに取り囲まれて守られながら、彼の名前を呼んだ。


 ハーシーが地面を蹴って、宙で体をひねった。白いコートの裾が舞うようにたなびいて、とても綺麗……そう思った瞬間、彼は容赦なく先輩の頭に蹴りをいれようとした。


 その瞬間……とてつもなく強い風が吹いてきて、ハーシーはバランスを崩し、急いで地面に降り立った。


「やっぱり……あの時は、手加減してたんだな」


 先輩は、あの決闘のことを言ってるのだと分かった。引き分けになったあの勝負……今のを見ていると、確かに、ハーシーに1太刀でも入れられたのが奇跡みたいだった。


「屈辱だよ……好きな子もとられて、勝負では手加減されて……おれ、お前みたいに完璧なやつ、大っ嫌いなんだよね」

「かっ……完璧な人なんて、この世のどこにもいないですよ!」


 わたしはつい、口を出してしまった。


「みなさん知ってるでしょう?つい昨日までこの人、ツンデレのデレなしだったんですよ!!

 出会った時から好きだったって、あんな態度で、そんなの分かるわけないですよね!?

 しかも病みツンです!!帰りたいなら、おれを殺してから帰れって……泣いて引き止められたんですからね!!

 もう、どんだけ恋愛下手なんですか!!」


 ハーシーは、両手で顔を隠した。大勢の前で暴露されて、耳たぶまで真っ赤な彼を、アパトさんがニヤニヤしながら「え〜団長も可愛いとこあるね〜 」と、ツンツンついている。


「そうだよ……お互い興味ないと思ってたから、安心してたのに……こんなことなら、もっと早く強硬手段に出ればよかったんだ」


 先輩が、独り言のようにつぶやいた。

 そしてまた、彼の周りに風が吹き始めて……周りの砂が舞い、わたしは目をつぶってしまった。


「……王宮で、待ってるよ」


 耳元で囁かれた瞬間、目を開けると、そこに先輩の姿はなくなっていた。



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